第7話

それからしばらくはラストもミカエラも、それぞれ自分達の生活を送っていた。お互いに時間を見つけては通信端末で通話やメッセージのやりとりをしている。


そんなある日。




「『今日は居眠りしなかったよ』・・・って今日はってことは前科があるってことじゃないか」




適当に返信してから浴場に向かおうとするラストを、ある1通のメールが呼び止めた。




「なんだ?・・・これって」




それはギルドからの緊急事態宣言だった。














ガヤガヤ


「おい!どういうことなんだよ!」


「説明しろって!」


「この国はどうなるんざますか!?」




考える事は皆同じだったようで、ラストが駆けつけて来た時にはすでにギルドの前は人だかりでいっぱいだった。ベルを含め職員が対応しているがかなり手一杯の様子だ。


そのとき、




『皆の者!静まれい!』




一迅の風と共に一喝。


その場にいた人々全員が押し黙る。それほどの迫力を出せるものなど、1人しかいないと誰もが思った。


それはこの国において最も権威のある『翼』の称号を与えられた人格・実力・功績のいずれも優れた存在であり、ヤマト国に7人しかいないそのうちの1人でもあった。




「りょ、『緑翼』様!」




人混みがざわつき、その中から1人の老人が姿を現す。白髪の長髪に豊かに蓄えられた髭、老人とは思えない背筋の伸びた長身の背には一対の大きく、鮮やかな緑の翼。その人こそ、ヤマト国ギルドを取り仕切るギルドマスター・『緑翼』ことムラクモであった。




「・・ッホン、支部長、皆に説明を」




ムラクモに支部長と呼ばれた壮年の男性はハッとして1枚の紙を取り出すとその内容を読み上げる。




「・・・三日前にこの街から東北へと向かった調査隊からの報告により、向かった先にあったイズモの街が崩落しました!」




ラスト達の暮らすこの街はヤマト国の首都と呼べる街である。街の外にも空に浮かぶ大地があり、首都の周りにいくつかある大地に小規模な街を築いている。イズモはそのうちの1つである。




「イズモほどの街がなんの音沙汰もなく崩落したというのか・・・原因は」


「調査隊からの報告では発見時イズモの街は壊滅状態、その後大地がひび割れ街は雲海に沈んだと・・・それ以降調査隊との連絡はつかなくなりました」




支部長の言葉に集まった人々は青ざめた表情で落ち着きを無くす。




「な、なにがあったんだ」


「魔物の仕業・・防衛施設のある街1つ滅ぼすほどの魔物なんて聞いたことねぇよ」


「なら・・・悪魔の仕業じゃ・・」




魔物・悪魔。共にこの世界に蔓延る人々の脅威となる存在である。魔物は大昔にまだ雲の下に大地があった頃存在していた動物が、大地の上昇と共に変異または進化したものである。一部の温和な魔物は家畜化し、食料や荷台を引くための労働力としているが殆どの魔物は凶暴な性格で、街から出た人間が被害にあったり、他の国や街との交易の妨げとなるため、冒険者ギルドで討伐依頼が出ている。


一方そんな魔物と一線をかく非常に危険な存在が悪魔である。事故の防衛や捕食などまだ動物的な理由で人間を襲う魔物に対し悪魔は人間を見つけると即座に殺しにかかってくるという残虐極まりない性質を持ち、悪魔によって滅ぼされた国や街は後を絶たない。




「・・・・・嘘だろ」




この状況にラストも冷や汗が止まらなかった。過去にあったとされる悪魔との戦闘では、歴戦のA~Bランクの冒険者や兵士が束になって甚大な被害を出しながらようやく撃退したという。魔物や悪魔の存在は学園の歴史の授業で習っていたが実物をみたことがないため実感が湧かなかったが、今現在もしかするとその脅威が迫っているかもしれないと思うと悪寒が止まらなかった。


(すぐにミカや孤児院に知らせないと)


「すぐに街全体に避難警告をだす!ギルド職員は他の街への緊急連絡を急げ!イズモへの調査は『赤翼』『黄翼』に任せる!Cランク以上の冒険者はギルドに集まれ!街の防備を固める!Dランク以下は避難の誘導だ!」




ラストや街の人々の不安をかき消す一斉。


ムラクモが緑色の魔力光を帯びながら魔法を発動させる。それは先程この人だかりを一喝したものと同じだが、より大規模なものである。




「『風の囁き』」




ムラクモから発生した魔力を帯びた風が街全体に流れていく。




『街のみな、聞こえるか。ヤマト国冒険者ギルドマスター『緑翼』ムラクモである。突然すまないが今から言うことを聞いて欲しい』




街全体にムラクモの声が響き渡る。風に自分の魔力を乗せて操るのは緑系統の翼の持ち主の得意分野だが、街全体に自分の声を届かせるのは彼にしかできない技だ。そしてムラクモは先程の内容を伝える。




『・・・以上だ。皆くれぐれも慌てず、避難して欲しい。詳細が分かり次第追って連絡する』




ムラクモが魔法を解除すると街全体がにわかに騒がしくなる。




「・・・・ふう、老体にはちと堪えるわ。では皆も


避難してくれ・・・わしも街の防備を固める」




そう言い残してムラクモはその場を後にする。集まった人たちも、避難する者、避難を手伝う者、そしてムラクモに続く者など各々自分のやるべき事をやろうとする。当然ラストも動き出す。




(ミカ・・!)




聖教会に向かいミカエラと合流し、無事を確認して孤児院に向かい全員で避難する。そのためにラストは走り出した。








一方、その頃聖教会では・・・




「司教様!今の!」


「ええ、急いで避難しましょう」




ミカエラたちも先程の連絡を聞き、避難を始めていた。その瞬間ミカエラは悪寒にも似た嫌な気配を感じ叫んだ。




「っ!みんな伏せて!」




その瞬間、協会の建物の上階で爆発が起き、建物が崩れた。




「きゃああああああ!!」



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る