忍びよるグリーンスライムの恐怖



 なんでもオバケだと思う僕。

 なんでもファンタジーにしたがる三村くん。

 ただひたすら、おびえる蘭さん。


 みんな、ポンコツだ。

 やっぱり探偵を任せられるのは兄ちゃんしかいない!

 だけど、猛はアクビを連発してる。


「とりあえず、明日にしようぜ。眠いよ」


 ダメだ。探偵が事件から離脱した。


 僕らは怖がる蘭さんをなだめすかし、一階の居間で仕事してもらうことにした。三村くんは猛の部屋に強制移動だ。


 朝になった。

 夜中にとびおきたせいで眠いのなんの。

 僕は急いで洗濯機をまわしといて、トースト一枚かぶりつく。


「兄ちゃん! 洗濯おわったら、ちゃんとベランダに干しといてね!」

「わかった」

「じゃ、行って——」


 いや、まだだ。バラに水やってなかったな。ベランダに置いてある植木鉢のミニバラだ。去年、カナブンに根っこ食われて、ひと鉢、枯らしてしまった。めちゃめちゃ悲しい。残る一つは大事にしないと。


 僕は出勤前のあわただしさのなかで、ジョーロに水くんで階段をかけあがった。

 バラは水やりが肝心だ。水と肥料が大好きなので、毎日かかせない。それにけっこう虫が集まってくる。


 今日も見といて正解だった。カナブンが咲きかけの花をかじってる! クソ! カナブンめ! イズミ(枯れた鉢)のかたき!


 花が咲くと蝶やミツバチも来るし、カエルやてんとう虫も、よく見かける。今日はカエルはいないな。てんとう虫はアブラムシ食べてくれる益虫なんだよ〜。


 僕はにっくきカナブンをビニール袋に入れて、ゴミ箱にほうりこんだ。害虫は駆除しないとね。


「じゃ、行ってきまーす」

「かーくん。帰りにバルサン買ってこいよ?」

「はいはーい」


 って言ってたくせに、その日は仕事がバカみたいに忙しかった。すっかり忘れるもんだねぇ。人間ってさ。


「かーくん、お帰りなさい! バルサン買ってきた?」


 玄関入った直後に、蘭さんのお出迎え。


「あっ……ごめん」

「忘れたの?」

「ごめんよぉ。明日はお休みだから、猛と買ってくる!」

「……しょうがないですね」


 なんとも無念そうな蘭さんの顔を見て、僕は励ました。


「でもさ。ほら、グリーンスライムにはバルサン効かないかもだし?」

「そうですねぇ。そもそも、この世にスライムなんているの?」

「でも、スライムっぽいものを見たって言ったの、蘭さんだよね?」

「うーん。けっこうすばやかったし、机の下、のぞいたときには、影しか見えなかったんですよね」


「昼間は出たの?」

「そんなわけのわけらないものがいる部屋なんて、じっとしてられませんよ。今日は猛さんの部屋で寝ました」


 すっかり猛の部屋が雑魚寝ざこね所に。


「猛。洗濯物、とりこんでくれた?」

「あっ、すまん。まだだ」

「ええー! ダメじゃん。夜になると湿気吸うんだよ」

「すまん。すまん」


 僕は急いで二階へかけあがった。いつもなら、蘭さんの部屋は通らない。けど、外がすでに暗くなってるし、蘭さんは下にいるから近道して通らせてもらうことにする。


 僕は照明のリモコンを手にとった。魔改造されて、蘭さんの部屋だけグレードが高い。明かりをつけた瞬間だ。


 ピュン——


 へっ? と、とんだ!

 部屋のすみから物陰へ、何かがとんだ。


 グリーンスライム……。

 ほ、ほんとにいたのか!

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