第37話
「風が気持ちいいぜ」
今日は朝から海。
昼ごろにはもう帰ることになっているので、それまでに海を満喫する必要があるのだ。
だがここで非常に厄介な問題がある。
「私、泳げないんだが?」
別になんとかの実を食べたわけじゃない。
純粋に泳げないのだ。
「そう思って持ってきたわよ」
「わーい」
シルヴィアお姉ちゃんが某えもんのように巨大な浮き輪を取り出す。
テッテレーって感じだ。
「さすがお姉ちゃん!!よし、おいレン!!私と向こうの岩場まで勝負だ!!」
「何故お前は浮き輪で勝てると思った。というか泳げないくせに挑むな」
とか言いつつなんだかんだ勝負に乗るお兄ちゃん。
さすがである。
「もちろん私も馬鹿じゃない」
「え!!馬鹿じゃないのか!!」
「……」
レン、お前もう少し私に気を遣えよな。
まぁいい。
「一人より二人が強いのは当然のこと。私は助っ人を用意した」
「足手まといがいる場合は話が別だと思うが?」
「来い!!シャル!!」
「はーい」
浮き輪の中にいる私の隣からひょっこり顔を出すシャル。
大きいと言っても浮き輪のため、普通2人入るなんて無理だが、シャルはまだまだ子供の為ギリギリエントリー出来ている。
「これで2対1だレン」
「とんでもない助っ人用意しやがって」
レンは額に汗を浮かべる。
夏だし熱中症には気をつけないとだな。
「というわけで勝負だ!!」
「……いいだろう」
「お姉様がんばろー」
「そうだねシャルー」
というわけで早速
「レッツゴー!!」
私は全力でバタ足をする。
隣でシャルも「ふんー!!」と可愛らしく頑張っている。
でも案の定遅い。
そりゃ運動神経抜群、文武ガチ両刀とまで言われた私がいたとしても、まだ子供のシャルと一緒ではこうなってしまうだろう。
それは仕方ないことだったのだが
「あれ?もしかしてレン泳ぐの苦手か?」
「クッソがぁ!!」
直ぐ近くで同じく全力でバタ足をしているレン。
まさかレンも泳げないとは意外だったな。
てっきり私の家族はみんな何でも出来るスーパー王族人かと思ってたのに。
「プププ、頑張れ頑張れ」
「体が鉛のように重ぇ!!」
「お?言い訳か?」
レンの言い訳なんて久しぶりだな。
ふっはっは、もしかしたら久々に兄妹勝負に勝てる日かもしれん。
「行こうシャル!!」
「うん!!」
私も全力で足を動かす。
正直始まって10秒くらいで疲れたが、こんな熱い勝負は久しぶりだ。
悪いが本気で行かせてもらう。
「うぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお」
結果
「勝者、シャル&シア」
「「やったー!!」」
審判をしていたシルヴィアお姉ちゃんが勝者を宣言する。
というかお姉ちゃんさっきまで砂浜いたのに何でもうこっちにいるの?
「はっはーん。惜しかったなレン。ま、仕方ないか。私達に勝とうなんて100年早かったんだ」
「ハァ……ハァ……」
息まで切らしちゃって、随分と必死だったようだな。
「もう少し……手心をだな……」
「シャルよく分かんなーい」
そういえば何故かレンの周りだけ海の水が凹んでいた気がする。
それはまるで上から巨大な何かに押し潰されているように見えたが、間違いなく気のせいだ。
多分暑さによる蜃気楼であろう。
私、蜃気楼って言葉よく知らないけど。
「はぁ楽しかった。付き合ってくれてありがとうシャル」
「シャルもお姉様と遊べて楽しかったです」
「おい俺は?」
それからも色々と遊んだ。
飛び込みだとか砂遊び、ビーチバレー、他にも色々なことをした。
「海たっのしー」
今まで海はリア充がイチャイチャするだけの場所と思っていたが(偏見)、こうして遊ぶとめちゃ楽しいな。
でも家族と集まれる機会なんて稀だし、今度は勇と行くことになるだろうな。
「……あれ?もしかして私」
さっきから勇、勇って……これってもしかして
「嘘!!私、友達少な過ぎ!!」
そんな馬鹿な。
仮にも私は王女ぞ?
何故遊ぼうとする相手が一人しかいない。
「クソ!!絶対、絶対次の海は彼女か女友達と来てやる!!」
シアとの海デートというとある男の野望が潰えた瞬間であった。
「はぁ、こんな熱いのに気持ちまで熱くなっちまった」
プカプカ浮きながら海を漂う。
もし私が日焼けしやすい体質ならきっと後で地獄を見るんだろうなー。
そんなことを考えていると、不思議な現象が起きる。
「あれ?照りつけていた太陽さんが消えた?」
目を閉じても貫通してきた光が消える。
「何だあれ?デカい鳥?」
空には太陽を隠す巨大な鳥型の影。
なんじゃありゃ?
あんな鳥いたっけ?
異世界生活も長いけど、この世界の生物は前と似たようなもんだと思ってたんだけどな。
「それともまさか新生物!!こうしちゃいられない!!今すぐ学会に報告だ!!」
学会とかよく知らないけど、なんか見つけたといえば臨時お小遣いが手に入るかもしれない。
花火で心許なかった小遣いが消え、今は自販機の下のお金すら欲しいのだ。
「うぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!急げぇええええええええええええええ!!!!」
だが浮き輪バタ足の速度は思ったよりも遅い。
残念ながら私が向こうに着くまでに謎生物はどこかに飛び去ってしまうだろう。
実際
「ほら」
太陽の光がまた照らす。
先程の鳥がいなくなってしまった証拠だ。
というか
「爆発音?」
空を見上げると謎生物は消え 煙だけが残っていた。
これはもしや……
「おいレン!!朝っぱらから花火撃つな!!ビックリするだろ!!」
「シルヴィア見ろ。偵察機の破壊音を花火と勘違いしてるぜシア。ウケるよな」
謎生物がいれば謎能力もある。
私特有の聞こえさせようとすれば何でも聞こえるマジックで遠くのレンに謝罪を求める。
それを聞いたレンがシルヴィアお姉ちゃんに何かを言い、二人で楽しそうに笑っている。
いや反省しろよ!!
「あれ?シャルは?」
「あーどうする?シアの水着を見た罪で皆殺しって行っちまったこと伝えるか?」
「適当にトイレとでも言えばいいでしょ。あと、シャルは後で説教ね」
クソう。
私の声は聞こえているが、向こうからの声が全く聞こえない。
この能力一方的過ぎやしません?
「というか長い!!砂浜まで遠いんだけどー。誰か迎え来てー」
そんな私の切実な願いだけは何故か聞こえなかったと後にレンは語った。
絶対嘘だったので殴った。
◇◆◇◆
楽しい休暇が終わった。
いや本当に楽しかった。
ジジイとフローラは結局職務であまり遊べていなかったが、次は全員で羽を休めたいものだ。
ところでだ。
ところで私は休暇の条件として学校からこんなものを配られていた。
「へ、へへ」
「ダメですシア様。今回はシルヴィア様も本気です」
「きゅ、休暇の後だよ?私、せっかく疲労を癒したのに」
「ならよかったです。それなら今日は一日中」
大量の宿題を持ったフローラは不敵に笑い
「勉強三昧ですね」
「休暇なんてクソ食らえぇえええええええええええええええええええええええでええええええええええええええええええ!!!!」
これは未来のお話だが、私は夏休み最終日に同じ台詞を吐くことになる。
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