第23話

「私気付いたんだ」

「今度は何を失敗するの?」


 おい!!


「甘いよ勇君。いつもいつも失敗するばかりの私じゃない」

「へぇ、今回は自信があるんだね」

「ああ、シンプルイズベスト。原点回帰をした」


 私は本を取り出す。


「私は思った。恋愛に発展しないのは、お互いを知らないからだと」

「確かにシアのことをよく知らない人が殆どだろうね」

「だから私は思いついた。好きな物を共有すればいいと」


 本の中身は私の好きな漫画。


「趣味で仲良くなろう作戦だ」

「凄く普通だね」

「普通でいいんだよ。最近の私は無駄に変な方法でアプローチしてきた。だけどそれはダメだと気付いたんだ」

「作戦がダメってよりシアがダメだと思うけど」

「ふん。そう言っていられるのも今のうちだ。今回は必ず成功してやる」


 こうして私の天才的な作戦が始まったのだった。


 ◇◆◇◆


「み、見て」

「シア様が何かを読まれているわ」

「あれってもしかして!!」


 私は今、メチャクチャ目立つ場所で漫画を読んでいる。


 どれくらい目立つかと言えば


「どうしてシア様は廊下で読書を?」

「さぁ」


 これくらい目立つ。


 ちなみに廊下の真ん中で机と椅子を立てかけても怒られないのはただの権力だ。


「なぁ、あれって」

「ああ。最近話題になってる」


 そう、私は最近巷で流行りの漫画を読んでいる。


 ちなみにこの作品が有名になる前から私はこの作品が好きだったため、有名になった時にちょっと嫌いになりかけたのはまた別の話だ。


「もしかして、シア様とあの漫画についてお話しを?」

「そんな、恐れ多い。でも、もしかしたら」


 いいぞいいぞ


 ここで一気に話しやすい空気を作る。


「あれ?シアじゃないか」


 勇が現れる。


「その漫画僕も読んでるんだ」

「そうなのですか?」

「うん。あ、ここ面白いよね」

「あ、分かります。この戦闘シーンはいつ見ても惚れ惚れしますね」


 こうして勇というサクラを用意し、一気に場を作る。


 話しかけてもよい雰囲気、また私はこの漫画をある程度知ってるアピールにもなる。


「こうして誰かと好きな作品を語れるというのは楽しいですね」

「そうだね。あ、ごめん。僕はこの後用事が」

「そうですか、残念です」


 名役者、勇が去る。


「はぁ、もう少しこの作品について話したいですね」


 わざとらしくため息を溢す。


「おい、シア様が困ってるぞ」

「俺いこうかな」


 男は黙ってろ!!


「ねぇどうする?」

「めっちゃ行きたい」

「シア様と話せる機会なんてないかもよ?」


 そうそう!!ウェルカムウェルカム


 何人かの女子生徒が悩んだ末に、一人だけトコトコと近付いてくる。


「あ、あのー」


 きた!!


