003_京の後半出てこないのは大坂城で療養してたから?!

宗ちゃんです。サクラ堂です。


今回は宗ちゃんの京の後半…

頭いかれる寸前の話を紹介しようかな(笑)


まずはその頃の話から

===================================


濁り水、ゆきばを失う


 京に来て三度目の夏が過ぎた。

だんだんと多忙になる日々。

ゆるりと京見物をしようって物見遊山な状況ではなく

下手に歩けば客がくる。俺の命を欲しがる客が来るようになった。


 有名になった訳ではない。

ただ対立するものを仕留めれば手柄になるご時勢らしい。


 命よりも大切なものを失った今、

我が身がどうなろうと一向にかまわないと思う。

が…俺にも誇りは残っていた様で、そう簡単には負けやしないし

負けたくはない。

生来の負けず嫌いがこんなところで延命させる。

皮肉なものだと思った。


 長い間、時を共にしたした人を我が手にかけた。

仕方がないこと。そう諦めて日々暮らした。

別れさせられたのも仕方がないこと。そう諦めたらいい…

この往生際の悪さを、人は未練というらしい。


そうはいっても日々の生活は出来ている。

辛く悲しい出来事は忘れてしまおう。


宴席で久しぶりに三味をみた。

以前は花街で毎日の様に弾いていた三味をとった。

久しぶりの撥。手になじむ棹。


いざ弾いてみる。思う音が出ない。


一番明るい音を出してみよう。



音はでる。

ただの音として聞くなら、それで良かった。


でも、三味には心が乗る。

意識しなくても、見せたくなくても心の内が出てしまう。



今の俺の音は悲しみと、辛さと、やけっぱちと…

ありとあらゆる不快なものを含んでいて

とても聞けたものではなかった。


こんな音を伊豆や花街の連中が聞いたらどんな顔をするんだろう。

特に伊豆からは「何をしてきた!」と叱責されそうだ。


技ではなくて、心が死んでいる。

こんな音で江戸に帰っても、花街で三味は弾け…


いや。花街には戻れない。

花街どころか江戸に帰ることすら許されないらしい。


ましてや秀穎と会うことは、もう一生かなわない…

心の拠り所、心から甘える場所も、自分をそのままでいられる場所も

失った。心が休まる場所はない。


そして、山南さんの介錯。

下手な奴にさせる位なら、俺がすると自ら志願した。

無事に役目も果たした。これで良かったと思う。

いや、そう思いたかった。山南さんを通して斬ったのは俺自身だ。

自分に断罪を。そう叫びたかった。

いや、それさえ逃げかもしれない。あっさりと逝くことは贅沢で

もっともっと苦しむべき人間なのかもしれない。

どれ程の水で清めても手遅れな程に修羅に堕ちていく。

もう人の姿をとどめていないかもしれない。


こうして、どんどんと秀穎から遠のく。俺にとって

秀穎は清められた美しい場所だった。結界の奥の神社の様に凛とした穢れのない場所だった。その清らかさに何度癒されたことだろう。


秀穎がいたからこそ、人としての心を取り戻すことが出来たというのに。

一番大事なものを失った… いや奪われた。


こんな俺に三味を弾く資格はない。

こんな俺の三味を聞かせるわけにはいかない。


この日、俺は二度と三味は持たないと決心した。

そして、修羅は続く。地獄の底に飲み込まれる生活は続く。


もう、どうでもいい。堕ちるところまで堕ちてみるよ…

自分を救う道などどこにもないのだから…



===================================


さて、宗ちゃん やけっぱちだよねぇ~


だってもうどうでも良くなったんだよ。生きてる意味もないし。


伊庭さんに会えないのが一番の原因だろうけどさ、その他には山南さんの介錯?


その後、江戸の周斎先生が亡くなっても帰らせてくれなかったことがとどめだったね。俺にとっての心の拠り所全てが無くなったんだから。


この後から本格的に狂うんだよね。


だって狂うというか全て感じなくしたら楽なんだもん仕方ないだろ。


歳さんの「総司が壊れた。使いものにならない」っていう発言と

伊豆の「心を閉ざした」というのと、どっちが正解?


どっちも正解だけど、俺の心情的には伊豆が正解だね。

もう人として生きるつもりもなかったし、幸い京は鬼になれる環境だったしね。


鬼になれる環境?


混乱してるところだし、いつでも客(刺客)はやってくるし、それを待ち伏せて

切り結ぶ、戦い続けることが出来る環境。何も考えずただ切り結んでいりゃいいんだし。


切り結ぶっていうか斬りあうことが好きだった?


好きとか嫌いとかではないの。もうただ闇雲に修羅に身を置いていたかったんだ。

あぁ…これも一種の逃げだよね。


そうやってギリギリのところで正常?を保っていたんだね。


正常かどうかは知らないけど、思考も何もかも理解できてたさ。この頃はね。


いつから?


ん?


全部わからなくなったのって、いつから?


それが全く分からない。気づいたらボケてた。

母親らしい人が狂ってるのを見てたから、俺もそうなったんだと、家系なんだと思った。


そんなにあっさり受け入れられるもの?


どうなんだろう…なんでだろうね、そう思って納得してたよ。


我を忘れてしまったところを助け出したのが、伊豆?


それと、松本 良順先生。

良順先生と伊豆は知り合いみたいでね、大坂城で新選組の病人の話をして伊豆が俺のことではないかとひっそり様子を見に来てくれたのがきっかけ。


で、大坂城の伊豆の私室で養生してたから行方不明みたいになってたんだね。


そうそう。そして二度目だったかな大坂に来た伊庭が看病する役目として召しだされたわけだ。


だけど、宗ちゃん気づくまで?正気になるまで長かったよね。


だって本気で狂ってたんだから仕方ないじゃねぇか!


確かにねぇ。あの時、子供に戻って呟く言葉は今生の私でも再現できるほどに

鮮明に記憶に焼き付いてるからね。


子供の頃の環境は特に酷いからね、今生にまで影響でてんだな。申し訳ないけど仕方ないと諦めておくれな。


はいはい。子供の頃の「チビ虎」の話は長くなるから、また後日だね。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る