第12話沖田総司編 カササギよ 『前略、沖田様』

『前略 沖田様                   

 いかがお過ごしですか。

 櫻子は豆腐屋の女将にも段々慣れ、最近では油揚げも作らせてもらえるようになりました。

 江戸の町はとても静かで、何だか時間が止まったようです。


 あれから半年……町で風鈴売りのおじさんに会いました。

 それがあまりにも綺麗だったもんだから、天狐ちゃんが風鈴に合うお菓子を作ってくれたのですよ。

 あの白い玉のようなお団子に、キラキラの薄茶のてらてらがかかっているのを見たときは、奇跡のようなお菓子もあったものだ、と思いました。

 沖田様が江戸にいらしたならば、天狐ちゃんと試衛館にお持ちいたしましたのに……。

 沖田様は本当についてないお方です。


 あんなに一緒だったのに、折角の『おみたらし』とか言うお団子……

 天狐ちゃんと食べてしまいました。


 本当は沖田様と約束の境内で、櫻子は食べとうございました……。

 いつか……もう一度お会いできたなら次は一緒におみたらしを食べましょう』



 外にカササギが飛んでいた。

 キョ―キョーキョー  カシャカシャカシャ、カラス科のこの鳥は頭が良いと言われている。


 カササギよ、このまま京都までこの文を届けてくれたなら、どんなにか感謝をするのに。


 「櫻子さん、おいでなさるか」

 慌てて着物のたもとに文を隠す。

 「栄太郎様、申し訳ございませぬ。なんでしたでしょうか」

 「いえ、特には……ただ夕焼けが綺麗だったもので一緒にみたいと思ってしまったのです」


 栄太郎は老舗豆腐屋に婿養子に来てくれた大店のところの5男だ。

 こんな光栄な縁談は二度はない。

 本当に栄太郎様には感謝をしている。

 だからこそ、ばれてはならぬ。

 櫻子が沖田に向ける恋心さえひた隠せば、誰一人傷つかぬのだ。



 まだ沖田と遊んでいた幼少期、花弁はなびらや葉っぱ、きれいな石を集めては、2人でしまっていた浅葱色の箱、今は石しか入っていないその中に、櫻子はそっと手紙を忍ばせた。

 誰の目にも触れてはいけない。


 でも……筆を取らぬ選択肢は持ち合わせてはいなかった。



 カササギよ、あぁカササギよ。

 このまま沖田様の所まで、一飛びにこの文を届けてくれたなら……カササギよ。

 

 

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