第34話

「シャルって多分私に隠し事してるよね?」

「……どうしたんだ?急に」

「いや、なんでもない。ただ気になるってだけで、もういいかな」

「そうか」


 私はレンと共に対戦ゲームをする。


「レンって隠し事ある?」

「隠してるんだから言うわけないだろ」

「あるんだ」

「そりゃそうだろ」


 ちなみに何故私がここまで虚無っているかと問われれば、絶賛レンにハメ技を食らっているかただと答えざるを得ない。


「クソゲー」

「自信満々で挑んできといて何言ってんだ」


 そして見事に倒される。


 完全なワンサイドゲームである。


「で?勝手に学校侵入してこっぴどく絞られたのか?」

「シルヴィアお姉ちゃんって怒るとなんであんなに怖いんだろ?」

「母様に似たんだろ」

「……そっか。レンはお母さんのこと覚えてるのか」

「シアはまだ小さかったからな」


 そして静かな空間にゲーム音だけが響いた。


「学校、楽しいか?」

「どしたの急に。休日のサラリーマンの親父みたいなこと」

「いいだろ別に」

「そだね。まぁ楽しいよ。相変わらず友達はいないけど、勝手に騒いで勝手に馬鹿やるのはいくつになっても楽しい」

「そうだな。俺も時々全て投げ出して旅行にでも行きたくなるよ」

「そうなんだ」


 またゲーム音だけが部屋を奏でる。


「行こっか」

「どこに?」

「旅行」

「仕事がある」

「終わらせて」

「俺らだけでか?」

「みんなで行こうよ」

「みんなで一斉に旅行か?」

「やっぱり無理?」

「そうだな……」


 暗い部屋に、ゲーム画面だけが明かりを灯す。


「無理か……」

「無理だな……」

「「あ」」


 You Win


「負けた」

「勝った」

「……」

「……」


 ガチャリ


 突然部屋の扉が開き


「二人して暗い部屋でゲームなんていい身分ね」

「ぎゃぁああああああああああああ突然の光で目が、目がぁああああああああああああああああ」

「ど、どうしてこの場所が分かったんだシルヴィア!!」


 さっきまでの暗さがアホみたいに吹っ飛ぶ。


「どうしてって、急に仕事を放り出したレン兄様とどこかの成績が悪いのに勉強してない妹が急に姿を消したら、ここ以外ないですよね」


 俺とレンは家の片隅にある部屋でゲームをしていた。


 レンは仕事に疲れ、私は勉強に疲れたため二人で協力し逃げ仰せたのだ。


 部屋が暗く静かにしていたのはシルヴィアお姉ちゃんにバレないようにだったのだが


「でも俺達だって疲れてんだ!!」

「そうだそうだ!!」

「毎日仕事仕事仕事、ブラックかってここは!!」

「そうだそうだ!!」

「シアは毎日は勉強してないでしょ」

「ソ、ソウダー美味いなー……」

「シアは好きにしていい!!だが、俺はもう少し休ませろ!!」

「ちょ!!レンお兄ちゃんずるいよ!!」

「はぁ」


 調子に乗ってるレンに一発私のラリアットでもぶちかましてやろうと思ったら


「明後日みんなで旅行に行くそうよ。だから準備しといて下さいね。シアもよ」

「「へ?」」


 ◇◆◇◆


 青い空


 照りつける太陽


 そして耳に聞こえるのはさざなみの音。


「海だぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」

「いやっほぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお」


 私とレンはとことん叫んだ後


「やったぜ!!天井の半分でピックアップキャラ出た!!」

「あれまで終わらせないとな」


 冷房のきいた広いリビングでダラダラしていた。


「レンは仕事が残ってるから分かるが、シアはせっかく来たんだから遊んでこればいいものを」

「うるせぇジジイ」


 レンと同じく残ってる仕事に手を付けるジジイ。


「ほらあれだよあれ。日焼けしたくない的な?」

「シアが日焼けしたところ見たことがないがな」

「なーんか日焼けしないんだもん」


 前世でも家は全然出なくて白かったが、今は肌が少しも変色したことがない。


 それどころか毛穴一つないのがこの体の面白いところだ。


「とりあえず海はいいや。泳げないし可愛い女の子いないし」


 ジジイは諦めたように仕事に戻る。


「それにしても別荘なんてあるんだな」

「むしろ無い方がおかしいでしょ。私達これでも王族よ?」

「へぇ」


 私は仕事をしている二人を見て


「王族未来ないね」

「……」


 既に計画的に仕事を終わらせたシルヴィアお姉ちゃんはテラス的な場所で優雅にお茶を飲んでる。


「ところでシャルは?」

「もう少ししたら来るらしいわ」


 何か忘れものでもしたのか?


 すると


「お姉様ぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」

「シャル!!」


 外からトコトコと走ってくる美少女。


 だけど砂漠に足を取られ、声量の割に全然こちらまで辿り着けない。


 それが逆に可愛らしくて仕方ないが


「迎えにいかないと!!」


 ゲームなんてほっぽり出し、愛しの妹の元までダッシュする。


 ここの海はさすが王族というべきか、小石一つない為怪我の心配がない。


 裸足でそのまま外に飛び出す。


「シャアアアアアアアアアアアアアアアルゥウウウウウウウウウウウウウウウウウウ」

「お姉ぇえええええええええええええええええ様ぁああああああああああああああああああ」


 ガシッ


「やっと外に出たわね」

「お淑やかをもう少し学ぶべきだな」

「いいではないか。あれでこそわし達が望むシアの姿だ」


 私はシャルと熱い抱擁を交わす。


 ちなみに最後にあったのは家を出る二時間前である。


「何かあったの?シャル」

「実はですねお姉様」


 シャルはカスリと指パッチンを鳴らす。


 音は微かにしか聞こえないが


「こちらです、シャル様」


 王国騎士はそれすらも容聞き逃さない。


 てか


「これって……水着?」

「そうなんです。お姉様に合う物が何かと考えていて、でも中々決まらないの」

「そ、そっか」


 そこには優に100を超えそうな水着の数々。


 あれ?


 これって私のお小遣い何ヶ月分なんだろ?


「ここまで選んだけど、後が決まらなくて。お姉様はどれが着てみたいですか?」

「う、うんと」


 正直どれも着たくない。


 着替えるのめんどいし、私泳げないし。


 でもなぁ


「……」

「お姉様?」

「ううん」


 この顔で見られたらなぁ。


 しょうがない


「じゃあね」


 出来るだけ可愛いのにしよう。


 そうだなぁ、もし私がシルヴィアお姉ちゃんに着て欲しい水着があるとすれば


「これでいいかな」

「これって」


 そこには漆黒


 ただそれだけが存在した。


「お、お姉様これは……」

「そうだよシャル。伝説の黒ビキニさ」


 きゃーと二人で叫びながら黒ビキニの周りを周る。


「何やってるのかしらあれ」

「子供は高い場所と走り回るのが好きなんだよ」

「それは馬鹿に近しい何かを感じたのはわしだけか?シアはともかくシャルは馬鹿ではない」


 だが黒ビキニか。


 確かに今の私なら似合う自信はあるが


「私はもっとフワフワ系のイメージだしなぁ」

「お姉様はどちら系でも可愛いですよ?」

「そう?うーん確かにそうかも?」


 私はある意味中間地点にいるのかもしれない。


 可愛いのシャル、美しいのシルヴィアお姉ちゃん。


 その間に位置するのが私


「そうだ!!」


 いいこと思いついた。


「ファッションショーしよう!!」


 こうして長い休暇が始まった。

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