第22話 遺跡の隠された場所

 ソレッキは続けました。


「盗掘者たちが遺跡でヌープに襲われたタイミングが気になる。


父が死んでから、私は、あの遺跡を調べ続けた。当然、遺跡のあちこちに手を触れている。しかし、ヌープに襲われていない。


その盗掘者たちは、遺跡の敷地内で鍵の石を持っていたのにもかかわらず、ヌープに襲われた。


遺跡の敷地内で、石を持っているのに、襲われているということは、石があるだけでは、効果が無いということだ。


遺跡のヌープは、動物に感染したヌープの幼体と違って、鍵の石の働きだけでは、止められないのではないだろうか。


遺跡のどこか、特定の場所に石を据えなければならないのではないか?


しかし、その鍵の石が、遺跡のどこにあったのか、場所がわからない。遺跡といっても、相当な広さだ。その石を遺跡にただ置けば、ヌープは眠るのだろうか。私は違うと思う。


父は私よりもっと前に、ヌル遺跡の研究をしていたが、こんな石の事を記録に残していない。私もこの石板の絵で見ただけで、実在するとは知らなかった。


これだけ、目を引く石だ。もし見つけていたら、父も記録するだろうし、私が見つけたとしても知らずに遺跡の外に持ち出していたかもしれない。


どこにあったのか。その場所がわからない。


父が死んで、他の隊員が、なぜ消えたのか。それと関係ありそうな気がする」


 私は言いました。


「ヌープが遺体を全部食べてしまったんじゃないの?」


 祖父は、首を振りました。


「いや、それだと辻褄が合わない。なぜ、ソレッキ先生のお父様の遺体だけ、あったのだろうか?」


 ソレッキは言いました。


「そうなんだ。だから、あくまで推測だが、あの遺跡には、隠された扉や通路か何かがあって、その中に、ヌープの子守歌を大音量で発生させるために重要な何かがあるのではないだろうか。そこに父たちは入っていった。そこで何かが起きた。父だけが、隠し扉を出る事ができて、そこで力尽きた。盗掘者も、その隠された通路を見つけて、入っていった。父の調査隊の時は、石は持ち去られなかった。しかし、盗掘者は鍵の石を戻さずに持ってきてしまった。だから、遺跡でヌープに襲われた」


 祖父が言いました。


「ジーザス! 遺跡に鍵の石を戻すにしても、化け物がうようよいる中で、隠し扉まで探さなくてはいけないのか!! あの遺跡ごと、軍の空爆で焼き払えないだろうか!」


 ソレッキは言いました。


「それはダメだ。スギナという植物がある。ツクシと呼ばれる状態もある、かわいい植物だが、地獄草とも言うそうだ。ヒロシマが核兵器で焼き払われたときも、地中深く根を張っていて、スギナはいち早く芽を出したそうだ。


どういう仕組みで、遺跡が、ヌープの活動を抑えていたか。ヌープが、遺跡の内部や周辺にどういうふうに広がっているのか。もっと確実な把握ができない限り、その方法は取れない。


ヌープを抑える仕組みが破壊された上に、ヌープの一部が生き残って増えてしまう可能性がある。


今、唯一できそうな事は、遺跡の動力部を特定して、鍵の石を戻して様子を見る事だと思う。ヌープが土に反応して広がる可能性がある話も、非常に気になる。封印が解けて、これだけ期間が経ってしまった。既に手遅れになっていないだろうかとさえ思う。石を戻す方法だけでなく、この生物を抑える複数の手立てを、考えなければならない。


生物災害は、後手に回ると手がつけられなくなる。時間が、いくらあっても足りないくらいだ」


 私は叫びました。


「ちょっと待って! 遺跡にこの石を戻したら、私はどうなるの? 私だけじゃない。私のお腹の子は? そんな山奥でしかも化け物だらけの場所で、出産したり、生活を続けたりなんかできないわ! ねえ、誰が私と子どもの命を保障してくれるの!?」


 ソレッキと祖父は、黙り込みました。


「ねえ! 世界の平和のために、私も、この子も死ねっていうの!?」


 ソレッキが言いました。


「これは、あくまで私の考えで、仮定に仮定を重ねた、ただの推測だ。鍵の石も本当に、君の中のヌープを抑え込めているのか、それもわからない。君を救うほかのやり方もあるかもしれない。


私なんかよりもっと、いろいろな分野に詳しい人たちと、じっくり、話し合わなければならない。世界のためだけじゃない。君とお子さんの未来のためにも」


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