6 やっぱり今夜も雨が降る
暗闇に、突然差し込めた光に目が
人影が光を
見やれば
違う! 其のほう、人では非ぬな。その首筋、そこに脈打つは……
『すべて忘れてしまうといいよ――ボクと一緒に行こう』
この敦盛と、ともに生きると其のほうは
肩口に鋭い痛みを覚えて、ハッと上体を起こす。だらりと
サッと
隼人を見ると、僕の代わりに掛布団を抱き締めて、そこに顔を埋めて眠っている。
そういえば、僕も今、夢を見ていなかったっけ? うーーん、思い出せない。見ていたような気もするけれど、それこそどうでもいい。夢はしょせん夢だ。
隼人を見るとよく眠っている。僕はそっとベッドを抜けて自分の部屋へと帰っていった。
忙しい、と言った割に、隼人が起きてきたのは正午近くだ。しかも寝ぼけ
「はい、砂糖五杯にミルクポーション二個。ちゃんと入ってるからね」
僕の声が聞こえているのかいないのか、カップを
「バンちゃん、誰か、来た?」
「まだ、誰も来ないよ」
「で、どうしてバンちゃんは掛布団になったの?」
コイツ、やっぱりまだ目が覚め切ってない。試しに、最近お気に入りのシリアルにたっぷりミルクをかけて目の前に置いてみる。すると頭を持ち上げてボウルの中を覗き込んだ。
「バンちゃん、これなぁに?」
「シリアルにミルクをかけたの」
「バンちゃん、ご飯はパンケーキがいい。ボク、これ、嫌い。こんなの知らない」
大丈夫か、隼人? つい心配になって
「もう少し寝ていたら?」
と言ってみる。
「ううん、バンちゃんが掛布団になっちゃったから、ボク、悲しくて眠れない――また一人になっちゃった……」
泣き虫隼人が涙ぐむ。さすがにそろそろシャキッと起こしてあげようかな。
「ねぇ、隼人」
「なぁに、バンちゃん」
「隼人、今、誰と話してるの?」
「ボク? ボク、バンちゃんと話してる」
「僕が掛布団に見える?」
「うん、バンちゃんは掛布団になった。僕を置いて行かないって約束したのに――」
ダメだ、こりゃ……僕は諦めてパンケーキを作り始める。ほっときゃそのうち覚醒するさ。
パンケーキができたので、テーブルに突っ伏して眠ってしまった隼人を起こすと標準モードに戻っていた。
「バンちゃんっ! なんでボクをこんなところに寝かせるんだよっ!」
はいはいはいはい、自分でここに来て勝手に眠っちゃったのを覚えてない? そりゃあさ、そこに座らせたのは僕だけど。ま、いっか、いつものことだ。
「怒ってないでパンケーキ焼いたから、食べなよ」
「いつものシリアルは?」
さっきので終わり、もったいないから僕が食べた。けど……
「昨日で終わっちゃった。また買っておくからね」
「そっか……バンちゃん、パンケーキ、おいしい。ハチミツたっぷり、気が利いてるね」
フフン、だてに数百年、おまえと一緒にいるわけじゃない。食べ物の好みくらいバッチリさ。さらに砂糖たっぷりのカフェオレを出せばますます隼人が上機嫌になった。
食べ終わると
「バンちゃん、テレビ見るよ――オレンジジュース、持ってきて」
冷蔵庫にあるのが判ってるんだから自分でやれよと思うけど、いつも通り僕は言えない。いつも言えない……
案の定、お昼のニュースは昨夜の騒ぎで持ち切りだ。犠牲者は七名、未だ意識が回復しないらしい。
隼人言うところのヌメヌメちゃんに関しては、ほとんどがタンパク質だと判ったようだ。一見、血液のようだが鉄分が異常に多いということで、血液ではないと判断されている。なお毒性はない。なぜ七人もの人が意識不明になったのか、意識不明のままなのかは判らない、とアナウンサーが言った。中継に
「所詮、自分の感覚を信用しない人間にはこの程度しか判らないさ」
と隼人がボソッと言う。血液ではない、と言われたのが面白くなかったんだ。
隼人がリモコンをいじって放送局を変える。今度もアナウンサーの話はほぼ同じ、ただ中継が、さっきのはヌメヌメちゃんが道に残っていたけれど、今度はすっかり洗い流された後だ。
「よくあれ、不用心に流しちゃったね」
「拙かったの?」
「どうだろ……ま、血液だし、病気が潜んでるわけじゃないから。でもさ、七人も犠牲者がいたら、人間はもっと慎重になると思ったんだよ」
隼人がそう言った時、アナウンサーが『なお、現場付近は詳しい調査が終わるまで立ち入り禁止です』と告げた。
「ふぅん……しばらく美都麵はお休みだね」
お
「
「入れなかったら、朔ちゃん
テレビは天気予報へ移っていく。
「今日のお天気お姉さんは美人だね」
昨日と同じお姉さんだ。昨日は見るなり、何だ、この不細工、って言った隼人が嬉しそうにテレビを見つめる。ちなみに隼人の発言はセクハラ始めなんでもありだ、ごめんなさい。
『今日は一日いいお天気。傘は要りませんよ』
お天気お姉さんがニッコリ微笑むと、つまらなさそうに隼人が言った。
「ただし、ここ八王子に関しては
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