第6話 昼休みの始まりはトレーニング


 うわぁーっ! え、まじなの?


 ねえ、どうして、私まで、付き合わされるのよ。


 お昼くらい、ゆっくり、食べたいじゃないのよ。


 それをなんで、……。


 私は、なんで、綱にぶら下がらなきゃいけないのよぉ。


 シュレは、……、ああ、綱の下に足を伸ばして座ったわ。


 それで、綱を握って、体を持ち上げる、……。


 うーん、ぶら下がってって、お尻は床から上がっているけど、踵が床についているじゃないのよ!


 まあ、シュレの力じゃ登れないでしょ。


 あ、アリーシャったら、シュレと同じように床に足を伸ばして座ったわぁ〜って、おい、そのまま、腕だけで登るんかい!


 シュレも私も関係なく、スイスイ登っちゃったわよ。


 あれ、足を前に出して、軽く振るようにして、バランスを取るのかしら、でも、何よ、あの腕力は、何なのよ。




 あー、もうだめ。


 私は、足で綱を挟んでも、登れないわ。


 半分も登れないし、ジュネスの頭の天辺を辛うじて見れる程度じゃない。


 ああ、もう、腕を曲げられないし、体を上げられないわ。


「ごめん。 もう、私、無理。 ここまでね」


 もう、ジュネスったら、仕方なさそうな顔、するんじゃない!


 それにしても、あー、なんで、お昼を食べる前に、こんなことしなきゃいけないのよ。


 ジュネスのバカ!


 それに、全員付き合うって、どういうことなのよ。


 私も付き合うことになっちゃったじゃないの。


 あー、これ、絶対、腕が太くなるやつだわ。


 どうしよう、可愛い服が着れなくなったら、どうしてくれるのよ。


 あ、シュレも終わった、……、というより、諦めたのね。


 ジュネスが、シュレの事を終わらせたわ。




 今度は、男達だわ。


 ジュネスも、レオンも、まだ、足を使っているわね。


 カミューは、……、あー、途中までで、降りてきたわ。


 そうよね、私たち、エルフって、男性も女性も、筋肉が付きやすいように思えないものね。


 エルフって、一般的に細いでしょ。


 そうよ、太ったエルフとか、マッチョなエルフなんて、見たことないわよ。


 だから、私とカミューには、この綱登りって、拷問みたいなものなのよ。


 アリーシャは、体も小さいから、体重も少ないでしょうから、登りやすいみたいだけど、……。


 そういえば、レオンも登るのが、早くなっているわね。


 亜人は、綱登りは得意なのかしら?


 あっ、レオンったら、綱を登るの、ジュネスより早いわ。


 それに、今、足を使っていたかしら?


 あ、また、登るのね。


 ああ、レオンも、アリーシャと同じで、腕だけで登っていくわ。


 うっわーぁ、本当に腕だけ登っちゃった。


 レオンも、まだ、体重が無いから、楽なのかもしれないわね。


 でも、何で、食事前にこんな訓練しなくちゃいけないのよ。




 シュレ、何よ! 何で、私の顔を覗き込んでくるのよ。


 そりゃ、面白く無い顔をしているのは、悪いけど、お昼くらい、ちゃんと食べたいのよ。


 えっ! 何、学食は授業終了後の20分は、混んでるから、空いた時に行こうというのね。


 まあ、それは、有りよね。


 だって、テーブルを探すの、あの時間帯は、結構、大変なのよね。


 えっ! まだ、何かあるの?


 運動した後の方が、効率良く、力を付けられるのか。


 ふーん、そういう事なのね。


 確かに、私たちは、冒険者になるのだから、力は付けておきたいわよね。


 私は、弓だから、弦を引くけど、……。


 あ、この綱登りって、弦を引く動作に似てるわね。


 そうよね、胸の裏の、背中側筋肉が付きそうよね。


 そこが、付いたら、強い弓も引けるかもしれなわ。


 強ければ、射程も伸びるし、初速だって、早くなるわ。


 ……。


 でも、腕が太くなるわね。


 あー、可愛い服を着れなくなるかもしれないわ。


 周りの人は、二の腕部分の布が余るけど、私は、余らないかも。


 ちょっと、何だか、二の腕、太くなってきたかもしれない。


 力を入れたら、服の腕が、破れてしまうかも、……、ぎゃーっ、ちっとも可愛くない!


 でも、私は、冒険者なのだから、それは、仕方がないことなのよ。


 私は、お姫様でも、娼婦でもないのよ。


 私は、お金を稼ぐために冒険者になったのよ。


 私には、この道しか無かったのよ。


 あー、でも、もっと、腕が太くなるのかしら。


 いや、いや、いや、何か、対策を考えないと。


 ……。


 だめだぁ、無理、冒険者が、そんな事に妥協したら、……、死んでしまうわ。


 絶対に無理よ。


 ジュネス達に付き合って、綱登りをしないと、私だけ置いて行かれてしまうわ。


 ああ、でも、私の腕、これから、どんどん、太くなっていくのね。


 それとついでに、背中の筋肉もついて、逆三角形になるんだわ。


 あー、私ったら、不幸な時代に転移してきてしまったわ。


 ……。




 あら、もう、男達の綱登りも終わったのね。


 学食へ行くの!


 食事よ! やっと、食べられるわ。


 おおー、食堂内は、結構、テーブルが、空いているわ。


 授業が終わって直ぐは、こうはいかないわね。


 あー、空いている席を探して、ウロつかなくても大丈夫だわ。


 ん?


「ねえ、何で、豆料理が多いの?」


 ……。


 あ、ああ、そうなの。


 豆は、筋肉を付けやすいのね。


 豆を食べた方が、マッチョになれるの、……。


 へー、それは、冒険者にとって、とても、素敵なこと。


 ……。


 でも、私の可愛いは、どんどん、遠ざかっていくように思える、……、わ。


 私は、筋肉マッチョの体型が、逆三角形のエルフになってしまう、の、ね。

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