第27話
「はい、イベントお疲れ様」
大量のクラッカーと共に、大きなケーキが現れる。
「本当に疲れたよー」
私は久方ぶりの大きな仕事に、グダリとへこたれる。
「みんな楽しそうだったからよかったじゃない。シアも含めてね」
「楽しくはあったけどさー」
それとこれとは話が別といいますか
「ほら二人も楽しそうじゃない」
目を向ける。
「レンお兄様、それはまさか例の限定品!!」
「ああそうだ。安心しろ。ちゃんと二つ購入しておいた」
「さすがお兄様!!大好きです!!」
仲良さげにグッズ交換を始める二人。
「うーん、疎外感」
「私も買っちゃった」
シルヴィアお姉ちゃんは私の名前のロゴが入ったコップを取り出す。
「お姉ちゃんが主催者なんだから、買ったていうのはおかしくない?」
「今回のイベントは私が創立者ではあるけど、完成するまでには多くの方が携わったわ。だから私も所詮一人の消費者」
お姉ちゃんは椅子に座り、ケーキを取り分け始める。
「今回の目的はシアを知ってもらおうという動きと、シアを利用した経済の動きを操るのが目的」
「え?あのイベントそんなヤバそうな目的あったの!!」
「はい」
「あ、ありがとうお姉ちゃん」
「ふふ、どういたしまして」
私の好きなチーズケーキに手をつける。
「いつも言ってるけど、シアは普通の女の子じゃないわ」
「え?知ってるよ。王族だもん」
「分かってないわね」
いつもみたいにため息は吐かず、お姉ちゃんも美味しそうにケーキを食べる。
「甘ーい」
「あ、可愛い」
可愛いかった。
「コ、コホン、まぁこの話はいつものことだからいいとして」
誤魔化すこと自体が可愛いと、お姉ちゃんは気付いていないのだろうなぁ。
「な、何よその目は」
「別にー」
「もう」
お姉ちゃんは少しジト目を向ける。
「話を戻すわ。さっき言った通り、私達の国は経済を安定させる必要があるの。世界の抑止力である私達が、不安定になれば世界も混乱するわ」
「はぇ」
難しいこと分かんないけど、とりあえず凄いなぁ。
「そこでシアに動いてもらえば、それらの問題が一気に解決するの」
「おぉ!!私すごー」
まさか私にそんな隠された力があったなんて。
「まさか!!」
この力を使えば
「お小遣いを増やせるのでは?」
「お小遣いはあれ以上は増やさないから」
「ちぇー」
私はケーキを口に運ぶ。
「嫌じゃない?」
「え?お小遣いの話?」
「いえ、こうしてシアを道具みたいに使って……あ、いや、別に私はそういうつもりじゃーー」
「いいよ、別に」
私はもう一度ケーキを食べる。
「別にお姉ちゃんが私のことを道具扱いしてないことなんて分かってる。それに、私はお姉ちゃんにいつも迷惑かけてるし、それくらいはただの恩返しだよ」
「シア……」
シルヴィアお姉ちゃんの目に涙が溜まる。
「はい、あーん」
「え?」
お姉ちゃんの口元にケーキを添える。
「こうして美味しいケーキが貰えるなら、私としては元が取れたもんよ」
「全く、食い意地ばっかり張って」
パクリと
お姉ちゃんは恥ずかしそうに平らげる。
「美味しい」
「おっふ」
ペロリと舐める仕草は、どこか妖艶であり、私の急所にダイレクトヒットした。
「あ!!お姉様達がイチャイチャしてる!!」
「なんだと!!シルヴィア。やるなら俺がカメラを回してからにしろ!!」
「騒がしい人達に気付かれたわね」
シルヴィアお姉ちゃんは眉を少し下げながら笑った。
「お姉様!!シャルにもあーんして下さい!!」
「おい!!何故チョコがない!!俺はチョコケーキ派なのに!!」
騒ぎ出すレンとシャル。
「私はこういう騒がしいの好きだな」
「そうね。私も実は結構好きだったりするわ」
ちょっと意外
「お姉ちゃんは静かな方が好きとばかり」
「そう?……そうね。言葉にしないと伝わらないものね」
「行動でも示してなかった気がするよ?」
「そう?」
お姉ちゃんが困ってるのはため息で分かるけどね。
「それは少し直す必要があるわね」
少しショックを受けていた。
「お姉様!!お姉様!!」
「ん?ほい、あーん」
「あーん」
シャルの口にケーキを入れる。
「ん〜♡」
シャルは可愛らしくほっぺに手を当てる。
「お姉様からのケーキはいつもよりも美味しく感じるね」
「そう?」
確かに、この前メイドカフェでのオムライスはいつものより美味しかった気がする。
その分値段も上乗せだったけど。
「シャルもお礼しないとですね」
そう言ってシャルは私のほっぺにキスをする。
「えへへ、お姉様大好き」
全く、なんてめんこい子だ。
「これが行動と言葉に表すことね」
シルヴィアお姉ちゃんが何かを理解する。
「シア」
突然名前を呼ばれる。
「は、はい!!」
何故か姿勢を正す私。
「いつもありがとう。愛しているわ」
「え、あ、はい。私もお姉ちゃん大好きです」
凄い心臓がドキドキしてる。
ヤバイ、どうしよう。
「シア」
少しずつ近付いてくるお姉ちゃん。
「え、あ、その、えっと」
変な喋り方になってしまう。
「顔をよく見せて」
「ひゃい!!」
赤い顔を晒し、真っ直ぐお姉ちゃんの目を見る。
「わぁ」
こうして見ると本当に
「「綺麗」」
宝石のような目が近付き
「はい」
おでこにキスされる。
「どう?伝わった?」
「シルヴィアお姉様!!」
「ど、どうしたのシャル!!」
「お姉様が気絶しました」
「え?え?何で?」
「フローラ、今のちゃんと撮ったか?」
「はい、こちらに」
「この赤いのは何だ?」
「私の鼻血でございます、レン様」
こうしてイベントのお疲れ様会は騒がしく幕を閉じた。
「何でわしだけ仕事なの?」
◇◆◇◆
あのイベントがあった直後、特に私の生活は変わらなかった。
もし変わったことがあるとすれば
「また増えてる」
何故か急激に増えるハンバーグ店。
「お婆ちゃん、大丈夫?」
「あらあら、トサカみたいな頭してるのに優しいわねぇ」
急激に優しくなる人々
「スマッシュしようぜ!!」
爆発的人気を叩き出すゲームに
「あ、新曲だ」
私の好きだったアイドルがメジャーデビューを果たしていた。
「でもやっぱり日常は変わらないんだよなぁ」
だけど、それがなんだかんだで楽しいのかもしれない。
「お!!そういえば今日は新しい女の子も落とし方を思いついたんだよな」
今回も勇に協力してもらおう。
「よーし」
学校の前につき
「今日こそ彼女ーー」
「あの!!」
「ん?」
女の子の声。
「……」
いつの間にか横に可愛い女の子が立っていた。
周りを確認するも、私以外に人は見当たらない。
「どうかしましたか?」
道案内だろうか?
方向音痴のプロと言われた私が、この子をどこへでも連れていこうではないか。
「実は……」
女の子は何かを取り出し
「す、好きです!!お、お返事は放課後の屋上で待ってます!!」
ハートのついた手紙を渡し、走り去っていった。
「……へ?」
こうして私に
「初……彼女?」
春が訪れた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます