第38話
「家族旅行はどうだった?」
「楽しかったけど、天国もあれば地獄もあることを知った時間だったな……」
教室では暑すぎるが故、逆に冷房が効き前よりも涼しい環境で私達は暮らしていた。
しかも王女特権で私は好きなだけ温度を設定出来る。
権力様様だぜ。
「でもあれだな。やはり虚しさもあった」
「どうして?」
「だって海にいるのに彼女がいないなんて有り得ないだろ!!確かにシャルとお姉ちゃんの水着が見れて役得だったけど」
「相変わらずおじさんだなぁ」
「だがそれだけじゃあ私は満足出来ない。というわけで今回の作戦を発表する!!」
「わー」
勇は投げやりな拍手を送る。
どうせこいつは今『きっと失敗するんだろうなー』的なことを考えているだろう。
だが甘い!!
お前の甘いフェイスよりも全然甘いぞ勇!!
「私は気付いた。そう、別に海じゃなかろうと女の子の柔肌を拝めるのではないかと!!」
「うわぁ」
「何だその顔は。王女に向けていい顔じゃないだろ」
「ならせめて王女らしい発言を心がけてよ」
王女らしい?
むしろ王族っぽい言葉だっただろ?
だってほら、王様のイメージって権力を振りかざす暴君みたいなのじゃない?
「オルドー様が身近にいてよくそんな言葉が吐けるね」
「でもあいつ、娘のために国一つ滅ぼそうとするんだぞ?暴君だろ」
「微妙に困る返しはやめようか」
勝った。
敗北を知りたい。
「だけどどうするの?温泉とかはシルヴィア様に禁止されてるでしょ?」
「うわ。勇、お前最初にその発想とかどエロいな」
「ぼ、僕はエロくないよ!!」
なんか早口で言い訳している勇は置いておき、確かに私はお姉ちゃんに様々な自由を与えられる代わりに、様々な不自由を受けている。
例えば先程のように私の健康だとか楽しいと思うことは基本全部オッケー。
でも、王族の名に傷をつけることと私が危なそうなこと、それと人々に多大な迷惑をかけることが禁止となっている。
そんでお姉ちゃんが言うには私が温泉に行くことはみんなの迷惑になるらしい。
まぁ王女である私が急に来たら迷惑になってしまうのも仕方ない。
温泉だと顔とか隠せないしな。
じゃあ一体どうやって女の子の白い肌を見るかというと
「今日はなんと、プール授業なのだ!!」
学生のみに許された禁断の花園。
なんか最近はプール授業が無くなっている場所が増えているそうだが、残念私は王族だ。
我が校のプールは新品同然、水は常に清潔で夏は涼しく冬は温かい最強設備。
私が本気でお姉ちゃんとジジイに頼み完成されたユートピアなのだ。
まさに叡智の結晶と呼んでもいいだろう。
というわけで早速
「覗くぞ」
「シアはもう少し慎ましさを持とうか」
当然人前での水着が禁止されてる私。
てなわけでプールは個室で入るか見学するしかない。
今日はもちろん見学を選んだ。
勇は普通に一生徒として扱われるため、今私の隣で水着姿となっている。
馬鹿みたいな高身長とバキバキに割れた腹筋。
水も滴るいい男とはコイツのことを指すのだろう。
実際、体操をしている女子達はチラチラと勇に見惚れている。
そんで隙ができた女の子達を私が見る。
これぞ永久機関。
勇以外の全てが幸せになれてしまう。
これでノーベル賞は私のものだな。
「ん?どうした勇、こっちばっか見て」
「いや……ただ、髪をまとめるシアは新鮮だなって」
「そうか?まぁ確かにそうかもだな」
でもそんなジロジロ見るほどか?
