断罪返しは隣国の王子と(前編)
シュメールの無実を主張する。
突然ホールに響き渡ったその声は、隣国から留学してきている王子のものだった。
「ザルツボルト王子っ?」
リッタが慌てた声を上げる。それもそのはず、隣国の王子は千花がプレイしていた『ラブぼう』では登場していなかったキャラクターだ。
次回作のキーパーソンとしてゲーム雑誌に紹介されていたのは覚えている。しかし、続編が発売される前に千花の日本での記憶が途切れていることから、内容はほぼ知らない。が、何回もプレイした一作目に出ていなかったのは確かだ。
留学してきていたことは知っていたが接点もなく、関わってくるとは思ってもいなかった。
「いやなに、私は友人であるシュメール嬢の無実を証明したくてね。今日ここで、彼女が断罪されるという話を耳にして独自に調査してみたんだ。」
そう言って彼は優雅に微笑んだ。
「どういう、ことでしょうか?」
困惑した顔で首を傾げるシュメール。
彼女の明日葉としての記憶にも、ゲーム内に隣国の王子はいなかった。
しかし、現在のシュメールの記憶にはある。確かに彼とはこの学園で友人関係を築いていた。
「まず、何だっけ? 教科書をやぶいたり、だったかな?」
「え、ええ。そう言われましたわ。」
どうやらザルツボルトは味方のようなので、何が出てくるかわからないが、シュメールは彼の発言を聞いてみることにした。
「実際に、リッタ嬢の教科書は破られている。」
「ほ、ほら! そうなのですザルツボルトさまっ」
「……しかし、目撃証言は、ないと言ったね?」
「え、ええ……気づいたら破かれていて……っでも! その女がやったことは間違いないのです!」
「なぜそう言い切れるのかはなはだ疑問だが、私の元には目撃証言があるよ。」
「えっ……」
「ふふっ、顔が曇ったね。そうだよね、自分で破いて人に罪をなすりつけて被害者面してるんだ、バレたら大変なことになる。」
「「「ざわざわっ」」」
会場中がざわめいている。
そう、リッタは悪役令嬢であるシュメールが何もしてこないので仕方なく、自分で教科書をやぶきそれをシュメールのせいにして王子に泣きついたのだ。運悪く、それを見ているものがいたということだ。
もともと無いリッタの好感度は、自作自演の暴露によりさらに下がっていく。
「そ、そんなっ……リッタ、ほんとうなのか?」
「そんなわけないじゃないですか! ラスタ様はそれを信じるのですか?」
「い、いや……」
「『すれ違いざまに脚をかけた』だっけ?」
「っ!」
さっさと次の案件へ進むザルツボルト。さらにリッタの顔が曇っていく。
「いつのことだったか、覚えてる?」
「それは……そう、あの、魔法の実演授業の時です! あのとき転ばされて、そこに魔法弾が降ってきて……ほんとうに、怖かったから覚えています!」
「ふーん? 魔法の授業中ね。……座学と違って実技は映像を記録しているって、知ってた?」
「なっ……!」
「そうですわね。のちの実力判定や復習に使うため、いつも記録していましたわ。」
「な、なんで……」
「私クラス委員でしたから。いつも準備していましたわ。」
「っ!!」
「で、問題の映像がこちら。」
壇上にスクリーンが下りてきて、会場の照明が消える。
そしてザルツボルトが合図すると、映像が映し出された。
ドーン……!
ザッ……!!
ガガーンッ!!
魔法が飛び交う演習場。
その一角がクローズアップされると、そこには魔法を的に向かって撃つシュメールがいた。
そしてその後ろにそっと近づいてきている女子生徒、リッタだ。
的に向いているシュメールはリッタには気づかない。
その後ろで、リッタが小さな炎の魔法球を上空に放つと、派手に悲鳴を上げて転んだのが映っている。
その悲鳴で初めて、シュメールはリッタの存在に気づいたように見える。
そして倒れ込んだリッタの足元に、自分で打ち上げた炎球が落ちてきて土が舞い上がり、それをリッタがかぶった。
「これのどこが、『転ばされて魔法弾に当たりそうで怖かった』だい?」
「…………」
「自分で転んでいるよな……?」
「ああ……魔法も、自分で、」
「当たっても大丈夫そうな弱い……」
「威力のないものを……」
「そして、『呼び出して噴水に突き落とした』。」
「そ、それはほんとうよ! シュメールに呼び出されて行ったの……噴水前に……それで……」
「それは、ねぇ。じゃあほかのものは嘘だったと認めるということでいいかな?」
「なっ……!」
「まあいいよ。噴水の件だね。」
反論に対応するのが面倒とでも言うように、次の#いじめ__・__#に進んでいく。
「噴水に呼び出されたのよ! これが、証拠のカードよっ」
リッタが取り出したカードには、
『お話があります。15時に噴水前で待っています。シュメール・イスナー』
と、ある。
筆跡は確かにシュメールのものだった。これは流石に言い逃れられないだろうと、リッタの追求は力強くなっていく。
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