「はい、どうかーー」

「拙者、これを見てるでござるよ、シア様」


 割り込む男。


「特にこのお風呂シーンはまさーー」

「勇」

「了解」


 一瞬で男がどこかに連行される。


「タイム」


 そう言って私は近くの空き教室に入る。


「どう?」

「そうだよな。男が寄ってくる可能性もあるんだよな」


 失念していた。


 よくよく考えたら、こういうのに引っかかるのってキモいオタクだけか(ブーメラン)。


 どうにかして女の子だけを集めたいな。


「うーん、女の子が集まって、尚且つこの漫画についてある程度の知識がある人達」


 そんな都合のいい状況なんて


「これだ!!」


 天才の私は思いつく。


 ◇◆◇◆


「ねぇあの人」

「ヤバ、超イケメンじゃん」

「しかも読んでるのって」


 とある道端で勇が本を読む。


「あのー、もしかしてそれって最近有名の?」

「うん。君達も読んでるの?」

「はい!!そうなんです」


 勇の周りに続々と人が集まる。


 まるで樹液に群がるカブトムシのようだ。


 最初は勇と話すばかりだったが


「あ、そのシーンいいですよね」

「そ、そうですね」


 一人の女性が女の子に話しかける。


「あ、この人推しなんですね」

「うん、このシーンで惚れちゃって」


 話題が広がっていく。


 その結果


「あなたも?」

「ええ」

「あそこ面白いですよね」


 小さなコミュニティーが出来る。


 ここにいるのは同じ漫画好きの女の子達のみ。


 となれば、必然的に共通の趣味で盛り上がる。


 これが私の考えた最強の布陣、百合百合ワールドの完成だ。


 あとは


「ふぅ」


 これでもかと漫画をどっさりと持ち運ぶ。


「疲れましたね」


 近くのベンチに座る。


「ねぇ」

「あれって」


 こうして私に注目が集まる。


「シア様だ!!」

「すごーい」

「近くで見るとヤバ」

「神々しいです」


 あとはここで


「ごめん、少しトイレに」


 勇が席を外す。


「少し読んで落ち着きますか」


 物凄くデカい独り言と共に漫画を読む。


「え」

「あそこって」


 ヒソヒソ声がする。


「どんどん意識してくれ」


 そしたら彼女達の話したい欲が抑えきれなくなるはず。


「さぁ」


 来い!!


「さぁ!!」


 速く!!


「来て!!」


 そして


「あ、ごめんね。さっきの話の続きだけど」


 勇が帰って来るまで、誰も私に声をかけなかった。


「どしてよ」


 涙を流す。


「そんなにイケメンがいいか?美少女好きの女の子はいないんか?」


 クソ!!


「もういい!!やけ読んでやる!!」


 涙で字が掠れるが、それでも漫画の面白さは伝わった。そしてその姿が


「やっぱり」

「そうね」


 後に大きな事件を起こす。


 ◇◆◇◆


 次の日


『速報です。あの人気漫画が文化遺産に指定されました』

「はえ?」


 歯磨き中の私は変なニュースを見る。


「え?漫画が遺産ってどういうこと?」

「これよ」


 シルヴィアお姉ちゃんが携帯を見せる。


『あのシア様が泣き出す程の作品』

『これはただの漫画にはしておけない』

『もっと評価されるべき漫画』


 様々なコメント。


「シアが道端でこの漫画を読んでたのでしょう?それが広まっていつの間にかこうなってたわ」

「いやいやいや、私が泣いてた理由漫画関係ないよ。それに、私なんて他の作品でしょっちゅう泣いてるよ?」

「知ってるわ。この前もシアの泣き声で眠れなかったわ」

「ご、ごめんお姉ちゃん」

「いいわよそれくらい。それに、問題はこれ」


 お姉ちゃんが何かを打ち込む


「シアは少し周りに知られてなさすぎるわ」

「そうだね」


 携帯を見せられる。


『シア様って普段は聖書読んでるってマ?』

『シア様って確か神様って噂聞いたんだけど、これまじ?』

『それは嘘。シア様は天使』

『音楽は基本アニソンだって』

『いやいや、きっとバラードとかだよ』


 私が考察されていた。


「確かに王族として正しい対応はしなきゃだけど、シアの全てを縛ってるわけじゃないわ」

「うん。私も精々変えてるのは言葉遣いだけだしね」

「そうね。なら、言葉さえ聞いてもらえば、みんながシアのことを知れるわ」

「確かに。でもどうするの?」

「そう思って」


 お姉ちゃんは何かを取り出す。


「はいこれ」

「何これ?」

「あなたのイベントよ」

「ん?」


 今なんて?


「シアについてもっと知ってもらおうと思って、シアのイベントを開いたわ」

「どうしよう、聞いてもよく分からない」

「というわけで明日、ここに書いてる時間に来てね」


 こうして


「え?」


 唐突に私のイベントが始まるのであった。



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