第24話
「おい知ってるか?」
「ゲリラらしいよ」
「チケットが売り出されて数分だったらしい」
「通知見て急いで飛んでったら買えなかったよ」
「羨ましいな」
一方
「神に感謝を」
「毎日一万回欠かさないでよかった」
「億なんて安いものですわ」
「え?転売?するはずないだろ。金の問題じゃねーっての」
その日世界は混沌に満ちた。
その原因一人の美少女の手によるもの。
「い、胃痛が……」
美少女の名はシア。
転生者であり、前世は男だった女が、今や一国の王女。
彼女の姉は言った
「シアをみんなに知ってもらういい機会」
だがその頃のシアは至って
「無理無理無理無理、え、トークとかするの?私内弁慶だからそんなこと出来ないって!!」
混乱していた。
「な、なんでお姉ちゃんはこんなことを?もしかして私嫌われたのかな?お姉ちゃんの遠回しな意地悪かな?」
小さな脳みそで考えるも、答えは出ない。
「チケットも売り出されたって言ってたし、多分これかなり前から計画されてたよな?」
シアは僅かながら真実に辿り着こうとする。
「うー、怖いー」
外から聞こえる歓声は、止まることがない。
「シア様、そろそろ出番です」
「出番って何ですか!!」
台本とか貰ってないよ!!
「どうぞシア様」
「もう!!」
ヤケクソになるシア。
「こうなったらとことん暴れてやる!!」
不安を怒りに変え、シアは舞台に出たのだった。
◇◆◇◆
「もうすぐだね」
『楽しみじゃの』
勇はビルの上から会場を見る。
『会場で見なくてよかったのか?』
「こっちの方が見やすいからいいよ」
時に身体が異常な数値を叩き出すと、常識というのも変わってしまう。
「それに」
勇は会場の最前列を見る。
「多分喧嘩になる」
『あの人間か』
光る棒を持つ少女は、「お姉様!!」と連呼する。
そして一瞬だけ勇と視線が合う。
『怖!!』
「自分でも僕はかなりチートな人間って思うけど、あの方はそれを素でやってのけるからね」
『天才という言葉だけじゃ片付けられん』
「全くだね」と勇が相槌を返す。
「それにしても、シルヴィア様のお考えは何だろうね」
『どうせあの娘のためじゃろ。分かりやすい連中ばかりじゃ』
「その言葉僕にも刺さるから」
『わざとじゃ』
そして会場の電気が消える。
「きた!!」
『さて』
その瞬間、勇はただの一ファンとなった。
◇◆◇◆
「レディース&ジェントルメン。ボーイミーツガール。今宵、真昼間の中でついに伝説の舞台が幕を開ける。準備はいいか?愚民ども!!」
イェエエエエエエエエエエエエエエエエ!!
「いいねいいね。だけどもしかしてお前ら、この程度があの方への愛の大きさなのか?」
NO!!
「そうだよな。お前らの愛はこんなもんじゃないよな!!もう一度いくぞ。準備はいいか?愚民どもぉおおおおおおおお」
ウォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!
「オッケーオッケー、さすがだお前ら。それじゃあついに登場してもらいましょうか。齢17にして、誰もが認めるNo. 1。その美貌の前では誰もが平伏し、その可愛さを前に誰もが愛す。慈悲深きおん方は、今日、この舞台に舞い降りる。その名は」
シア様!!!!
大量のスポットライトと共に、吹き荒れる紙吹雪が吹き荒れる。
地震でも起きたのかと騒いでいた場所は、皆が呼吸を忘れたように静かになる。
誰かの唾を飲む音が反響する。
そして
地面がまるで祝福するように足音が音楽をなす。
そのミュージックが近付き
「あぁ」
誰かの漏れた声と共に現れる傾国の美女は
「死にたい」
死にかけの顔であった。
「えっと」
シアは事前に用意していた台詞を口にする。
何故かマイクがないことにいちゃもんをつけたくなるシアだったが、観念して大きく息を吸い
「今日は楽しんでいきましょう」
そして歓声によって世界は揺れる。
「お初にお目にかかります、シア様。どうぞあちらの席に」
先程まで軽快な言葉の数々を飛ばす進行係が、一転して恭しい態度に変わる。
だがそれも致し方ないこと。
「ありがとうございます」
シアという美の暴力の前では、どんなものでも同じなのだから。
椅子に座ったシアは気付く。
「シャル」
最前列で光る棒を必死に動かすシャル。
「お姉様!!こっち見て!!」
可愛らしくぴょんぴょんと跳ねる姿に、シアは心を打たれる。
「シャルー」
小さく手を振る。
「おい、あれってもしかして俺に手を振ったのか?」
「自惚れんな」
「でも角度的に私しかありえない」
「あ?シャルに向かってに決まってんだろ」
軽い暴動が起きそうになる。
「お、お静かに!!」
進行係も慌てて止めようとするが、どうやら声が届いていない様子。
だが
「お静かに」
マイクは持ち合わせていない。
ただ喋っただけで人が、生き物が、万物が、止まったように静かになる。
「みんな仲良く、いいですね?」
その一言と共に
「悪かったな」
「俺の方こそ強い言葉使っちまって」
「よく考えたら角度的に私見られてなかったわ」
「シャルもごめんなさい」
「「「え?シャル様?」」」
一瞬で収まる。
「やっぱり凄まじい力ね」
シルヴィアは舞台裏からシアの様子を眺める。
「それで、これからどうするんだ?」
レンは壁にもたれかかりながら尋ねる。
「内容は進行の人に頼んでいます。きっと楽しいイベントになるはずですよ」
「まぁみんなもこういった息抜きがあるといいかもな」
レンもこのイベントが決まってから、毎日楽しみにしていた一人である。
「シアを知ってもらうため、だったか」
「これでシアがもう少し付き合いやすい人だって分かってもらえるといいですけどね」
シアは王族の中で最も近寄り難い人物として名高い。
理由はいくつもあるが、その中の一つに高貴というイメージがある。
シルヴィアはそれを脱却させたいのだ。
「相変わらず過保護だなぁ」
「お兄様だけには言われたくありませんね」
「失敬な。俺はシアに頼まれたことしかせんぞ」
「そうですね」
シルヴィアは少し悲しそうな顔をする。
「シアは私に甘えてはくれますが、相談事はいつもお兄様なのですよね」
「わぁ」
レンは地雷を踏んだことに気付く。
「まぁ、あれだ」
こんなことシアに知られたらどうなるかと考えたレンは
「きっと求めてるんだろ、母親のそれを。だからシルヴィアはただ、あいつと一緒にいるだけで安心するんだろうよ、シアは」
「そう……でしょうか」
「ああ、なんてったってシアはシルヴィアとシャルが大好きだからな」
レンは嘘偽りのない解答をした結果
「俺負けてるのか」
自身でダメージを受けた。
「相変わらずお兄様は優しいですね」
「そりゃな」
「さ、切り替えましょう」
「そうだな」
レンとシルヴィアは動き出す。
「ペンライトは持ったか!!」
「はい!!」
ファン二人は走り出すのだった。
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