第17話 幕間 ~夢 

「おい、大丈夫かい?」

 アントニオが、心配そうな声で言った。

 アイリスが、夢から目覚めた時、まだ、トラックは走っていた。

「ごめんなさい。悪い夢を見たの……」

「悪夢って嫌だよなー 寝た気がしねーし。悪夢とは違うんだが、俺も妙な夢を見る事ってあるんだよなー」

「どんな夢?」

「妙なリアルな夢だ。

夢って、普通はぼやーっとしてるだろう? 

それがさ、くっきりはっきりしてるんだ。

こんな夢を見たことあったなあ。

カミさんが、娘を遊ばせてたんだ。夢の中で、娘が、青い風船を持ってて、きゃっきゃして、凄い嬉しそうだった。それが、突然、ブロック塀が倒れて、ドン!って カミさんも、娘も下敷きになった。土煙が上がる。そして、ゆっくり風船も空へ上がっていった。もうびっくりして、汗びっしょりで目が覚めたね。

数日後、仕事が休みの時に、外でぼんやりしてたら、近所でカミさんが、娘を遊ばせてたんだ。娘は、青い風船を持ってた。大きなブロック塀の前だった。

あ、っと思った。

俺は、走っていって、カミさんと、娘の手を引っ張って、その場を離れた。ブロック塀が突然倒れて鈍い音がした……いやー、あんときは、びっくりしたね」

 アイリスは、アントニオの顔を見た。


 アントニオは続けた。

「昨日も、そういう妙なリアルな夢を見たんだ。あんたそっくりの顔を……いやーあんた、そのものだな。夢に出てきてさ。赤ん坊を抱いて、凄く必死な顔しててさ。道路で手を挙げてたんだ。一瞬、俺は、偽装かなと思った」

「偽装?」

「いいとこのねえちゃんだったら、経験ないだろうな。嫌な時代でさ。人の善意を利用して隙を作るために、赤ん坊抱えてるように見せかけたり、障害者を装って近づいたり、そういう腐りきった強盗がいるのさ。そういう奴は地獄へ落ちろって思うね!

でも、勘が鋭いのか、俺、そういうの見ただけでわかるのよ。そのねえちゃんは、ただただ、本当に困ってるだけだってわかった。だから、そのねえちゃんを乗せてやったら、無茶苦茶、夢でお礼を言われたのよ。

そしたらさあ、赤ん坊はいないけど、夢でそっくりのねえちゃんが、本当に、今日、道路で手を挙げてるのに出会っちゃったじゃない。

乗せてやるかなあって思ったのさ!」

 アイリスは、本当に、本当に、久しぶりに微笑んだ。

「私、妊娠してるの……」

「おや、まあ! それは、おめでとう!」

「ありがとう」

 アイリスは言った。

 トラックは、走り続けた。目的地に着いた時、トラックを降りようとしたアイリスに、アントニオが手を貸してくれた。アイリスは、うっかり手を握ってしまった。

「あ!」

何も起らなかった。

 アイリスは、ほっと、ため息をついた。私の中の怪物は眠り続けているようだ。

「どうしかしたのかい?」

「いえ……アントニオ、本当にありがとう」

「どういたしまて~! 神のご加護を~!」

「アントニオ、あなたも……」

 アイリスはアントニオのトラックが見えなくなるまで、見送っていた。

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