第43話
「まだ何のプランも考えていないだと?これだから東の者は」
西の獅子、ニシモト。
「何を偉そうに。一昨年の自分らだって似たようなもんだっただろ」
東のドラゴン、ヒガシノ
「まぁまぁそう慌てなさんな。時間はまだあるだろうに」
北の黒亀、キタザワ
「だからと言って失敗、なんてオチは御免ぜよ。拙者らには成功か大成功以外の道はないでござるからな」
南の怪鳥、ミナンシェ
「なるほど……つまり……どういうことだってばよ?」
中央の
何を隠そう来週は
「つまり、祭りの準備がまだ出来てないってことだよ」
「ヤバくね?」
待ちに待った夏祭りである。
◇◆◇◆
とある場所に六人の人物がいた。
彼ら彼女らの目的は祭りについてなのだが
「なんだローション相撲って。バカにしてんのか?」
「ギクっ!!」
「はぁ?いいだろローション。これだから東の者は」
「あ?」
「まぁまぁ。喧嘩してもいいことはない。それよりも他の案を考えよう」
「せっかくシア様が来て下さっているんだ。シア様にも聞いてみるでござるよ」
本来であれば王族は民間の祭りに手を出すことはない。
というのもこの場にいる者は全員偉めの貴族だったりする。
王族が圧倒的な力を持っていることは誰もが知っているが、貴族も力を持たねば色々厄介な事が起きる。
そんなわけで祭りには貴族と王族、それぞれが力を示すため毎年入れ替わりで開催しているのだ。
が、シアは勿論そんな事情を知らない。
そんなわけでこの場に殴り込みし、祭りの内容を多少自分好みに変えようと計画しているのだ。
「そうですね……まず、花火は必須です。しかもド派手なものにしたいです」
シアはあの日のことを思い出し、そう伝えた。
「なるほど。ですがそうなると予算が」
「お父様に出させます」
「オ、オルドー様が?ですが許可は?」
「え?頼んだから大丈夫ですよどうせ」
一瞬でパワーバランスを理解した貴族達は「なるほど」とシアの言葉を飲み込んだ。
「では花火はド派手に。となると、祭りは花火メインで動くということでよろしいかな?」
リーダー役であるキタザワの言葉に皆が納得する。
「となると場所は……ここがいいでござるな。ここなら場所も広く、周囲にデートスポットも多い」
「デートスポットだって勇。先に爆竹撒いとく?」
「やめたげて」
それから淡々と舞台を進めて行く一向。
「となるとこの道を」
「いや、そこはやはり」
「そうさなー」
「ここはオルドー様にも許可を取り」
本当に手際が良く、シアは勇が用意したお茶を飲んでこう思った。
「これ私いるかな?」
「まぁいいんじゃない?祭りの話が全く進んでないって聞いて不安だったんでしょ?」
「ち、違うし!!乗っ取ろうとしてただけだし!!」
「……」
「その生暖かい目やめろし!!」
だが実際、昨日までは本当に話は進んでいなかった。
では何故今日になってこんなにも順調に話が進むかといえば
(((シア様にいいところ見せたい!!))))
というある意味バカみたいな理由だったりする。
「それにしても当日はどうするの?シャル様と?」
「いんや。私の可愛いシャルはお友達と回るそうだ」
「そっか、シャル様も大変だね」
「大変?」
頭に?を浮かべるシア。
『友達がいないとお姉様が悲しむから。そんな理由で友達作りをする人間など極少数じゃろうな』
「絶対バラさないでね。シャル様に殺されるの僕なんだから」
「なぁ勇。お前のその独り言ダサいからやめたら?」
「く、癖なんだ」
『クックック』
うーんと悩むシア。
「こうなるとやっぱ……今年も勇と行くしかないか」
「よし」
小さくガッツポーズをする勇。
だが、事態は急変した。
「ん?シア様は勇殿の祭りに足を運ぶのですか?」
「え?あ、はい。そのつもりですけど」
「では勝手ながら、私の息子を同行させてもよろしいでしょうか」
「「息子?」」
キタの言葉にシアと勇が声を合わせる。
「ああ。何やら最近、シア様と遊びたいとうるさくてですな。勿論お礼として、祭りの屋台全てタダというので」
「やります」
即決だった。
(今月お小遣いもう無かったから助かるー)
一体いつならお金が残っているのか。
そんな疑問はさて置き
「大丈夫なのシア。その……」
「まぁ王女スタイルにはなるだろうが、どうせ祭りを回るなら変わらんだろ」
「ならいいんだけど」
勇としては二人っきりがよかったが、シアに友達が出来ると考えればむしろプラスかもと考える。
それに、本来であればライバル視する筈の性別も
「まぁ私にかかれば男の扱いなんてちょちょいのちょいだぜ」
「あはは」
シアの前ではむしろデメリットである。
「なんで僕、男に生まれたんだろ」
『なるか?女に?』
「いや……やめとく」
それだけはダメだと勇は察した。
「ところで息子さんのお年は?」
「今年で12です」
「へぇ、シャルと同い年くらい」
「家でも大人しい子ですので、ご迷惑がお掛けしないと思いますが、何かあれば直ぐにお伝え下さい」
「いえいえ、それくらいの歳の子とはよく遊んでますから大丈夫ですよ」
そんなわけで途中で飽きたシアはその場から立ち去った。
本当だったらローションババ抜きを提案する筈だったが、その真剣な様子に割り込むのはよそうと珍しく真面目なことを考えたシア。
「でも意外に初めてかもな」
「何が?」
「貴族と一緒に遊ぶの」
「シアはよくパーティーで一緒になるんでしょ?その時に遊んだりしないの?」
「いんや。大体遠巻きでコソコソ話されるか、もしくはお姉ちゃんとかレンに事前に弾かれるかだな」
「なるほど」
貴族ですらも尻込みしてしまうという事実に、勇は少しだけ悲しくなる。
家族を除き、誰よりもシアを理解しているからこそ、彼女が本当はただの女の子?であることを理解しているからだ。
「だが楽しみだな。最近の若者趣味を暴き、シャルと共通の趣味でも見つけるか」
「シアも若者だけどね」
笑う勇とシア。
だが、この時の二人は知らなかった。
まさか相手が
「初めまして、シア様、勇殿」
「……」
「こ、こんにちは」
二人が目にしたのは
「今日はよろしくお願い致します」
およそ12歳とは思えない程の身長と顔をしたイケメンだったのだ。
◇◆◇◆
……どこが12歳じゃ!!
