第35話

「何やってるの?」


 いそいそとシアとシャルは何かを準備し始める。


 シルヴィアは変なことしてないでさっさと海で遊べという気持ちになったが、言わないでおいた。


「やっぱり衣装を映えさせるには舞台も整えないといけないからね」

「さすがお姉様」


 赤いカーペットを用意し(させた)、それを海の方まで転がす。


「だが新しいかもしれないな。海辺でのファッションショーなんて結構斬新じゃないか?」

「言われてみたらそうですが、色々と問題が発生しそうでもありますがね」


 オルドーよりも先に仕事を終わらせたレンは、シルヴィアの正面の席に座る。


「やばい、腰痛くなってきた」

「王国騎士に任せては?」

「いやさすがにカーペットまで用意してもらってそれは出来ないよ」

「お姉様は本当に優しいね」

「えぇ〜、シャルも良い子だよ〜」

「シャルは悪い子ですよ」


 デレデレとしているシアに反して、シャルは少し顔を曇らした。


「ふぅ、出来た」


 カーペットを敷き詰める。


 シアはまだ知らないが、このカーペット一つで家が一つ建つ値段を張る。


 それをシアは満遍なく砂浜に敷き詰めた。


 これを知るのはシアが家に帰った後に話となる。


「よし、それじゃあ早速始めよう!!」

「はい!!」


 えいえいおーと掛け声を出す二人。


「小学生か」

「片方は一応まだ小学生ですね」

「そうか。シアはまだ小学生だったのか」


 シルヴィアはツッコむかどうか躊躇うが、むしろ納得したためそれ以上言及することはなかった。


「なんか走ってきてるな」

「巻き込まれるのかしら」

「はぁ、俺は疲れてるんだが」


 レンはポケットからサングラスを取り出し


「しょうがないから遊んでやるか」


 ヒャッホーという掛け声と共にレンも砂浜に飛び出る。


「小学生が増えたわね」


 シルヴィアは少し笑い、飲み物を飲み干す。


「さ、今日はどんな面白いことをしてくれるのかしら」


 優雅に三人の元に歩いていった。


「わ、わしも混ぜて!!」

「オルドー様。これは本日までの重要な書類ですので」

「クソー!!!!」


 ◇◆◇◆


「ん〜エントリーナンバーワン!!レレンンンンンンンンン」


 私の掛け声と共に奥から歩いてくるのは


「おお!!いいじゃん!!」

「お兄様かっこいー」

「さすがですね」


 白いラッシュガードを着、同じく白のズボンのような水着をつけたレンが歩いてくる。


 レンは私達の前で謎のダンスを踊り出す。


「ダサい!!」

「お兄様だっさーい」

「さすがですね」


 レンは来る前とは一点、悲しそうに帰っていく。


 格好だけは確かによかったぞ、マイブラザー。


「レンはあれだね。白いの着てると腹黒さが軽減されていい感じだね」

「シャルもそう思います」

「事実ではあるけど、レンお兄様の前では控えるのよ」

「「はーい」」


 その後レンはいくつかの水着を付けて、こちらに歩いた。


「どうだった?」

「最初のがよかったかな」

「シャルもお姉様と同じ!!」

「私は三つ目の黒のものが良かったですね」

「多数決で取れば最初のだが、なんかムカつくからシルヴィアのにするわ」


 レンはそう言って黒の水着を着て帰ってくる。


「で、次は誰がするんだ?」

「「「……」」」

「まさか俺にだけさせてしないなんてことはないよな」


 実は先程の光景を見て一つ分かったことがある。


 多分めっちゃ恥ずい。


 立案&実行した身だが、急にやりたく無くなってきた。


「はぁ、私がするわ」

「お姉ちゃん……がんば!!」

「全く」


 そしてシルヴィアお姉ちゃんは向こうに歩いていった。


「ところでシルヴィアって日焼け止め塗ったのか?」

「私が塗ったー」

「絶対私欲だろそれ」

「グヘヘ」


 暫く雑談をしていると


「お姉様、来ました」

「お!!」


 こちらに近付いてくる影。


 影……というか黒……てか


「黒ビキニ!!」

「大胆だな」

「なんだか凄いです」


 私は今砂浜にいるはずだが、その背景にはランウェイの幻覚が見えた。


「すごい……」


 私は感動のあまりつい口から


「エロい」


 本音を出してしまう。


