第16話 幕間 ~砂漠

 祖父の家は、何百キロも離れている。移動手段を確保しなければならなかった。祖父に本当の事を言ったとしても、デソーサと同様、気が狂ったと思われるだろうか。

 自分の車は乗り捨てた。自分に嫌疑がかかっているかどうかはわからないが、用心するのに越した事はない。

 スマホも記憶媒体を取り出して捨てた。位置情報で追跡されるかもしれない。

 警察で本当の事を言ったとしてもやはり「精神を病んだ者の妄想」としか思われない気がする。州を跨げまたげば、連邦警察の管轄になり、捜査の進行を緩める事ができるかもしれない。祖父の家に着いた所で、警官隊に取り囲まれたら、それは、もう運命だ。


 アントニオは、ちゃかした会話をするが、必要以上余計な詮索をしなかった。適当な陽気さで話してくれていたので、アイリスにとっては、とてもありがたかった。

 窓の外の礫砂漠れきさばくを見ながら思った。

 自分は、どこまで行けるのだろう。

サボテンを見るだけで心がざわざわする。以前は、植物を見るのは、癒しだった。それが……あの酷い出来事を思い出しそうになる。植物を見ているだけで危険なことなんてあるはずがない。しかし、あるはずのない事ばかりが起きてもう耐えられない。

 外の景色を見ていたアイリスは、目を見開いた。砂漠のサボテンに次々と紫の花が咲き始める。それが次々と歩きはじめた。無数のサボテンたちが走りだし、こちらへ向かってくる。

 アントニオが悲鳴を上げて、トラックのスピードを上げた。

 胸が苦しくなった。アイリスは胸を押さえた。ああ、ダメだ! 自分の胸を突き破って、白い植物の芽が出てきて、アイリスも叫び声を上げた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る