第3話 謁見後

謁見が終わった。いやぁ、寝床として一部屋宛がわれたが、それが凄い。



 まずドアに使われているのが上質で暗い木目調の素材だ。異世界である以上安易に何の種類の木材かを決めるのは尚早だが非常に美しい。



 この国の文化は非常にセンスに溢れていて、レベルの高い職人がいるのだろう。



 また装飾はあるが最小限で、部屋の内部の大きさと上品さがすでに伝わる。



 ドアを開けるとまずシャンデリア、ソファー、ベットが目に入る。これは現代の最高級のホテルとなんら遜色のない部屋だ。



 何歩か進んだ所にあるソファーに腰掛ける。



 おお。自然と沈みこむ感覚。素晴らしい。



 日本でなら100万は下らない上質な生地を感じる。



 ふと目を上げると、目に優しい色をしているシャンデリアが垂れ下がっている。



 これは侍女に聞くと魔道具と呼ばれるものらしく、遠隔で操作が出来るのだという。凄い技術だな。ご飯は用意されるらしく国王と同席できるらしいので2時間ほど休むことが出来る。余談だがこの国では24時間制を採用しているようだ。太陽の沈みかたをみても体感それぐらいだと思う



 いやあ転移か、、、。まさか自分がこのような経験をするとは思っていなかったから未だに実感がわかない。



 謁見はしたがこれからの事は決まっていないし、この世界のことも何も分かっていない。



 これから大丈夫だろうか。



部屋中を隅々まで探索していると世話係らしき人が戻ってきた。名前はリズというらしい。20代前半ぐらいの女性でとても綺麗だ。彼女が護衛兼世話係のようだ。年上のお姉さんだが護衛もできるのか…



「ご案内致します」と言われたのでついて行く。



 廊下も広いな。



 そして豪華な絵画が壁に飾られている。こちらの世界も芸術が発展しているようだ。


 そんなことを考えながら歩いていると一つの扉の前で立ち止まった。



「こちらのお部屋にございます」



 そう言って扉を開く。



 中に入ると大きなテーブルと椅子があった。そこに座るよう指示されたので素直に従う。



「失礼いたします」と言ってお茶を出してくれた。



 ああ落ち着く香りだ。良い茶葉を使っているのだろう。



「ありがとうございます」「いえ」と短い会話をして彼女は去っていった。



 さてどうしようかな。



 とりあえず出された紅茶を飲みつつ考えることにした。






 数分後、ノックが聞こえた。



 返事をする間もなく入ってきたのは国王だった。



 しかし極僅かに違和感を感じる。



「待たせてすまないね」と言いつつ席に着く。



 その後ろには王女もいた。



 国王らが席につき食事が運ばれてくる。



 しばらく一つ深呼吸をして気になったことを聞く。



「つかぬ事をお聞きしますが、謁見の際の陛下は影武者ではありませんか?」



 何故そんな事を聞いたか。



 理由は三つほどある



 一つ目は目を覚ました時の違和感だ。まず何故起きた瞬間に王族が目の前にいるのだろうか。異世界転移ものでは初期地点はよく謁見の間に転移することが多い。



 だが現実的に考えて危険ではないか?異世界人が予想もつかない理不尽な能力でいきなり激高して王や王女を殺すかもしれない



 と考えると王が殺されても良い。殺されない程の自信がある。ということが分かる。



 次に謁見が終わった時だ。普通権威のある人間が先に退出するのが世界的に共通する。しかし俺を先に寝室に送り届けた。



 密会している可能性が浮上した。



 最後にこの食事会だ。普通異世界に転移された人、しかも大けがを負った人間は基本的に部屋で静かに食事させるだろう。



 余程、俺の事が本物の王様は気になっているのだろう。



 国王は少し驚いた顔をして「ほう」と言った後、「まあその通りだよ」と答えた。



 やっぱりか。



 異世界人だからといっていきなり国家元首に会わせるわけがない。



 予想通り俺の危険性と有用性を確かめるためだそうだ。



 その後話を聞いて分かったことは、この国は建国500年を迎えようとしていること。



 魔法が使える人が多く、人口も多いこと。魔物などの脅威はあまりないこと。



 また国民は皆仲が良く、国を発展させるために日々努力していることなどがわかった。



 周辺の国家との関係も良好であることも分かった。



 一番重要なことは魔道院の見解では俺が元の世界に帰る手段はないということだった。



 心残りは死ぬ気で受験をして世間でいう一流の大学に合格したのにキャンパスライフが送れなかったことだ。



「なるほど。お話は分かりました。しかし帰ることが出来ないとなると、この世界で生きていくしかないということですね。」





 晩餐では素晴らしい食事の数々、ふわふわのパンに一級品のバターを塗り、丁寧な味付けの鶏のソテー。新鮮な野菜。



 また機会があれば王族の食事に参加したい。



 何事もなく会食が進んだ。



 影武者がバレたことでその場で切られるかと思ったが意外にも無事だった。



 まあそれだけ余裕がある訳だろう。



 意外というか今いる場所はお城ではないそうだ。ベルサイユ宮殿のような構造になっているようだ



 異世界の王族は外見以上に実用性重視だということが分かった。



 もちろん大国相当の文化的価値があるような広さと芸術性を兼ね備えているが。



 侍女に質問攻めをしてこの建築物の概要を聞けば、Πの形をしているようで中心部には王の執務室や王族が生活するようになっており、ダンスホールや先ほど行った食堂、会議室、来客用の寝室などで挟まれている。また右翼、左翼には王国軍の司令部、魔道院が隣接しているようだ。



 なるほど王を守るために戦力を割いているのは割と合理的だ。



 そんな事を考えながら浴場にいく。脱衣所で服を脱ぎ籠に入れる。そばにあるローブに出たら着替えろということだろうか。



 中はローマ調の彫刻がされている極めてロマン溢れる作りになっている。



 王族の使用時間、客人の使用時間、使用人の使用時間の順になっているらしい。五つほど洗い場がある。



 新品だろう石鹸を渡されていたのでそれを使う。いい匂いだ。



 もちろん石鹸で頭まで洗い浴槽に入る。龍を形どった蛇口からお湯が沸き出ている。



 恐らくこれも魔道具が使われているだろう。 



 異世界初日は疲れたがおそらく現代でも通用するふかふかのベットによって非常に良く眠れた。


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ベルサイユ宮殿

ルイ14世が建造した宮殿である。宮殿内には地方の有力貴族の居住空間も用意され、権力の一極集中を実現していた。そのため、フランス絶対王政の象徴的建造物ともいわれる。宮殿はルイ14世をはじめとした王族と、貴族たちが国政を議論する場であり、時には社交場でもあった。その結果様々なルール・エチケット・マナーが生まれた。それの中に今につながるものもあるという。(Wikipediaより)

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