第5話 小麦の収穫と私達の約束&カリンルカ王国軍の出陣
私の19歳の誕生日から数ヶ月が経過した。
季節はまた夏になっていた。
私はウラジーミル王子と共に小麦畑に来ていた。
そこにはしっかりと小麦が実っていた。
豊作とまでは行かないが十分な収穫が見込めるだろう。
私は興奮しながらこう言った。
「やりましたね!ちゃんと小麦が実りましたよ!」
ウラジーミル王子は冷静にこう答えた。
「ああやったな。まだまだ課題はあるが大きく前進したと言えるだろう」
私達は農夫達の協力を得て小麦を収穫した。
量はそこそこだったが質はイマイチだった。
それでもこの国で小麦を栽培できるまでに品種改良は進んだのだ。
私達の努力が形になったのを見て、皆で喜びあった。
でもウラジーミル王子は浮かない顔をしていた。
私はこう尋ねた。
「ウラジーミル王子はどうして嬉しそうではないのですか?」
彼はこう答えた。
「すまないナタリー。豊作になったら結婚するという約束を果たせなかったよ」
どうやら去年の約束を守れなかったと落ち込んでいるみたい。
私はこう言った。
「大丈夫です。私は何年でも待っています。貴方の夢が叶うのを」
それを聞いた彼は、私を抱きしめてきた。
私は驚きながらこう言った。
「ど、どうされたのですか。ウラジーミル王子」
彼はこう言った。
「僕は君の事が好きだ。それは親が決めた婚約者だからでも、カリンルカ王国の第一王女だからでも無い。一人の女性としての君が好きなんだ」
その言葉を聞いて私はとても嬉しくなった。
彼が私の事を愛してくれているのが伝わったからだ。
それに私も彼の事を愛しているのがはっきりと分かった。
私は迷わずに笑顔でこう答えた。
「ありがとうございます。私も貴方の事が大好きです。勿論一人の男性としてです」
すると彼は涙目になりながらこう言った。
「約束を果たせなかったけれど、もう来年まで待てないよ。僕と結婚してくれナタリー」
私は泣きながらこう答えた。
「はい勿論です。ずっと一緒にいてくださいね」
彼はこう言ってくれた。
「ああ約束だ。僕達はずっと一緒だよ」
それから約半月後。
私達はささやかな結婚式を挙げた。
ヴァルイリス国王様や大臣は盛大な結婚式を希望していたけれど、
私達にはささやかな結婚式の方がふさわしいと言って譲らなかった。
その結婚式はヴァルイリス城の中庭にある小さな畑で行われた。
私達はヴァルイリスの王族や大臣だけでなく
お世話になった農夫や植物学者も招待した。
大臣はこうボヤいた。
「王族の結婚式なのに隣国の王族を招待しないなんて前代未聞ですぞ」
でも最終的には認めてくれたし悪い人じゃないみたい。
私とウラジーミル王子は神父様の前で愛を誓い合った。
プロポーズの時は泣いてしまったが今回は泣かなかった。
結婚式の後にウラジーミル王子がこう言った。
「僕達は夫婦になったんだから、これからはウラジーミル王子と呼ぶのは止めてくれないか?」
私はこう答えた。
「分かりました。これからはウラジーミルさんとお呼びします」
でも彼は顔をしかめながらこう言った。
「うーん。まだ固いかな。できれば呼び捨てにしてくれないか?」
私は緊張しながらこう答えた。
「わ、分かりました。なるべくウラジーミルとお呼びします……」
私の顔は多分真っ赤になっているだろう。
やっぱり呼び捨ては恥ずかしい……。
でも彼の希望には応えないと!
すると彼は笑顔でこう言った。
「うん。これからもよろしく頼むよ。ナタリー」
その笑顔を見た私は恥ずかしくなって俯いてしまった。
こんなので一緒の部屋で眠れるのでしょうか……?
そう不安になった私に彼はこう言った。
「大丈夫だよナタリー。僕に任せておくれ。今夜は君を精一杯愛してあげるよ」
その大胆な発言に対して私は黙って頷いた。
それから私は彼と共に一夜を過ごした。
あの夜の激しい体験は一生忘れられないだろう。
彼に愛されて私はとっても幸せだった。
ーーーーーー
一方その頃。
カリンルカ王国を出発した王国軍が
隣にある小さな国のラナキタク王国を侵略する為に動いていた。
軍を率いているのはローズマリー第二王女とその夫のアレックス王子だ。
彼らはカリンルカ国王の命に従って行動していた。
国王が命令を下した理由は明白だった。
跡継ぎとなる息子が産まれるかもしれないから
邪魔な入婿を王都から追い出そうという魂胆だ。
だが産まれたのが娘ならば呼び戻すつもりだろう。
カリンルカ国王はとても狡猾な策士だ。
大国の長はそれにふさわしい頭脳の持ち主であった。
アレックス王子はとても不機嫌だった。
それは命令の意図を理解しているからである。
カリンルカ国王は跡継ぎとして自分を婿に迎えておきながら、
王妃が懐妊したと分かったら邪魔者扱いしてきているのだと。
だが産まれるのが王女であれば問題は無い。
その場合は自分が跡継ぎになれるだろう。
アレックス王子はそうも考えていたので
表面上は国王の忠実な部下を演じている。
それに加えて妻のローズマリーを愛してるふりをしなければならないので
彼のストレスは溜まる一方であった。
そんな彼にとって戦場はストレス発散の場にもなるだろう。
流石にカリンルカ国王もそこまで計算している訳ではないだろうが、
全ては国王の思惑通りに動いていた。
そして王国軍は国境の近くに辿り着いた。
これから戦争が始まる。
結果は分かりきっている。
勝つのは、カリンルカ王国軍だ。
ーーーーーー
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