開花その17.5 アリソンの旅路を振り返る



 辺境の貧乏男爵家の次女に生まれたアリソン・ウッドゲートは、王国の全ての民が五歳になると魔法の才能を調べる「星片の儀」に臨み、その底なしの魔力により儀式用の水晶を爆砕してしまう。

 それと同時に、五歳児のアリソンの脳裏には、前世の記憶が蘇る。

 彼女の前世は、ロッククライミング中に事故で命を落とした現代の女子大生であった。


 困惑するアリソンが魔力を抑える強力な腕輪を付けたまま谷の館へ戻ると、男爵家に仕えるフランシスという魔法使いを師匠として、魔力の制御を覚える修行を行うようになった。

 男爵家は南に広がる王都直轄の田園地帯を、北方の森の魔物から守る重要な任務を与えられている。

 家臣や傭兵にも、腕に覚えのある者が多い。その中でも特に優秀なのが、フランシスという二十代後半に差し掛かった女性魔法使いだった。


 そんなある日、北の森で魔物の暴走が起き、谷も魔物に襲われる。フランシスと共に逃げながら、アリソンはその原因が封印されていた古代魔獣の復活であることを知る。

 地下通路を逃げていた二人がオケラの魔物に襲われたときアリソンの魔法が発動し、森の中の全ての魔物が時を止めたように動かなくなった。

 それにより古代魔獣と戦っていた男爵一行も勝利を収め、「水晶砕きのアリソン」の名は遠く王宮にまで伝わる。


 古代魔獣討伐の褒賞を与えるとの名目で、父の男爵と共に王宮へ呼ばれたアリソンは、魔法の師匠兼世話係のフランシスを伴い王都への旅に出る。

 谷の教会でアリソンの守護精霊となっていた月の精霊ルーナの力で、暴走しがちなアリソンの魔力は制御ができるはずだった。

 だが、道中でも魔力は度々暴走し、精霊ルーナは役に立たず危機に陥る。


 何とか無事に王都へ辿り着いたアリソンだが、王宮では褒賞の他に王子との婚約を迫られる。

 謁見の間で再び時を止める魔法が発動し、王宮内の全ての人物の動きが止まる。

 今回はルーナによる力の制御で、王様とだけ会話ができるようになった。

 月の精霊ルーナが王に直接話したことにより王はアリソンを古の賢者の再来と認め、特別な魔法使いにのみ与える爵位を授与し、王国内での自由を保障した。

 アリソンはフランシスを伴い、二人で王宮を脱出し、王都の教会に匿われた。


 アリソンは百五十年前に政争に巻き込まれ謀殺された賢者と同じく、自分がエルフではないかとの疑惑を抱き、王国の西方にあるエルフの里を目指すことに決める。

 教会の雇ったプリスカという若い女性の冒険者を道案内として、フランシスと三人でエルフの里を目指す旅が始まる。

 しかしフランシスは執拗に、王都の魔術師協会を訪ねるようにと進言する。


 王都の魔術師協会では、会長のケーヒル伯爵が待っていた。

 王家と教会は、密かにアリソン様の監視を続けるでしょう、と告げられる。

 王の与えた通行証は、諸刃の剣だ。使えば居場所を知られることになる。

 伯爵の助力により、三人は王都の南にあるケーヒル伯爵領を過ぎたところで、行方を眩ませる算段をする。


 順調に旅は進み、ケーヒル伯爵領を抜けたところで、三人は予定通り三方へ分かれて追っ手の目を振り払う作戦に出た。

 しかしその時、再び古代魔獣の封印が解かれて、山中で暴れ始めた。

 そのまま南進して盆地の街へ進めば、大被害になる。

 仕方なく、アリソンは単独で第二の古代魔獣を討伐し、海の近くの古道で従者の二人と再会する。


 その後、第三の魔獣の封印を解こうとする勢力をフランシスとプリスカの二人が撃退し、三人は無事にエルフの里へ辿り着く。

 エルフの里では百歳以下の若いエルフとの共同生活を送ることになり、アリソンの望むエコで穏やかなスローライフが待っていた。


 しかし、同居するエルフの三人娘は、エルフの里を出て人の暮らす街へ出るための経験を欲している。

 アラサーのフランシスも、長命で無欲なエルフとの婚活に見切りをつけ、近隣の獣人の村へ行きたいと願っている。

 アリソンの望む穏やかな暮らしは、そう長くは続きそうにない。



 続く




  

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