 右隣にいる兄と、歩いている姉から物凄く冷たい目線を向けられた。


「シア、お前って本当にどうしようもないな」

「だ、だって〜、しょうがないよ。お姉ちゃんがエチチな体してるのが悪い」

「それは認めるが」

「レンお兄様」

「……とにかく、もう少し淑やかさを持て」

「はーい。でもレンも少しは思ったでしょ?」

「正直」


 その後もお姉様はいくつかの水着を着てきたが、何故かどれも露出が少なかった。


「一番一番一番一番一番一番一番一番!!」

「シャルは三つ目がよかったです」

「俺もだな。どこかのモデルみたいだったな」

「それじゃあこれにしようかしら」

「絶対一番!最初しか勝たん!!」

「三つ目にするわ」


 私の泣き真似も虚しく、シルヴィアお姉ちゃんはヒラヒラした服みたいなものと、スケスケスカートみたいな水着を着けてきた。


「まぁこれはこれでありかも」

「何でもありね」

「もう手の施しようがないな」

「じゃあ次はシャルが行きますね」

「え!!ちょ、シャル!!」


 私の止める暇もなく走りだすシャル。


「逃げ場を無くしたのね」

「策士だな」


 せめて恥ずかしさを紛らわせるために今行こうと思っていたが、先を越されてしまった。


 もしくはシャルを人質に逃げようと思ったが、それももうダメだ。


「せめて全力で楽しむか」


 そして待つ暇もなく


「あ、速い」


 凄まじいスピードで着替えを終えたシャルがこちらに走ってくる。


 その天真爛漫さに思わずニッコリだ。


「可愛い」

「可愛いわね」

「可愛いな」


 全ての結果が一つに収束された。


「あの裏に悪魔がいるとは世も末だな」


 やっぱりみんなシャルが好きなんだなぁ。


「お姉様どうですかぁあああ」

「可愛いよぉおおおおおおおお」


 私の返事に嬉しそうにぴょんぴょん跳ねる。


 既に好感度は上限突破済みなのに、あの子は一体どれだけ私を虜にするのだろうか。


 でも


「多分、それだけじゃダメんだよね」


 それじゃあ私はまだシャルを本当の意味で愛したことにはならない。


 ありのままの全てを受け入れる。


 その為には


「どうしたの?シア」

「ううん。何でもないよ」


 シルヴィアお姉ちゃんがどこか心配そうに声を掛ける。


 まずいな、顔に出てたか。


 気持ちを切り替えよう。


 そう、今は楽しむ時間だ。


 から元気でもどうにかバレないように演技を


「きゃんわぃいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい」


 全く、私の演技力も大したもんだ。


 ◇◆◇◆


「中々出てこないわね」

「大方最後に出るのが恥ずかしくて渋ってるんだろ」

「お姉様大丈夫でしょうか」


 そして


「来たわ」


 シルヴィアの言葉と共にレンとシャルは赤いカーペットの奥に目を向ける。


「いけ!!お前ら!!」

「ハ!!」


 どこから現れたのか王国騎士が一斉にカメラを構える。


 今この場の勢力を使えば、一国をものの数時間で焦土に出来るであろう。


 それが今、全力でシャッターチャンスを狙っている光景は


「バカね」


 シルヴィアは携帯のカメラを覗かせながらボソリとこぼした。


 そして


「なんか逆に楽しくなってきちゃった」


 上機嫌のシアが現れる。


 軽くスキップし、フワフワと水着が揺れる。


 金色の髪がまるで遊んでいるかのように跳ねる。


「「「うおおおおおおおおおおおおおおお」」」


 王国騎士が一斉に騒ぐ。


 ちなみにこの場にはレン以外の男は存在しない。


 事前に危険だと排除されたのだ。


「おね、お姉様ぁあああああああああああああああああああああああああああ」


 シャルはシアの名前を叫び続けながら一心不乱にシャッターを連打する。


 何も知らないものがこの場を見れば、薬をやっているのではないかと疑う光景が広がっていた。


「どうよ、これどうよ」


 そして調子に乗ったシアも全力でポーズを決め出す。


 結果、水着を決めるファッションショーは日がオレンジ色に染まるまで続いたのであった。



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