第39話
「というわけで暫くの間、私は勇から距離を取ろうと思う」
「そ、そっか……」
歴代でもトップレベルで凹む勇。
そりゃそうだよな。
「好きな子にこんな噂聞かれたら立ち直れないからな。分かる、分かるぞー」
「シアにだけは分かられたくない」
何故か今度は少し怒る勇。
情緒不安定か?
「と言ってもあくまで一時的なものだ。さすがの私も親友とあまり話せないのは嫌だ」
「そ、そっか」
今度は嬉しそう。
喜怒哀楽を一瞬でコンプリートする気だな。
「だから勇も手伝え。互いにメリットのある提案だろ?」
「ま、まぁこれのせいで最近はより殺されそうな頻度が上がってるし、確かにメリットはあるかも」
「だろ?」
そんなわけで
「あれ?」
「なんか……」
「変?」
周囲の目が分かりやすく変わる。
そりゃそうである。
昼休みになれば必ず私の場所に来ていた勇が今日はいないからだ。
「まさか喧嘩か?」
「シア様を怒らせるなんてなんて不敬な」
「やはり四月一日殺すべし」
ヒソヒソと何かを話すクラスメイト。
うんうん、いい調子だ。
よく一緒にいる程度で付き合う噂が流れるのなら、ちょっと離れただけで付き合っていないと噂されるのも時間の問題なはず。
勇は勇の方で誤解を解いていくらしいし、私は気長に待つとするか。
「というわけで勇。図書館で本でも借り……」
あ
「えっと……」
一人で虚空に話しかける姿をみんなに見られてしまう。
「ひ、一人で行こ」
私はトボトボと図書館に向かった。
「今の見たか?」
「ああ、やっぱりあの二人」
「どうにか私達で」
◇◆◇◆
「シア様!!」
「あ、お久しぶりですね」
図書館に行くと例の文学少女がいた。
私と趣味も合うし、同じ大和撫子として是非お近付きになりたいが、あれからこの子は色んな男子に言い寄られ彼氏ができたそうだ。
無念!!
「お元気そうで何よりです」
「シア様のお陰です。あの日の経った数瞬、それだけで私は変われました」
「私は何もしていませんよ?」
強いて言うならナンパした。
んで玉砕した。
「シア様にとっては普通のこと……と言うことですね。その懐の広さに感涙します」
「あ、ありがとうございます?」
ごめん、私あんまり難しい言葉使われると分かんないんだ。
「それと一つお聞きしたいのですが」
「はい、(可愛い女の子の話なら)何でも聞きますよ」
「不躾な質問なんですが」
文学少女は気まずそうに
「勇さんと喧嘩したという話は本当でしょうか?」
「喧嘩ですか?」
まさか噂がここまで発展するなんて。
ちょっと離れただけだろうに。
「いえ、喧嘩なんてしていませんよ」
「ですが、シア様と勇さんはその……お、お付き合いをされているのでは?」
「それが問題なんですよね」
「え?」
現状を話す。
別に私達は付き合っていないと。
というかそういう関係に発展することはないと。
「それに、勇には好きな人がいるそうですし」
「え?でもそれは誰がどう見てもシ」
「ねぇシア」
「ッ!!ミアさん!!お久しぶりですね!!」
誰かに話しかけられたと思ったら、赤いツインテールを揺らす女の子、ミアがそこにはいた。
文学少女と同じく勇にNTR一人である。
「四月一日と別れたって本当?」
「別れたというか、私達はそもそも一度もお付き合いしたことありませんが……」
「え?そうなの?」
というわけでまた同じ説明をする。
「ふ〜ん、そうなんだ」
「ですのでミアさんは是非私と」
「そっか。じゃあ私が四月一日を狙っていいんだよね?」
「チッ」
またしても邪魔するか勇!?
「か、構いませんが、やめた方が…って」
まさか、勇の好きな人ってミアさん!!
あ、あり得る。
なんて言ってもミアは私や犯罪者にも堂々と立ち向かえる強い心、そしてそんな中でも際立つ優しさ、それと顔も可愛い。
こんな子に惚れない男などいない。
ならば「どうせ勇は落とせないからやめた方がいい」なんて言うべきじゃない。
「が、頑張って下さい。ミアさんならきっと」
「……なんでいつまで嘘をつくの?」
「え?」
う、嘘?
「そんな悲しそうな顔をして、本当にそんな関係じゃないって本気で言ってんの!!」
「ミア……さん」
いや普通にミア諦めるのが悲しいんだけど?
勇に取られると思うと今もなお心臓が張り裂けそうなんだよ。
「ち、違うんですミアさん。それは誤解で」
「……やっぱりあなたは優しいわね。でも、そうやって見て見ぬふりをしてたら後から後悔するわよ!!」
「ミアさん……」
お願い、話を聞いて。
まるで私が三角関係のヒロインみたいな扱いをするのはやめて。
「自信を持ってシア。あなたは、私が認めたナンバーワンに可愛い女の子なんだから」
「ミアさん……」
そして彼女は涙を流し去って行った。
いや本当になんなの?
というかいつの間に彼女はベジ◯タみたいなっちゃったの?
「な、なんだか凄い勢いの人でしたね」
「あ、あはは、ミアさんは少々お転婆なので」
完全に蚊帳の外だった文学少女が苦笑いを浮かべている。
やっぱりこうして見ると本当に可愛い。
くっそ〜、勇さえいなければ私が狙ってたのにな。
というか
「大事なことをお聞きするのを忘れていました。お名前、教えてもらえますか?」
「私のですか!!」
文学少女はあわあわと慌てた後
「私は……メルトです」
「メルトさんですね。覚えました」
「す、直ぐに忘れてもらって大丈夫です〜」
恥ずかしそうに話す彼女は本当に可愛いかった。
本当に、本当に惜しい人をなくしたな。
「本当に惜しい」
「シ、シア様!!」
「いっそこのまま勇みたいに奪ってでも」
ガラッ
「シア!!助けてくれ!!」
「……はしたないですよ勇」
図書館の扉を勢いよく開ける勇。
こいつ、本当にいつもタイミングが悪いなぁ。
ま、いいけど。
それより珍しいな、勇が助けてなんて言うこと。
「どうかしたのか?」
「う、うん。その前にその人は大丈夫なの?」
「ああ、なんか顔を近付けたら気絶した」
「そ、それは仕方ないね」
勇は何故かメルトさんに対し手を合わせた後
「助けて欲しい」
「何があったんだ?」
「一応、僕は僕なりに努力したんだ。シアとは別に付き合ってないと仲良い友達に話していると」
シア様と勇は付き合ってないらしい→シア様と勇はそういう関係じゃないらしい→シア様と勇の仲はそんならしい→シアと勇は喧嘩しているらしい→王族と勇が戦争するらしい
「ってなってるんだ」
「あながち間違いではないのでは?」
実際に勇とマイファミリーはよく喧嘩してるし。
「そこはまぁ……いいんだ。でも問題は」
「勇君!!私、勇君のためなら国とだって戦えるよ」
「勇さん」
「勇」
「四月一日君」
「ダーリン」
続々と中に入ってくる女生徒。
「自慢……ですか?」
「いや何で怒ってるの?そうじゃなくて、僕がその……フリーって言うのかな?まぁ誤解を解いた結果、ちょっと大変で」
「やはり自慢ですね」
扉の向こうでは女の子の列が出来上がっている。
完全に私への当てつけだ。
「ごめん、もう僕にはどうすることも出来ないんだ」
「はぁ」
「助けて……欲しい」
「何を?」
「その……なんて言うか……」
「はぁ、もういいです」
ムカつくし、作戦は失敗だしで踏んだり蹴ったりだが、勇がいない時間は暇で暇で仕方なかったしな。
もう今日はいっか。
「皆さん」
私は優しく丁寧に
「お帰り下さい」
「「「「「「「「はい」」」」」」」」」
そして女子一同は足並み揃えて帰っていった。
「これでまた私と勇の噂が増えるな」
「ごめん」
「別に勇は悪くないだろ」
でも……はぁ、仕方ないか。
今後は勇を知らなかったり、噂の届いてない地域の人をナンパするしかないか。
「今日はもう帰るかー」
「まだ授業あるからね」
私はメルトさんに勇の来ていた上着をかけ、部屋を退出したのだった。
◇◆◇◆
次の日
「悪い勇。俺らお前のこと勘違いしてた」
「え?」
「そうだよな。いくらお前でもあのシア様とお付き合いするなんて難しいよな」
「あ、う、うん。誤解が解けたなら何よりだけど、どうしたの急に」
「いや、いいんだ」
生暖かい目で勇を見つめる男子。
「お前って昔から何でも出来るし、女子からモテて嫌な奴だと思ってたが」
「そんなこと思ってたの!!」
肩にポンと手を置き
「今日から俺達は仲間だ。頑張れよ、ヘタレ野郎」
「ちょ!!」
一方その頃
「は、はい、そうなんです。シア様と勇さんはお付き合いしてませんが、勇さんは頑張っているので自重を……」
二人の為に恩返しを頑張るメルトにより、勇がヘタレ野郎という噂を拡大し続けるのであった。
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