第10話沖田総司編 浅葱色の最後の恋


 「土方さん、僕今度の休み、ちょっと出て来ていいですか?」

 倒幕派の匂いのする場所へ土方と向かい、当たりだとばかり刀に血を吸わせ、帰ってきていたそんな夜の事だった。

「どこに行くんだ?」

「ん………………天天……です」

 おむすびのお礼にしては歯切れが悪いし、そもそも隼人さんのおむすびじゃないと知っている総司なら、タイミング的にも腑に落ちない。

「何をしに行くのかと言いたげですよ?思ったなら聞いたらいいのに……変な人だな。土方さんは」

「いやいやそりゃ聞ければ聞くだろ。状況的に……つまりだな……」

 総司は繊細に見えて、実はそうでもない。俺のがよっぽど繊細だと言いたい!

 あいつのマイペースはネジがちょっとぶっとんでんだ……。

「一週間後です」

「なにがだ?」

「櫻子さんの結納ですよ。お祝いにお菓子を焼いてあげるんです」

「総司がか?」

 いくらじゃりじゃり石だらけの道とは言え、土方さんが何かにつまづきそうになっているのなんか、初めて見た。

 総司のクスクスっと笑う声が夜風に乗り、寝静まっている民家の横を通りすぎる。


「大丈夫ですか?年なんだから気をつけて下さいよ」

「まだ27だぞ、お前こそ24なのに老けきったような話し方をするなよ」

「24か……。何かを求めるにはもう遅く……先は沢山あるのに実はそうでもないのでしょうね」

「諦めるのか?」

 さっきまで出ていた月は、流れてきた雲によって跡形もなく消えていく……。薄雲の裏側からぼんやりとした光が射す。まさに幽玄という響きが相応しい。

 

「おかしな事を言う人ですね。土方さんは……」

 浅葱色のだんだら模様には、見えない色が染み込んでしまっている。

 綺麗な青と白のコントラストに見えない紅の色がついているんだ。


「ここからは独り言です」

 土方はうんとも言わず黙って歩いた。

 

「ねえ土方さん……」

「淡い桜の花の薫りに薄紅色をした櫻子さんに、濁ったどす黒い紅の色は似合わないと思いませんか?……」


 まただ。この泣きそうな諦めた顔……なんで総司がこんな顔をしなけりゃならない。


 何も出来ない自分が歯がゆくて、土方は握りこぶしに力を込めた……。

 


 








 



 


 

 

 

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る