母の日 デート②


■■■■■

隣町の大型ショッピングセンターは駅を降りて、10分くらい歩いたところにある。

この道を歩くの、一年ぶりだ。


「デパートまでの道、こっちで合ってたっけ?久しぶりに来たら忘れてるなぁ」

私はきょろきょろと住宅街を見渡し、向こうにそびえたつショッピングセンター目がけて進行方向を見定める。

私の隣を凌平が静かに歩く。

「こうやって、母の日のプレゼントをお互い一緒に決めに出かけるのって今じゃ、恒例行事だね。母の日の3日前に凌平と買い物に行くの、もうるティーンみたいになってる気がするよ」

私、去年はお母さんに何あげたっけ…。

うーんと...。

「あー、そうだった。そうだった。私がお吸い物セットで、凌平が日傘だった!」

確か、ちょっと高級なお吸い物詰め合わせセットを造花のカーネーションと一緒にあげたっけ。


私が去年の母の日を思い出していると、凌平がおかしそうに笑ってきた。

「お吸い物セット?渋い?」

「えー。いいじゃん。ちょっとお高めな即席お吸い物っておいしいんだもん」

ウニの極上すまし汁とか、すっごくおいしかったんだ~。

じゅるる。

はぁわわ。

思い出しただけでよだれが出そうだよ。


そんな私を見て、凌平が『真朝の食べたいものプレゼントしてどうする...』

と冷ややかな視線を送ってきた。

「わ、私が食べたかったからだけじゃないし」

失礼な。

そりゃ、ちょっとは私も食べてみたいなぁとは思ってたけど、そう。

私が食べたいって事はお母さんもきっと食べたいってことだもん。

うん。

プレゼントの基準はそんな感じでしょ!!


私のポリシーなるものを押し切って凌平に力説する。



「もう!凌平ひどい。食い意地とか言わないで!」


「お母さんも嬉しいって言ってくれたから結果オーライなの!」

『はいはい』

むー。

なんだか、適当にあしらわれた気分。

むぅー。



じゃぁ、凌平はどうだったのよ。

ちゃんと、お母さんが喜びそうな、欲しそうなもの買ったって言いきれるの?

「凌平、去年は日傘プレゼントしたでしょ?」

「確か、日傘の柄がすごかった気がする」

「結構リアルで擬人化された鹿がバラに囲まれてるやつ...」



「もちろん、覚えてるよ。あれだけインパクト強かったらね」

凌平、恥ずかしそうにレジに並んでたし。ふふ。

「笑ってないもーん。」

そう言ったけど、やっぱり誤魔化しきれなくて、おかしくて笑ってしまった。

「くふふふ」

「レジのおばさん、こんな柄の日傘、売れる日がくるなんてねぇとか言ってたのを思い出してさ。ふふふ」

私が笑うと、『そんな余計な記憶、さっさと忘れろ』とぷいと横を向いてしまった。

「凌平、ごめん、ごめん」

私は頑張って笑いの余韻から抜け出した。



「でも、あの日傘の評判はどうだったの?」

「凌平のお母さん、喜んでた?」

「くふふ。凌平、めちゃくちゃセンスあるって褒められたんだ。くふふふ」

「凌平のお母さん、確かにああ言う感じの、ちょっと変わった系好きだよね。」

「そうそうそう。常に変化を求めてるかも」

「凌平のお母さん、凄い元気だもんね」

「元気っていうか、パワフル?」



「確かに。いつも、がははって笑い飛ばす感じ。怖いものなんてなにもない。どんとかかってきなさいって言うオーラが凄い感じ。」

カッコいい女性って感じで憧れるなぁ。

働くウーマンみたいだもん。


『そうか?ただやかましい親って感じするけどな。俺、未だに、本当にこの人が母親なのか疑っているから』

「そこはお母さん信じようよ。凌平、お母さんにそっくりだよ?鼻筋とか、顎回りの骨格とかさ...」

私が言うと、凌平は『そうか?』と首を傾げた。

本人的には、まだ母親に似ている自覚は無いみたい。

「けど、凌平、しゅっとした顔の輪郭とかはお母さんに似てるのに、性格的なとこ?とか、あんましお母さんと似てないよね。どちらかと言うと性格はお父さん?似?」

「物静かなとこと...寡黙で伏し目がちなとことか、凌平のお父さんに似てる気がする」

やっぱり、林家のブレンドが凌平なんだ。


私は独り、林家のDNDについて納得していた。

すると、凌平が今度は私の事を言ってきた。

「え?私?私、お母さんと似てるかなぁ?どのへん?」

「顔?目元?ほぇー。喋り方も似てるんだ...」

「なんか、家族と似てるって言われると、くすぐったいね」

「嬉しいような、恥ずかしいような気持ちになる」

「お母さんたちがいなかったら、私達、生まれてなかったし、こうやって一緒に買い物もできなかっただろうから、そう考えると親って偉大だし、尊敬しなきゃって思うよね!」



「確かに。ま、口うるさいのは、許してあげよう?」

「この17年間お世話になりっぱなしなんだもん。明後日くらいは親孝行しなきゃ」

「特に、凌平は不幸体質なせいで、お母さんに迷惑かけまくりだしね」



「うん。親孝行大事」

「あ!見えた!」

「今日はいっぱい楽しい日にしようね!」

今日は、楽しみにしていた凌平とのお買い物。

ふふふ。

良い1日になるといいなぁ~。




■■■■■

彼女はそう言って、俺のほうを振り返った。

俺は、母の日と言う名目で彼女と無自覚デートができる事に小さくガッツポーズをしながら、風邪気味の体を隠し、後を追った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る