第28話
ガタガタガタガタ
「おい地震か?」
「中々収まらない、私怖ーい」
「へっ、俺が守ってやんよ」
「うん、ありがーーあ、勇君私怖ーい」
「安心して。今から震災源を止めに行くから」
「カッコいいー」
「また勇に取られちまった……」
勇は歩みを進めるごとに自身に感じる揺れが大きくなってるのを実感した。
「それで?今日は何事?」
そこには目麗しいという言葉すらチンケに感じてしまう程の超絶美少女シア。
だが今はその端正な顔立ちが焦りでとても健康的に見えたものではなかった。
「ゆ、勇か。私に何か用?」
「何か用というか、何があったんだって話だけど」
普段の彼女はどこから湧いてくるんだとばかりの自身に満ち溢れているが、今はむしろ小さい存在に見えた。
「怖い夢でも見た?」
「ああ怖いね。ある意味夢が叶ったというか、夢にまで見た光景というか、現実にそれが起きるとなると落ち着かなくてな」
「夢?」
勇は考える。
今までシアの夢というのを108個聞いてきた。
毎日ハンバーグが食べたいだの、超能力に目覚めたいだの、自身をボコボコにしたいだの多く聞いたわけだが
やはり彼女が一番欲している願いは
「まさか、彼女が出来たの?」
シアは何も言わず、首を縦に振った。
「こういうことを言うのは躊躇うけど、勘違いは後からダメージが大きくなるよ?」
「勘違いじゃねぇ!!」
シアは大きな声を上げる。
周りの目線が集まるが、シアがそんなこと気にする筈もない。
「これを……見てくれ……」
「まさか……ラブレター?」
勇の言葉に周囲に動揺が走る。
だがシアも勇も目の前の状況で一杯一杯で気付かない。
「開いても?」
「ああ」
勇はハート型のシールを捲り
「これは!!」
『拝啓シア様
私は以前シア様に助けられた迷える人間の一人でした。何があったかは詳細を省かせてもらいます。私が伝えたいのはただ一つ、好きです。もしよろしければ、本日の放課後、屋上に来てくれないでしょうか?』
勇は確信を得た。
「これは……本物だね」
「……ああ」
二人の間に沈黙が走る。
周りの人間も生唾を飲む。
「僕が言えることはただ一つだ」
勇は真剣な眼差しで
「放課後の屋上。そこで」
「分かってる」
シアはかつてない程本気の目で
「分かってる」
◇◆◇◆
事態は急激に加速した。
世界中にシアの恋愛対象に女性も入ることも知られたわけだが、それが男性が入らないということにはならない。
つまり世間ではシアは所謂どっちもいけるタイプとして認識された。
そんな中で、今朝の出来事は大きなニュースとなる。
今まで付き合ってそうで付き合ってなかった二人が、ラブレターという物的証拠を渡したのだ。
今まで数多くの人間が惑わされた問題に遂に決着が着いたわけだ。
「速報速報!!シア様が勇にラブレターを渡した」
その情報は急速に広まる。
例えそれが一個人の情報であろうと、シアというブランドがつくだけで話題は火のように広がって行く。
しかも今回、シアの恋愛事情な上に、クラス中からそれが確認されたとなればその拡大力はこれまでの比ではない。
爆発的に広がった情報は学校、街、都市、国中に広がった。
そしてそんなことを知る由もないシアは
「放課後か」
遂にその時を迎えていた。
「はぁ、私分かりやすく緊張してるな〜」
シアは自身の胸に手を当てる。
柔らかな感触と共に、波打つ鼓動を感じ取る。
「なんか……初めてだなぁ」
シアは自身に湧き上がる初めての感情に気付く。
今までのシアは、なんだかんだでいつも失敗し、いつしか自分に彼女は出来ない物だと信じていた。
それでもやはり女の子と接することは楽しく、その上そんなバカなことを家族や部下の友人、そして勇と語り合えることが楽しかった。
でもそれは今日で終わる。
きっと、自身が彼女を優先する機会が増えると分かっていた。
もしかしたら自身の大切の順番が変わることが、嬉しくもあり、そして怖かった。
でも踏み出さなくてはならない。
自身の夢を、勝ち取るために。
「行こう、私」
自身を鼓舞する。
すると胸の奥から返事が返ってきた
「そうだね」
もう大丈夫。
私は歩き出した。
いつもよりも長い、長い階段を駆け上がる。
走馬灯のように思い浮かぶ。
なんだかんだ感謝している父親、普段は冷たいだけ本当はいつも心配してくれている従者、可愛くて仕方のない妹に、一緒にバカやってくれる兄、多分一生返せないであろう程の恩を貰った姉
そして
「お待たせ……し……ま……あ?」
「助けてくれ!!シア!!」
勇の姿。
そしてその周りには
「何してるの?みんな」
「何ってもちろんこいつを殺しに来たんだ」
狭い屋上で、戦争でもしてるんじゃないかと思える程の戦が始まっていた。
「勇殿。貴殿に対して今までは何だかんだでシア様を落とせる筈ないと踏んでいた我々が間違いだった」
「酷いな!!」
王国騎士も多数いる。
レンが指揮を取り、多忙のはずのジジイまで出しゃばってる。
それに
「シャルまで」
「お姉様本当なの?」
シャルが涙目で尋ねてくる。
「シャルを置いていっちゃうの?」
普段ならシャルを泣かせた相手を地の底まで追いかけて土下座させるが、今日はその原因が私にあると考えるとなんとも居た堪れない気持ちだ。
「置いていくわけないよ。私はずっと、ずーっとシャルと一緒」
「本当?嘘じゃない?」
「ホントホント」
全く
こんな可愛い妹がいたんじゃ彼女を優先できないではないか。
本当に困って仕方ない。
「じゃあ、断って」
「そうしたい気持ちも山々だけど、相手がいないんじゃ出来ないかな」
「え?でもお姉様はあのゴミクズウジムシと付き合うんじゃないの?」
「んん?」
何のことだ?
「えっと、お姉様は今朝会った可愛い可愛い女の子に会いに来たんだけど?」
「えっと……じゃあシャルの勘違い?」
「そうだね。シャルはお転婆さんなんだから」
「えへへ、ごめんなさいお姉様」
どうやらシャルは勘違いでここまで来たらしい。
行動力に満ち溢れてるのはこの家庭らしいな。
「おい!!どうしたお前ら!!」
するとレンの怒鳴り声が聞こえてきた。
「だろうと思った」
「あんなヘタレがシア様を落とせると何故思ったのか」
「やはりシア様は神」
王国騎士達が一斉に帰宅の準備を始めていた。
先程より楽になったであろう勇だが、何故か今の方が辛そうな顔をしている。
「きっと女の子も帰ったんだな。申し訳ないことしたなぁ」
女の子には申し訳ないが、せめてシャルが姉離れするまでは待ってもらおう。
その時にまた
「話そう、名も知らぬ少女よ」
◇◆◇◆
「まさかあそこまで事態が発生するなんてな」
今朝のオドオドした様子とは一転した様子の少女。
「本物はレベルが違うな。会っただけでマジで意識が持ってかれそうになった」
少女はこの仕事をしてかなり長いが、今まで躊躇いのなかった筈の自身の腕が初めて動揺したことに恐怖した。
「あれも全部お前の差し金か?シルヴィア殿下」
「あら、人聞きの悪い」
シルヴィアは幾人かの王国騎士を連れ、少女の前に立ちはだかる。
「私の可愛い妹に手を出そうとしたら、姉としては様子が気になるのよ」
「シスコンが」
「褒め言葉ね」
少女は冷や汗を流す。
王国騎士の戦力を何度も聞かされた少女にとって、真正面から相手どるべき相手でないことは直ぐに判断出来た。
「それにあの三人の方が酷いと思うわ。こうして犯人よりもシアの安全を保証する方に人員を回そうとしたのだから」
「バカ言ってんじゃねーよ。あんた、温室育ちが過ぎて自分の殺意を隠せてねぇぜ」
シルヴィアの笑顔が消える。
「そうね、ごめんなさい。本当は嘘なのよ。私も本当はシアの場所に行こうとしてたの」
でもね
「シアがこれからも笑顔で、楽しく暮らすためにはあなたみたいな存在は邪魔なの」
少女に向かって飛んでくる目線は、人間を見る物ではなかった。
「だから殺すわ。徹底的に」
赤い鮮血が、暗い夜を彩った。
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