第8羽 クロガネの想い
シロに先導されるままにクロガネが続く。するとそこには、大きな鳥居を構えた神社が鎮座していた。二人は鳥居をくぐって境内へ向かう。
「......おおっ! 食料がたくさんあるじゃねえか!?」
クロガネは、目の前に供えられているたくさんの食料に瞳を輝かせている。
「すごいでしょう? ここなら、どんなにひもじい時でも食料には困りませんよ!」
シロは得意げに語るが、それらはおそらく参拝者の供物であろう。人間の道理に当てはめれば、供物に手を出すことはもってのほかである。しかし、動物にそんな道理など通用しない。
「そうだな、オレはこの干し肉でもいただこうか」
クロガネが口にしたのは、どうやら猪の干し肉であるようだ。この山には鹿や猪が生息しているため、さしずめマタギが捕獲したものだろうか。
「私はこの
シロは供物から果物をつまみ出し、むしゃむしゃと頬張っている。リンゴは彼女の大好物である。
「この甘み、たまらないですね!」
この辺りでは林檎の木が群生している。それゆえ、供物に林檎が見受けられるのは土地柄といえる。
二人が供物にむしゃぶりついている最中で、シロはおもむろにクロガネへ問う。
「クロガネさんって肉食獣ですよね。だとしたら、私を食べようとは思わないんですか?」
シロの問いは尤もだ。本来は肉食獣である狼が、目の前に兎という恰好の食料がいながら手を出さないのは実に不可思議である。
「命の恩人を食えるわけねぇだろ? バーカ!」
いくら肉食獣とはいえ、彼なりに道理があるようだ。
「......クロガネさんだったら、私のことを食べても良いんですよ?」
どういうわけかシロは色目を使っている。よく見ると彼女の脚は
「よせ、そんな目でオレを見るな!」
シロの色っぽい眼差しにクロガネは困惑してしまう。普段は狩猟によって獲得している動物が、自らの意思で食料になることを望むのは奇妙な光景だ。
「遠慮しなくてもいいんですよぉ??」
クロガネの困惑など気にも留めず、シロの誘惑は続く。
「それにオレは......シロが好きだ。いつも献身的に看病してくれているしな?」
クロガネの突然の告白に、シロは思わず赤面する。クロガネを挑発したつもりが、彼女自身が調子を狂わされるなど予想外だった。
「クロガネさんってば、大胆っ!!」
恥ずかしさのあまり、シロは言葉が続かない。クロガネの告白に対して、彼女もまんざらではないようだ。
「......特別に、クロガネさんとお付き合いしてもいいですよ? いいですか、特別ですからね!」
シロは照れ隠しが精一杯だ。これ以上、彼女に何かを言わせてはいけないような気がする。
「おう、よろしくな......」
シロの赤面ぶりに、クロガネもつられて頬が赤らんでしまう。この二人、どうやら相性が良さそうだ。
その矢先、なにやら不穏な空気が二人に迫っていた......。
「供物をつまみ食いするとは、罰当たりなヤツらだなぁ?」
そこに現れたのは火縄銃を携えた男。その姿に気付いた二人は戸惑いを隠せない。
「......ヤベっ、マタギじゃねぇか!」
仇敵の姿をクロガネは忘れるはずがない。彼のせいで、今もクロガネの左脚は治療真っ最中なのだから。
「コイツはもしや、あの時の狼? やっぱり生きていたのか!」
クロガネに気付くや否や、マタギの目の色が変わる。するとまもなく、彼は臨戦態勢に入ってしまった!
「シロ、逃げるぞ!」
マタギの様子を見て、クロガネは逃亡を図ろうとする。しかし、どういうわけかシロは足ダンでマタギを威嚇している。
「私は負けませんよ!」
――まずい! シロはマタギと刺し違えるつもりだ!! クロガネはそう直感した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます