第42話
暗闇の中、輝く金の髪が三つ。
「ククク、モブ男が負けたか。だが所詮、奴は四天王でも最弱」
「王族の面汚しが」
「シャルもそう思います」
クククと部屋の中で不気味な笑い声が響く。
「だがどうやら此度の勇者は中々やるらしい。何かプレゼントを送るべきではなかろうか」
「いい提案だ、四天王シアよ」
「シャルもそう思います」
またしてもクククと笑い声が鳴る。
「では明日、3人で買いに行くとするか」
「目にもの見せてくれるわ」
「あ」
「ん?どうしたのシャ」
電気が点く。
「「目がぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」」
「また暗い部屋で……ってシャルもいたの。ダメよ、シアとお兄様の悪ふざけに乗っちゃ」
「でも楽しかったですよシルヴィアお姉様」
「シャルの場合はシアと一緒なら何でも楽しいでしょ。で?何をしてたの、シア」
「な、何もー(露骨に視線を逸らす)」
「……」
「な、なぁレン!!」
「こっち振るな!!」
演技下手組が互いに互いでボロを量産する。
「え、えっと……あれだよお姉ちゃん。四天王ごっこがしたかったんだよ」
「3人しかいないけど?」
「モブ男は死んだから……」
「モブ男って誰よ」
「王族の面汚しだ」
「自虐ですかお兄様」
「今日のシルヴィアキッツイな」
「お姉ちゃんっていつもこんなもんじゃない?」
「いや、いつもなら俺にもっと優しいんだが……」
「聞こえてますよ」
はぁとため息を吐くシルヴィア。
「お兄様に最近厳しいのはお兄様が近頃シアを甘やかしすぎだからです。気持ちは分かりますが、自重して下さい」
「すまん」
「シアはいつも怒られるようなことするからでしょ」
「すみません」
二人で謝る。
「もう。別に遊ぶのは構いませんが、遅くならないで下さいね」
「ああ、そこは俺が見てるから大丈夫だ」
「信頼してますよ」
そう言ってシルヴィアは部屋を出る。
「……ふぅ」
「危なかった」
「危機一髪ですね」
そう、この四天王(四人いない)会議の目的は
「絶対にお姉ちゃんにはバレないようにしないと」
シアはカレンダーに書かれたハートマークを再度確認するのであった。
◇◆◇◆
「シルヴィアの好きそうなものか。難しいな」
「王族故の悩みだね」
「シャル達大体何でも買えるから……」
道端を歩く3人の覆面。
しかも身長が左から大、中、小というなんとも異質なメンバー。
視線は集まるが、それ以上のことが起きるわけでもない。
これなら安心してシルヴィアお姉ちゃんの
「すみません、少しお時間いただけますか」
「「「……」」」
そこにいたのは騎士。
鎧が銀色のことから、私達直属の王国騎士ではないことが分かる。
一般的な騎士というわけだ。
(どうする)
(正体バラすか王国騎士呼ぶか素直に時間を割くかだが)
(お兄様はお時間大丈夫なんですか?)
(いや、ちょっと今日を逃すとまずいかもだ)
アイコンタクトだけで会話し、どうするべきか悩む。
結果
(任せろり)
(頼んだ)
(さすがお姉様!!)
こういう時くらい私に任せろって。
というわけで
「すみません、急いでいますので」
「その声はシアさ……は!!も、申し訳ございません!!し、失礼致しました!!」
ペコペコと何度も頭を下げ、騎士の人はスキップしながら去って行く。
「さすがお姉様です。たった二言で問題を解決するなんて」
「ぬはは、困ったらお姉様に頼りなさいシャル」
「とりあえず急ぐぞ。下手に目立てばシルヴィアの情報網に捕まるからな」
「「はーい」」
事前に計画していた場所にたどり着く。
「いらっしゃいませ」
「ふぅー」
「暑かったー」
「シャル汗かいちゃった」
私達が最初に来たのはアクセサリーを扱う店。
なんか簡単に言ったが、一つ一つの値段はマジで破格。
私のお小遣い1年分くらいと言えば想像できるだろうか。
私のお小遣いがいくらかは独自で想像してくれ。
ちなみに前世の私が聞いたら目ん玉飛び出るくらいだ。
まぁ最近は1週間で使い切るんだけど……
そんなわけでここは色々と金持ち連中が利用するため、とにかく口が硬い。
だからここで正体をバラそうが何も起きないし、お姉ちゃんにバレることもない。
だから本来ならゆっくりくつろぎたいところだが
「適当に見て回って良さげなのをピックアップしろ。シアは向こう、シャルはあっちだ」
「りょ」
「はい」
慌ただしく中を巡回する。
「うーん、お姉ちゃんは赤でも青でも何でも似合うからなー」
「高そうなやつは無駄遣いだと言われるし。安めので似合いそうなのは既に持ってるだろうし」
「そもそもシルヴィアお姉様はあんまり物欲がないから、どれが好みか分かんなーい」
三者一様。
皆が歩き回りながら首を傾げる。
「……仕方ない。次に行くぞ」
慌ただしく店を後にした。
◇◆◇◆
「お姉ちゃんはゲームとかしないし……」
「香水も確か上等なもんだったな」
「あ、このお洋服お姉様に似合いそう」
それから色んな場所を回ったが、結局それらしいものは見つからないでいた。