長く一緒にいすぎて、逆に物珍しいのかもしれないな。
ま、そんなことどうでもいいか。
「ゲスゲスゲス、実に気分がいい。何かエッチなハプニングでも起きないかな」
「だからシアは発想が」
「おーい四月一日。授業始まるから列並べ」
「はい、今戻ります」
勇は「じゃあね」と言って生徒達の間に混ざる。
私も小さく手を振り返し、ポツンと一人佇む。
なんかこうして学校で一人になるのは珍しいな。
普段は常に勇が隣にいるから凄い違和感だ。
「うーん、手持ち無沙汰だ」
思ったよりも私は寂しがり屋なのかもしれない。
誰かと話していない時間があると心がモヤモヤする。
「ま、仕方ないか。てか、それよりもやはり女の子だ。女の子は全てを解決する」
目をパッチリと開け授業を眺める。
時々男どもの筋肉が入ってきて目の毒だが、そんなものよりも女の子の
「おい後藤!!淳!!お前らの力はそんなものなのか!!」
「お、女の子の……」
「俺達が普段耐えている修行は、こんなもんじゃないだろ!!」
「お、おおおおお女の子を」
「大丈夫だ。これを乗り切れば待つのはプロテインのプール。お前達の幸せへの道だ」
「おおおおおおおおお大筋肉に目が行くぅううううううううううううううううううううう!!」
さっきから騒がしいあいつなんなんだ!!
めっちゃうるさいし、変だし。
なんで筋肉に話しかけてるんだ?
なんで誰もそれを気にしないんだ?
てかなんかお風呂に入る時に見る謎の夢にめちゃくちゃ光景が似ている気がする!!
分からない。
分からないからこそ気になるぅうううううう。
「お、おいシア様がこっち見てるぞ」
「ま、まさか俺のことを?」
「いやいや、どうせ四月一日だって」
「そりゃそうだよな。ありゃ誰も勝てん」
一番前で体操をする勇の体は完成されている。
同じ男から見ても惚れてしまいそうなあれに注目しない女などいるだろうか?いや
「気になりゅうううううううううう!!!!」
いたわ(反語失敗)。
そして結局、体育の授業は謎の筋肉男子によって全て無に返された。
「……なぁ勇。私が見たかったのは白い肌なんだ」
「どうだった?楽しかった?」
「だが……だがだ。私の記憶には黒光りする筋肉しかないんだ。何故、何故こうなるんだ」
「よ、よく分からないけど残念だったね」
「はぁ、最悪だ。次のプールは来週だし、しばらく学校が憂鬱だなぁ」
トボトボと正門まで歩き、迎えに来たフローラと共に帰った。
「今日は疲れたし、早めにお風呂入って寝よ」
私は自分の服に手をかける。
ガチャリ
「何!?菊池が筋肉痛だと!?こうしちゃいられん。直ぐにプロテインで応急処置をするんだ!?」
……。
「いやだから誰だよ!?」
マジでいつも風呂に入ろうとすると流れる映像はなんなん!!
「魔法か何かか?」
「シア様、お風呂場は滑りやすいのでお部屋に戻りましょう」
「うーん」
なんか釈然としないけど、まぁいいか。
「筋トレでも始めてみようかな?」
「三日坊主で終わったと報告しておきます」
「未来予知しないで!!」
実際はそれより早く終わりそうだけど。
よし、ならいっそ今辞めちゃうか(この間0秒)。
「……ところでシア様、一つお伺いしたいことがあります」
「何?」
「筋トレをする理由はあの男によるものですか?」
あの男って……勇のことだよな?
「いや違うけど」
私が気になるのはあの筋肉ダルマのせいだが。
「そうですか。ならよかったです」
「そ、そう?」
「ですが助言というわけではありませんが、最近のシア様はあのゴミとよく一緒にいられます」
「ま、まぁそうだな」
「その結果、現在人々の間ではシア様とクズがあろうことか付き合っているという噂が後を絶ちません」
あー……まぁそう邪推されてもおかしくないか。
実際には私の恋愛対象は女で、勇には好きな相手がいる。
私達は親友。
それ以上でもそれ以下でもないのだ。
「だから勝手に思わせとけばいいよ。私達は私達のペースで」
「ですがそのせいで女性はシア様にアタック出来ませんよ?」
「よし、勇と距離を置こう」
「よっしゃ!!」
こうして私の勇と付き合ってませんよ作戦がスタートしたのだった。
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