Day 4

 そのお店に行くのは四度目だった。

 その女の人はいつもと変わらず喪服を着ていた。

 小さなお店の中は変わらずに売り物で満ちていた。

 その女の人は、以前私が買おうとした筆を持って泣いていた。

 私は慌ててどうしたのと訊くと、女の人は、

「この筆は私のものでした。あの絵はこの筆を使って描きました。あの人は死ぬ間際に私に絵を描き続けてほしいといいました。だから描きました。あの人が好きだった夜の星空と夜の海と夜の満月と、私が好きなあの人を描きました。あの絵には満足しています。だけどそれだけでした。私は次の絵を描くことができませんでした。今もずっと描けません。だからこの筆は売り物です。このお店にあるものはすべて売り物です。あの人との約束を守れない私には必要のないものだからです」

 そう長い間話した。

 私は“あの人”とは誰なのか訊いた。

 その女の人は、

「私が愛していた人です」

 といった。

 私は“あの人”を今も愛しているのか訊いた。

 その女の人は、

「愛しています」

 といった。

 私は“あの人”は女の人を愛しているのか訊いた。

 その女の人は、

「愛していないでしょう。私はあの人が愛した私ではなくなってしまったから」

 それはどうしてか訊くと、

「あの人は私の描く絵が好きだといっていました。だからあの人は自分がいなくなっても絵を描いてくれといいました。だけど私は絵が描けません。それはあの人の愛を裏切っています。そしてあの人の愛を裏切っているから私はあの人を否定しています。私はあの人を否定しているから、あの人は私を愛していないでしょう」

 といった。

 私は女の人に“あの人”を愛しているか訊いた。

「愛しています」

 その女の人は答えた。

 私は、なんて矛盾している人なんだろう、と思った。

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