どう見ても同い年のイケメン野郎じゃねーか!!
「キ、キタザワさんは本当に12歳なんですか?」
「よく言われますね。ですが正真正銘の12歳ですよ。学校では目立って恥ずかしいですが」
「嘘だろ……」
「僕も驚きだな……」
身長は勇より低いものの、それでも高身長とハッキリ呼べる程のそれ。
果たして成長期がきたらどれだけ伸びることか。
「と、とりあえず行きましょうか。ジッとしていても仕方ないですし」
「はい!!」
三人は会場に向かって歩き出す。
シアが訪れるが、祭りは平然と行われる。
皆がシアの道を自然に開けるが、誰もシアのことを認識しない。
それが祭りでの暗黙のルール。
シアにも祭りを楽しんでもらおうとする全国民の意識が生まれたものだ。
「凄いですね。まるで自分達と他の方々が磁石のようです」
「???」
「面白い例えだね。その様子だと頭も良さそうだ」
「あ、ありがとうございます!!」
貴族であるにも関わらずペコリと勇に頭を下げる。
コイツ
「怪しい!!」
「どこが!!」
「分からん。だが、突発的に現れて気の良い貴族ってのは大抵黒幕なんだ」
「偏見がすごい!!」
ため息を吐く勇。
「まぁ安心してよ。どんな不測の事態も僕が対応するし、そもそも何かあれば事前にシルヴィア様辺りで調査してるだろうし」
「む、それもそうだな。だが警戒はする」
「何故?」
「そっちの方が面白い!!」
てなわけで屋台を見て回った。
私は別に大食いではないが、無料ということでアホみたいに買う。
結果、残して勇に全部食べてもらった。
あとキタザワ君にも。
「二人は本当に仲良しですね」
「そうですね」
「そうだね。仲の良さなら堂々と言えるよ」
「他のことは堂々と言えないんです?」
「コ、コホン。あ、あそこがシアの言ってた?」
何かを誤魔化した勇は、とある場所を指差す。
あそこはキタザワさんに教えてもらったデートスポットの一つだ。
ここなら花火が綺麗に見えるだろうと言われたのだ。
「あ、そうだ。写真を撮りませんか?」
「写真?」
「はい。自分、是非一度お二人と一緒に写真に写りたかったんです!!」
「勿論構いませんよ?」
「僕も」
そう言って三人はカメラを設置し、花火が上がるのを待つ。
そして
「あ、タイマーしても大丈夫ですよ」
「え?でも花火が上がってからの方が……」
「大丈夫です。一度タイマーを押して下さい」
「わ、分かりました」
よく分からなそうにタイマーを設定したキタザワ君は私の隣に立つ。
私が中心に立ち、左右の勇とキタザワ君がいる形だ。
「あ、そろそろタイマーが」
「安心してよキタザワ君。僕達の隣に誰がいるか考えてごらん」
「あ」
そしてタイマーが0秒を指した瞬間
「綺麗に撮れましたね」
後ろで大きな花火が咲いた。
「す、すごい」
「昔からそうなんですよ。写真を撮ると、何故かいい感じのことが起きるんです」
「さすがシア様!!」
そう言って感動しているキタザワ君を見て、確かに年相応だと思った。
「あれが将来イケメンとして私の女を奪うと思うとムカつくが」
「さすがに12歳には怒らないであげて」
「でも結局、キタザワ君って何がしたかったんだろ」
「さぁ?」
よく分からないが、なんだかんだ楽しかったので、私は大満足して祭りを堪能したのだった。
◇◆◇◆
「ということがありました、お父さん」
「……そうか。ちなみにだが、シア様を攫えたか?」
「十中八九無理です。幾十もの魔法及び四月一日勇による護衛。他国全ての力を上げて挑んでも傷一つつけられないでしょう」
「となると、やはり方法は魔女の復活……か」
キタザワはとある資料に目を通す。
「神に愛されし子……か」
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