第29話
「と言っても私が彼女探しを諦めたわけではない!!」
「急にどうしたの?」
帰り道。
私はなんか勘違いしてそうな人に向かって宣言する。
「確かに私は今の状態で既に満足しているということに気付いた」
「それってつまり……僕といて楽ーー」
「だがしかし、私はそんなもので止まってはいけない!!」
勇がなんか喋っていたが、まっいいや。
「いつ何時、私が彼女が欲しくなった時に直ぐに手に入れる距離まで好感度を上げておく」
「つまりキープってこと?」
「人聞きが悪いな。私が言いたいのはつまり……キープだな」
キープだった。
「でも!!私は普通に女の子の友達も欲しいし、別に似たようなもんでしょ!!」
「いやいいけどね、僕は」
勇は常識人だから止めると思ったが、意外と許してくれた。
「どうせシアのことだから、結局はいつも相手のことを考えて行動しちゃうんだろうからね」
「……ぐぬぬ」
分かったような口を聞きやがって。
「私は我儘なんだよ!!だから好き勝手しますぅ」
「はいはい」
何で今日のこいつはこんなに余裕があるんだ。
まさか!!
「彼女でも出来たか?」
「その話は……今はちょっと……」
なんだこの反応?
「振られたのか?」
「いや……そうじゃないんだけど……あそこまで言わなくてもいいだろ」
「?」
普段私にいくら貶されても笑顔で流す勇がここまでダメージを受けるなんて、一体どこの論破王でも引きずり出したんだ?
「僕のことは気にしないで。中々解決できる問題でもないから」
「そうか?何かあったら言えよ?私は確かに勇みたいに色んなことは出来ないが」
安心感を与えるように
「親友の一人くらい救ってみせるから」
満面の笑顔を見せてやった。
「親友か……あはは……」
すると何故か逆に元気がなくなる勇。
うーむ、どうやら相当根深い問題みたいだな。
「触れないで上げるのもまた、親友の役目か」
私はこの話を水に流すことにした。
「てなわけで、早速だが今日の計画を発表します」
「今日は何をやらかすの?」
やらかすとは失礼な。
「今日は絶対に失敗はありえませーん」
「どうして?」
それはですね
「今日は女の子を落とすテクニックを鍛えるからです!!」
「それなら多分シアに習うのが一番早い気がするけど……」
私?
「おいおい勇さんや。私にはこの美貌とお金、そして何よりこの世のものとは思えない程の優しさを持つ女だ」
「確かに合ってるのに、何故こうも否定したくなるのだろう」
勇は歯痒そうな顔をする。
「なら私には何が足りないのかと朝ごはんを食べている時に考えた」
「それがテクニックと?」
「ああ。私には女の子をキュンキュンさせるテクニックがなかったんだ」
ここで私は誰に習うのが一番早いかを考えた。
身近で習えて、私の素の姿を見せられ、その上でモテる男。
そう
「お前だ!!勇!!」
「僕?」
我が親友こそ、私から数多くの女の子を奪い去り、横切る女性を口々に惚れさせる天性のタラシ魔。
「今凄い不名誉なあだ名が付けられた気がする」
「てなわけで、早速私にレクチャーしてくれ!!」
私はメモ用紙を取り出し、意気込みを伝えた。
「僕は別に顔が多少人より良く生まれただけだよ?」
「嫌味なら聞き飽きた」
「はぁ……分かったよ」
勇は観念した様子で
「じゃあしっかりとついて来てね、お姫様」
勇はニッコリと王子様スマイルを浮かべる。
「おう!!分かったぜ!!」
「もう自信を失ったよ」
私の元気な返事に何故かゲンナリした勇であった。
◇◆◇◆
「多分、僕を参考にするには間違ってると思うよ?」
「だからそういうのいいって」
「じゃあ見ててよ?」
勇は一人で道を歩き出す。
私がナンパするように言ったのだ(ゲス)。
すると近くを通りかかる人々に笑顔で挨拶している。
ただそれだけの筈が
「あの!!今お暇ですか?」
突然女子高生に話しかけられる。
「ごめんね。僕これから用事があるんだ」
「そ、そうですか」
勇はやんわりと断り、女の子は悲しそうに歩いて行く。
「どんなトリックだ?」
何故挨拶しただけで女の子の目がハートになる。
『説明しよう』
「誰だ!!」
急にどこからか可愛らしい声がする。
『妾はただの妖精じゃ』
「妖精……だと……」
まさかこの世界にそんなファンタジー生物がいたなんて。
「も、もしや、私と契約して魔法少女とかにしようとしてるのか」
『いや、別に。妾もう契約しとるし、しかもお主弱いじゃろ』
「酷い!!」
私だって弱いこと気にしてるのに。
「じゃあなんで話しかけて来たんだ?」
『面白そ……ではなく、妾は人助けが趣味なのじゃよ』
「へぇ」
声はシャルみたいに可愛い声なのに、どこか年寄りくさい喋り方だな。
『お主の疑問、何故勇があれだけモテるのか』
「どうしてだ?」
『それはな。勇から溢れるフェロモンに女子達が当てられてるからじゃ』
「フェロモン!!」
あいつそんな薄い本に出てきそうなもん出してたのか!!
