押し問答、勝つのはどっち?
自身の断罪式の真っ最中、シュメール・イスナーはなるべく自分が被害者に見えるよう悲壮感をたっぷり纏って王子とリッタに向き合っていた。会場からはすでに、シュメールに同情的な声が多い。冤罪ではないのか、侯爵令嬢がそんなことするわけない、と。
「ほんとうに……私はそんなこと……リッタさんの勘違いではございませんの?」
「勘違いだと? そんなはずはない! お前がリッタをいじめていたのは間違いないのだ!」
「……いつですか?」
「なに?」
「いつ、私がいじめたのですか? 殿下はそれをご覧になりましたの?」
瞳に涙を浮かべながら王子を見つめてつっ込んだところまで聞いてみる。
「いつ……? ……リッタ、いつのことだ。」
「えっ? あ、えーと、気づいたら教科書が破かれたりしているのです!」
「気づいたら……?」
「そ、そうよ!」
「それならなぜ、私がやったと……?」
「そっ……ほ、ほかにいないでしょ?!」
「ほかにいないと、なぜ私なのですか?」
「なっ、だ、だってそれは……そう、王子と私が仲いいから! 嫉妬して」
「嫉妬して……。なぜ、リッタさんは、王子と仲がいいと私が嫉妬すると思うのですか?」
「それは、当たり前じゃない! あなたは王子の婚約者でしょ?!」
「そう……当たり前のことですか。ではなぜ、あなたは王子と仲良くするのですか? 私という婚約者がいることがわかっていて、なぜ?」
「そっ……それは……仕方ないじゃない……う、運命の人に出会ってしまったのだから!」
「リッタ……!」
質問攻めにしていくと、あっという間に言い負けているが、テンプレの『運命の出会い』で押し通すつもりのようだ。受け答えはめちゃくちゃだが何かしらの強制力が働いているのか、王子はリッタの言うことだけを信じて疑わない。
これはこのまま退場して親に泣きつくほうが確実か、とシュメールは、いったん受け入れてこの場を去ることにした。王子とは別れてもいいのだ。家の取り潰しというような話は出ていないし、国外追放は面倒なことになりそうなので御免だが。
「わかりました……。殿下が運命の出会いをされたのでしたら私は身を引きます。」
「そ、そうよ、わかればいいのよ。」
あまり頭が良くないのか、口が回らないリッタはシュメールが引いたことで安堵した様子だ。
それでそのまま退場させておけばいいものを、王子がそれを引き止めた。
「まて。まだ謝罪を聞いていない。」
「お、王子……!」
余計なことを、と顔に書いてあるリッタ。実は彼女も、シュメールの予想通り転生者だ。
生まれ変わる前は明日葉と同じく日本に住んでいた。高校生で、クラスのカーストの下の方にいるような陰キャだったのだ。
勉強も容姿もパッとしないし趣味もない。友達はいたが、休日にまで出かけて遊ぶなんてこともなく、学校外ではただただネット小説を読んで時間を潰すかダラダラと寝て過ごしていた。
そんなリッタの前世、#近道千花__こんどうちか__#の人生を変えたのが、乙女ゲームの存在だった。
きれいにかっこよく描かれている男性との疑似恋愛ができる乙女ゲームは、千花の理想そのものだった。
特にハマったのが『学園ラブ冒険!~あなたと恋愛冒険乙女~』略して『ラブぼう』。この世界の王国貴族学園が舞台になっている乙女ゲームだ。
攻略対象者は10人と多かったが、千花の推しはこのラスタ王子だった。
流石王子なだけあって、ハッピーエンドの条件がとても厳しい。パラメーターも最上級、クリアするには全イベント制覇が必須の難易度鬼クラスだ。
そんな王子を、千花は何度も攻略していた。日本では所詮ゲームなのだ。やり方さえ知っていれば攻略も簡単だ。
しかし、この世界では違っていた。
リッタとなった千花はその美貌に胡座をかき、ストーリーがあるのだからヒロインである自分が選ばれないわけないと努力を怠った。結果、パラメーターは全然足りていないし、生徒たちからの信頼もなかった。
それでも王子ルートを無理やり通りシュメールを断罪するまでいたったのは、そう、つまり、色仕掛けをしたのだ。
この世界では淑女は結婚まで体を許すことはないし、気軽に体に触れたりキスをしたりなんてもってのほかだ。
そこで、リッタは女に慣れていない王子に擦り寄り篭絡していった。
「ラスタさまぁ……ねえ、リッタとぉ……」
「な、なんだ!」
「ふふっ」
初めは戸惑っていた王子だったが、女性に触れるというのが、触れられるというのが気持ちいいものだと知りどんどんのめり込んでいく。
「とってもやわらかいの。ほら。」
「う……うむ。」
「どうぞ、触ってみて?」
「お…………おお……」
「ほら、こっちも。」
「ああ……」
「私も触れていいですか?」
「む?」
「こ・こ。」
「ふぁうっ!」
「あら、ダメでしたか?」
「い、いや、突然で驚いて……い、いいぞ。触ってみろ。」
「ふふふっ」
そうしてどんどんエスカレートしていき、2人は婚約者でもないのに婚前交渉をしてしまったのだ。
王族が、結婚もしていないのに種をまくなどあってはならないことだ。周りに知られれば大変なことになる。しかし2人はそれをやめなかった。王子は快楽に溺れていたし、リッタは王子妃、ひいては王妃になるという野望があったから。
だから無理やりこぎ着けたシュメールの断罪。これを失敗するわけにはいかないのだ。
「ラスタさま、私はもう謝罪は結構ですわ!」
「な、なに? いいのか?」
「はい。退場してくださるというなら、早く出て行ってほしいです!」
「そうか、顔を見るのもつらいのだな……。よし! シュメールよ! 早く出ていくのだ! 国外追放に関してはのちほど知らせる!!」
「…………失礼いたしますわ。」
そうしてシュメールがホールから退場しようと礼をしたとき、それを止める声が朗々と響いた。
「シュメール嬢の、無罪を主張する!」
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