「まずいな。このまま何も見つからなければ……最悪、シアに体を売ってもらうしかなくなる」
「なんで私!!」
「絶対ダメだから!!」
ギャースカギャースカと騒ぐ私達を無視し、レンは再びどうするか考える。
「そういえばシア。確かフローラに頼んでそれとなく欲しいものを聞く作戦はどうなった」
「レン。かつて私の作戦が成功した試しがあったか?」
「愚問だったな。シャルも何か心当たりはないのか?」
「えっとねー。……あ」
何かを思い出したシャル。
「そういえばシルヴィアお姉様は以前隣国の情報が欲しいと」
「シャル、それ以上は言わんでいい」
「もしかして旅行にでも行きたいのか?」
「そ、そうかもな」
レンが何故か焦っているように見えるが、それよりもこれは素晴らしい情報だ。
お姉ちゃんが旅行に行きたいのなら是非とも……
「でもお姉ちゃん旅行なんて行く暇あるの?」
「ないな」
「じゃあ無理じゃん」
「行けないから行きたい可能性だってあるだろ」
「はぁ、どうしよ」
あれもダメこれもダメ。
ただただ時間だけが流れて行く。
これじゃあそろそろ日が暮れてしまう。
何かいいアイデアは
「……あ」
つい最近の会話を思い出す。
『学生の頃と違って、最近は胸躍るような話が聞けないわね』
『恋バナ?私が好きな人はもちろんお姉ちゃんだよ』
『シアの浮かれた話でもあれば十分なのだけど。せめて、何か非日常を味わいたい気分なの』
私は思い付く。
「サプライズをしよう」
◇◆◇◆
「ふー、疲れたわね」
大きく体をひねるシルヴィア。
ただでさえ不思議と凝る肩が、長時間の労働によって更に疲労が蓄積する。
何かリフレッシュをしなければと考えたシルヴィアは
「……シア、ちゃんと勉強しているかしら」
早速とばかりに癒しを求めに部屋を出た。
それと同時に異変に気付く。
「人の気配がない?」
普段であれば必ず使用人と王国騎士がいるはずの空間に、何故か今は人っ子一人いない。
明らかな異常事態。
一見、凡人とは一線を隠す知能を持つシルヴィアであれば事の原因を瞬時に認識出来ただろう。
だが、彼女が真っ先に出した結論は
「シア!!」
急いで廊下を走る。
久しぶりに全力を出した。
床が鈍い軋みを上げ、風が遅れて音を立てる。
今のシルヴィアにはシアの身の安全のことっで頭がいっぱいであったのだ。
『シアのこと……お願い……ね、お姉……ちゃん』
それは、託された思い。
『もしかしたらシアはもう……二度と目を覚まさんかもしれん』
それは、もう二度と同じ悲劇を繰り返さない為に。
『お姉ちゃん、大好き』
それは、誰にも負けないと心から思える程の愛。
そしてシルヴィアはシアのいる筈のリビングの扉を開けた。
そして声を出そうとしたシルヴィアが聞いたのは
「「「「お誕生日おめでとう!!」」」」
鳴り響くクラッカー音だった。
「……え?」
ポカンと口を開けるシルヴィア。
それを見て嬉しそうに盛り上がる一同。
「まさかここまで上手くいくとはな」
「言ったでしょ。お姉ちゃんって案外こういった単純なことに騙されるって」
「シルヴィアお姉様のあんな顔、久しぶりに見ました」
「まぁまぁ。一度席につけ。シルヴィアもほら」
「は、はい」
未だに状況を理解出来ていないシルヴィアは促されるまま席に座らされる。
「え?お父様?」
「今日の主役だからな。フローラも許してくれたよ」
そこは普段はオルドーが座る席。
それが意味することはこの場の誰もが……シア以外の皆が認識していること。
それでも座らせた。
だからこそ座らせたのだ。
「難しいことは考えるな。ただ楽しめ。それが今日のお前の仕事だ、シルヴィア」
「お父……様……」
その後オルドーはシアの隣に行こうとし、「キモい!!」と拒否され渋々レンの隣に座った。
そしてここに来てやっと、シルヴィアは全ての出来事を理解した。
「私、今日誕生日……」
「やっとか」
レンは笑いながら主役よりも先に肉にありつく。
「俺でも流石に自分の誕生日くらい覚えてるけどな」
「でもレンの誕生日はせいぜいプレゼントだけで終わらすけどね」
「おいシア。祝え。俺をもっと祝ってくれ」
「レンはどうでもいいとして、お姉ちゃんどう?大分刺激的だったんじゃない?」
楽しそうに尋ねるシアに、シルヴィアは嘘偽りなく答える。
「そう……ね。正直驚かされたわ。去年はどちらかと言うと貴族達のご機嫌取りみたいで……誕生日なんてこと忘れていたわ」
「サプライズは大成功ってことだね」
「ニシシ」と笑うシアを見て、シルヴィアは自分の今の気持ちを知る。
「あ」
「え」
「あーあ。シアが泣かせた」
「お、お姉ちゃん!!」
慌ててシルヴィアの近くに寄り、アタフタと慌てるシア。
それを見て腹を抱えて笑うレン。
お姉様素敵と言いつつ、その目は珍しくシルヴィアを見つめているシャル。
そしてそんなみんなを含め、温かな目線を送るオルドー。
(ああ、そっか)
涙を零したシルヴィアは
「みんな大好きよ」
そう言って笑うのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます