第13話沖田総司編 来世では 『前略、櫻子様』
『前略 櫻子様
京都に来てもう十の季節が過ぎていきました。
京都の冬は何度経験しても……とても寒く、江戸から470キロほど離れただけなのにまるで海の先の気分です。
改めて書くと、何を書いたらいいのやら……とても悩むものですね。
名前は何というのでしょう。
走り寄り抱きしめてあげたい。
その子は僕の子ではないけれど、命より大切だと思っていた貴女の子供だから。
そうそう、この前素敵な食べ物を見つけましたよ。
【くずきり】と言う透明のちゅるちゅるっとした少し甘い蜜に浸された甘味でした。
たらいに入ったそれは水に浮かんでいて、頼むとそこから水を切ってくれるようで、【みずきり】という食べ物だとずっと思っていました。あっ、思っていたのは僕ではなくて土方さんですよ。
きっと夏になったらもっと人気になるのでしょうね。
あなたと一度でいいから食べたかったと思ってしまいます。
最近僕は夢をみます。
小さなころの櫻子さんと遊んだ境内の夢です。
もうそんなに長くはないのでしょう。
夢の中では走馬灯の様に思い出がよみがえってくるのです。
身体の調子がほんの少しばかり悪いようで、咳が止まりません。
お医者様はもう土方さんについてゆくのは無理だろうと仰っておられました。
散々人を斬ってきたのです……。これも運命なのかもしれません。
ただ僕は最後まで剣士で居たかった。
病ではなく戦の中で死んでいきたかった。
最近は若いものが面倒を見てくれます。
名を市村鉄之助君といいます。
本当によくやってくれて、ただ僕はもう彼に会うのをやめようと思います。
彼の未来はまだ明るい。
労咳の自分などと一緒に居てはいけないのです。
この文
届かせるすべも勿論ありません。
でも心を綴ることで癒される思いもあるのだと思います。
あなたを傷つけあなたを選ばず、最後まで人斬り沖田としてそれでもなお、土方さんのお供ができて僕は幸せでした。
ごめんなさい。
「ただもし違う人生だったなら、豆腐屋の主人も悪くはなかったと思っているのです」
櫻子さん
「来世では……一緒になって、くれますか……」
千駄ヶ谷の療養所の机の奥深くしまい込まれた、櫻子宛てに書かれた
沖田総司の文字ではない一文が書かれていたという。
「来世では……」
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