第23話 私の選択肢


 私は少し休みたいと言い、祖父の家の一室で横になりました。


 祖父とソレッキ先生は、そのあとに、ずっと話し合い続け様々な専門家や関係機関にも連絡していたようでした。


 私は考えました。祖父も、ソレッキ先生も、世界のために、無碍に私の命を差し出せとは、言っていないし、そういうつもりもないと思いました。私と、この子を全力で守ろうとしてくれるだろう。しかし、ほかのもっと権限を持った人たちと話し合いがもたれたとき、どうなるかと考えました。


 まず、果たして、権限を持っている人たちが、この異常な事態を理解してきちんと対策できるのだろうか。それの実行を移すのにも、とても時間がかかるだろうと思いました。


 私が子どもの頃に流行った、パンデミックでも、当時の大人たちは無理解から、考え方が割れ、深刻な対立をしたのをよく覚えています。


 感染していない多くの人は、感染した人、感染の恐れがある人を無碍に扱ったことも、よく覚えていました。


 寄生生物よりも、人間の無理解の方が遥かに怖いのです。


 私と子どもは、どういう扱いを受けるのか。


 差別の話を別にしたとしても、わけのわからぬものに感染をした小娘と子どもの命より、もっとたくさんの人々の命を守るために力を尽くす事の方が、責任ある立場の人にとっては正義でしょう。


 正しい人々は、私と子どもに対して選択肢を与えてくれないだろうと思いました。


 私の話を理解し、信じて、どうしたらいいか懸命に考えてくれている祖父とソレッキ先生を裏切るのは、断腸の思いでしたが、私は、石を持って、祖父の家をこっそり抜け出しました。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る