「ということは、やっぱり今まで私の女の子取って来たのあいつのせいじゃん!!」
クソ!!
今までは半分冗談だったが、まさか本当に全て勇が悪いなんて
「殺すしか……ないのか……」
『物騒じゃのー』
妖精はケタケタと笑う。
『じゃが早まるなよ。あやつのフェロモンはあくまで女子を積極的にさせるだけ。喋りたいなぁ、一緒にお茶したいなぁ、そんな感情を増幅させるだけじゃ』
「じゃあ結局フェロモン関係なしに勇はモテてると?」
『そういうことじゃな』
てことはさっきの女の子も、勇が挨拶しただけでいいなぁと思い、フェロモンで増幅されお茶に誘ったと
「だからあいつは参考にならないと言ったのか」
『そうじゃの。しかも面白いのは、そのフェロモンを持ってしても本命の者は一切反応しないことじゃ』
「勇のイケメンフェイスを見て落ちないとは中々やるな、その女の子」
『ププ、そ、そうじゃの』
妖精さんが笑いを堪えるようにしている。
一体何が面白かったのだろう。
「あ!!見ろ妖精さん!!勇が挨拶したのにスルーした!!」
『レアじゃの。あれは他に相当好きな奴がいるか、はたまた純粋に勇の顔にそこまで靡かないタイプじゃな』
「勇はどうやって落とすんだろ」
すると突然謎のダンプカーが女の子に向かって突っ込んでくる。
「何故!?てか危ない!!」
『安心しろ。あそこにいるのが誰と思ってるのじゃ』
早速と女の子の前に立ち、片手でそれを止める勇。
「あ、女の子の目がハートになった」
『あれが主人公補正じゃ』
「主人公補正!!」
妖精だけでもヤバいのに、まさかそんなものまで存在するなんて。
『別に勇は多分普通にいるだけでもモテモテじゃが、今の二つの効果でヤバいくらいにモテる』
「だから参考にならないか」
それなら納得だな。
「うーむ、最高の人選だと思ったんだけどな」
『さて、それじゃあ妾はそろそろお暇するか』
「もう行くのか?」
『なんじゃ。寂しくなったか?」
寂しいかどうかと聞かれたら
「うん」
『!!!!』
突然精霊さんが黙り出す。
『確かに、これはある意味勇よりも厄介かもしれんな』
「またお話できるかな?」
『その顔をやめろ!!妾はもうそういう歳じゃないんじゃ』
精霊さんは息を荒げ
『まぁ、気が向いたらまた話しかける、それでいいか?』
「うん」
すると妖精さんの声は聞こえなくなった。
「また、会いたいな」
そして出来たら
「私の彼女に!!」
「危ないシア!!」
「へ?」
後ろを振り向くと、新たなダンプカーが突っ込んでくる。
いやダンプカーのバーゲンセールでもやってんの?
「大丈夫?」
私は肩を抱かれ、勇はダンプカーを止める。
相変わらずの身体能力だ。
「私も勇みたいに強ければなぁ」
「大丈夫そうで安心したよ」
勇は安心と落胆のため息を吐く。
「てかこれも同じ主人公補正か?」
いやでも男の私に勇が惚れられる筈ないし
「もしかして私が純粋に不幸なだけ?」
『というよりも』
「なんだあれ?」
空に何かが見える。
「もしかしてだけど、あれって飛行機?」
「こっちに向かって来てるね」
急加速しながらこちらに突進してくる飛行機。
「いや色々やり過ぎでしょ」
けど私は安心していた。
何故なら目の前には勇がいる。
それでいて
「あ」
巨大なビームが飛行機を焼き尽くす。
「方向的に私の家だね」
「絶対シャル様だ」
我が家直伝の謎のビームがいつも何とかしてくれるからだ。
『これもまた、一種の主人公補正なのじゃろうな』
「どこ行ってたんだ?」
『散歩じゃよ。年寄りの楽しみなんじゃ』
あれからダンプカー事件と飛行機事件はニュースになっていた。
どうやらダンプカーの人は勇のお陰で無傷らしく、飛行機はただの無人機だったようだ。
「いやー、凄い体験したなぁ」
前世では考えられないような経験に久し振りに胸が踊った。
今日はしっかりと眠れ
「あれ?結局どうすればモテるんだ?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます