第41話
勇の一日は早い。
「ふわぁ、おはよう」
『うむ』
目を覚ました勇は隣に置いてある剣と挨拶を交わす。
「お風呂行ってくる」
朝シャワーを浴び、シアにオススメされたスキンケアを終える。
「んー、よし」
一度伸びをし、朝食を作る。
今日は適当に卵焼きとベーコンだけで済ますようだ。
最近シアがハマっているアニソンを口ずさみ、料理をしている途中
『来たぞ勇』
「シアも起きた時間かな?」
火を止め、外に出る。
「今日も凄いね」
『あれでまだ成長期すら来てないなんぞ恐ろしくて仕方ない』
空から飛んできた街一つすらも破壊しうる魔法を
「行くよ」
勇は手に持つ剣で切る。
それにより真っ二つとなった魔法は
『相変わらず殺意が高いの』
「あはは」
数万という数に分裂し、もう一度襲い掛かる。
勇はそれを全て打ち落とし、やっと魔法はその力を失った。
「朝の運動にしては派手過ぎたな」
少し汗が滲んだ勇はもう一度お風呂に入るべきか迷う。
だがさすがに面倒だと思い、魔法でパパッと処理をした。
「大丈夫かな?」
『安心しろ思春期男子。あやつは汗の匂いくらい気にせん』
「臭いってこと!!」
ご飯を食べ、制服に着替えた後とりあえず消臭スプレーを何度もかけ、勇は家を出た。
「勇おはよう」
「おはよう」
隣に住んでいる幼馴染と挨拶をし、共に登校する。
「あ、勇先輩おはようございまーす」
「おはよう」
学校に通う途中、仲の良い後輩に話しかけられ共に登校する。
「勇君おはようございます」
「おはよう」
よくお世話になっている学校の先輩に話しかけられ、共に登校をする。
「四月一日」
「勇さん」
「ゆっぴー」
「いっぴ君」
「みんなおはよう」
いつの間にか大名行列かのような人の塊が生まれる。
「おい見ろよ」
「朝から随分と羨ましい限りだな」
その光景を見た男子生徒は最早慣れた様子でそれを一瞥し去って行く。
身体能力が人間のそれではない勇にとって、そのような陰口も日常茶飯事。
だから傷付くことなど
『でも、お主も人じゃよ』
「うん。誰よりも僕が分かってるよ」
ないというわけではなかった。
◇◆◇◆
学校に着いてもその光景は終わらない。
教室にまで、まるでアイドルの握手会のように列が出来ている。
「相変わらず人気だね勇」
「あはは、でもあんまり長居しないでね。教室のみんなに迷惑になるから」
「「「「「はーい」」」」」
だがその景色も直ぐに終わることになる。
「おーいお前らー。シア様が登校されたぞー」
教室に入ってきた男子の一言と共に
「じゃあねー」
「またです勇先輩」
「お勉強頑張って下さい」
ゾロゾロとそれぞれの場所に帰って行く面々。
『いつ見ても頭のおかしくなる光景じゃ』
そして時間が経つごとに学校中から音が無くなって行く。
それはまるで王の御前かのように、はたまた神が降臨するかのように。
そして教室の扉が開き
「おはようございます」
「「「「「おはようございます!!!!」」」」」
一人の女の子が教室へと入って来た。
皆がその姿を見てほうける。
毎日のように会っていても慣れない。
というか追いつけない。
どこまで行っても実感が持てないのだ。
目の前にいる存在が、自分らと同じ空間にいるとすら思えないのだ。
そんな神の子とまで言われた少女は勇の前に立ち、一言
「私は思い付いたんだ」
勇は心の中でクスリと笑う。
「今日は何を失敗するの?」
「おい!!何度も言ってるが今回こそは成功するんだ!!」
「何度も言ってるから信用ならないんじゃない?」
怒りながら席に座る少女シア。
彼女こそが勇の思いび
「コホンッ!!」
「どうした?風邪か?」
「いや、なんだか何か大切なことを暴露されそうな気がして」
「よく分からんが、まぁ聞け。今朝珍しく早起きしてテレビを見ていたら、占いが流れてたんだ。ちなみに私は最下位だった」
「うん、それで?」
「私はとあることを思い出した。女の子というのは総じて占いだとか診断系が好きだと」
「よく聞くよね」
「というわけで考え付いたのは」
シアはキメ顔で
「恋占いしてれば勝手に女の子が寄ってくる大作戦だ!!」
「うーん、成功する気がしないな」
「物は試しだ。早速私達で始めるぞ!!」
そしてシアは机に診断系の本を置く。
用意周到だなーと勇が考えていると
『チャンスじゃないか?』
「なにが」
『女という生き物が占いを好きのなる理由は総じて運命とかいうくだらないものを信じているからじゃ』
「下らないことはないと思うけど」
『本当かどうかはどうでもいいんじゃ。大切なことは、目の前の娘が今朝占いを見たという事実』
「……」
勇は瞬時に理解する。
「もしこれで運命の相手が僕なら」
『もう何も言わん。せいぜい足掻け』
そして声が聞こえなくなる。
「やろうかシア」
「お、急にやる気だな。……あぁ、そういう。勇も乙女な奴だなー」
「そうだねー」
シアはニヤニヤと勇を眺める。
知っている人間からしたらただのコントである。
「じゃあ勇から試してみるか。まず勇の好きな女性のタイプだな。合ってたら合ってるって言えよ」
「うん、分かったよ」
「もし実物がどんなだったか忘れたら写真でも見て良いいから」
「大丈夫だよ(目の前にいるから)」
早速本を開いたシアは最初に
「その相手はおっぱいが大きいですか?」
「ッ!!ゴホッ!!ゴホッ!!」
「どうした?やっぱり風邪か?」
「違……なんて質問なのそれ!!」
「いやそう書いてあるし……」
シアの本を見ると、本当に同じ内容が書かれていた。
「絶対これ偽物だよ……」
「だから試しなんだ。どうせ女の子を釣るなら信憑性が高いやつを使わないとだからな」
「そういうことなら」
とりあえず勇は目の前にいる女の子をジッと見る。
「普通よりは……大きい方かな?」
「そうか。診断結果が出たぞ」
「もう!!」
「あなたの好きな相手はおっぱいです。しっかりとした恋を始めてみましょう、だそうだ」
「それなんで売れたの!?」
勇は頭を抱える。
なんでいつもこんな展開になるのだと。
「でも勇の好きな相手は胸が大きいんだな。私もおっぱいが大きい女の子は好きだ!!」
「はいはい」
「うーんじゃあ次は勇が私に質問してくれ」
「うん、分かったよ」
勇は違う本を手に取り、質問をする。
「えっと……あなたの為に働く相手、美容に気を使う相手、家事をする相手。この中で誰を選ぶ?」
「うーん」
シアは考える。
「私は王族だし、正直お金は湯水のように湧く」
「ま、まぁね」
「家事に関してもフローラが全部やってくれるし」
「そ、そうだね」
フローラという言葉が若干トラウマの勇。
「となると」
「ああ、答えは」
「美」
「おっぱいの大きい女の子だ!!」
「……」
勇は死んだ目で結果を見る。
「……なんで胸の大きい女性を選んだ場合があるんだ……」
「どれどれ」
シアは結果を見る。
「おっぱいの大きい女の子を選んだあなた。エロいです。そんなんじゃモテません……だと……」
「凄いど正論だね」
「……ムカつくが、信憑性が高いことが分かった」
シアはその本を持ち
「作戦執行だ!!」
「はいはい」
そして元気に今日という楽しい一日が始まったのだった。
◇◆◇◆
『今日もダメじゃったな』
「僕が言うのもあれだけど、シアって空回りが多いよね」
『力の代償というやつじゃろうな』
放課後、一人で帰る勇。
普段なら隣にシアか女の子で溢れているのだが、今日はそうもいかない。
『面倒じゃの』
「仕方ないというか、シアの護衛をするなら仕事はしないとだから」
目の前で他の人と同じように歩く女性。
そんな人の肩に勇は手を置き
「お帰り下さい。今ならまだ見逃しますよ」
「い、一体何のことで……」
「おっと」
突然振られたナイフを指で止める勇。
「な!!」
「もう一度忠告するよ。今ならまだ見逃す。だから二度とこの国に……シアに近付くな」
「クッ!!」
女性は脂汗を流し、その場を去る。
『それは仕事したと言えるのか?』
「追い払ったんだし、少なくともシルヴィア様には怒られないかな」
『主もバカじゃの。どうせ逃したところで』
離れた場所で爆音が鳴る。
「……」
『派手じゃのー』
「……あの方は歪だ。いつか、助けてあげたいけど」
『主には無理じゃろ。むしろ逆効果じゃ』
「僕は本当にダメな人間だな」
勇は悔しそうに頭を掻く。
そして、この問題を唯一解決できる相手を、愛しの相手を思い描く。
「どうやったらシアみたいになれるかな」
『主は本当にゾッコンじゃの』
「うるさいなー」
そして家に帰った勇は晩御飯の用意をする。
今日はちょっと贅沢でもしようかと考えていると
「……アラート」
『おお、久しぶりじゃな。いやー今日は愉快な日じゃな』
「また睡眠時間が……」
勇は剣を手に取り、家から離れた森に移動する。
すると金属音が少しずつ近付いてくる。
夜の影から顔を出す黄金の鎧。
隊列を組む騎士達の前に立つ黄金の髪を持つ男。
「シアの運命の相手がお前だったというのは本当か」
「違います」
「そうか。やはり噂だったか」
「まさか、それを確認するためだけにこれを?」
「悪いか」
先頭に立つレンは蔑むような目を勇に送る。
「だが確かに、王国騎士を呼び出すのは大袈裟だったな」
「でしたら今後は」
「では、呼び出したなら役目を与えよう」
「やっぱりこうなるのか……」
「殺せ」
そしてまたしても長い夜が始まった。
それは時計の針がテッペンを通りががる頃まで続き
「ハァ……ハァ……ハァ……」
「お疲れ様です」
「勇さんもお休み下さい」
「はい、お気遣いありがとうございます」
疲労で倒れたレンを連れ、王国騎士は撤退していった。
「シャル様がいなくてよかったー」
『あの娘は夜は寝るからの』
「でもシャル様が来ると本気を出さないと死ぬから。これなら明日は学校にも行けそうだ」
ちなみに帰宅した勇の晩御飯はラーメンになったという。
「美味しいんだけどね……」
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