Day 5

 そのお店へ行くと、女の人はお店を終わりにするといった。

 私は慌ててどうしてかと訊くと、

「私には必要のないものだからです」

 といった。

 私はそれはあのお店の売り物ではないのか、と訊いた。

 その女の人は、

「私と“あの人”のものでした」

 私は必要のないとはどういうことか、と訊いた。

 その女の人は、

「あの人の愛を裏切っている私には、“あの人”のものも、”あの人”が愛した私のものも持つことができません。持つことができないものは必要ありません」

 といった。

 私は“あの人”の愛を裏切っているからお店を終わりにするのか、と訊くと、

「あの人の愛を裏切っているからです」

 といった。

 私は私を絵にしてほしいといった。

 その女の人は、

「どうしてですか」

 といった。

 私はいった。

「あなたが絵を描けるようになれば、あなたは“あの人”のものも、“あの人”が愛したあなたのものも捨てなくてよくなります。私はあなたに協力したいのです」

 その女の人は驚いた表情をした。そしてその表情のままいった。

「嬉しいです。だけどあなたを描くことはできません。なぜなら私はもう絵を描くことができないからです」

 私は絵が描けるようになるまでずっと待つといった。

 その女の人は、

「どうしてですか」

 と訊いた。

 私は答えなかった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る