第22話
「シア」
「ん?」
私が必殺技を剣にするか拳にするかで迷った結果、拳銃が一番強いことに気付いた頃
「私明日シアの学校に行くから」
「え?」
シルヴィアお姉ちゃんから衝撃の一言
「留年したの?」
「バカ」
◇◆◇◆
「え、えー、皆さんご存知かと思いますが、本日は我が校の卒業生であられるシルヴィア様がご見学される。皆、失礼のないように」
校長の挨拶と共に、コツコツと音を立て、台状に上がる人物。
「お久しぶりですね、皆さん」
「「「「うぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお」」」」
「「「「きゃぁああああああああああああああああああああああああああああああああああ」」」」
歓声が上がる。
まさに怒涛。
男女問わず、全ての者がまるで我先にとばかりに声を上げる。
「シルヴィア様素敵!!」
「なんて美しいんだ」
「あの栄光の日々が懐かしいわ」
「お姉ちゃんこっち見てー!!」
皆が静まるまで、シルヴィアは笑い声を上げながら待ち続けた。
「皆さん、ありがとうございます。こうして懐かしの母校に帰って来ましたが、あくまで私はある仕事のために来ました」
言ってしまえば
「まぁ妹の様子を見に来ただけですね」
「見て見て、絶対私のこと見て微笑んだって」
シアは特等席で無理矢理隣に座らせた勇に自慢していた。
「度々教室に顔を出しますが、あまり気にせずにいつも通りの授業風景を見せて下さい」
ここで皆の心が一つになる。
(良いところを見せなきゃ)
そして一人は思う
(あ、お姉ちゃんとお昼一緒に食べよ)
◇◆◇◆
「これより、シルヴィア様に学校を案内します。シアと申す者です!!」
「四月一日勇と申します。シルヴィア様の御案内という名誉ある仕事に携わること、真に幸運に思います」
一人は敬礼し、一人は膝をつく。
「もう、二人ともそんな畏まらないで」
「うっす、あざっす」
「承知しました」
一人はどう考えても畏まっていないが、それなりに頑張った方であろう。
「それでお姉ちゃん、私の様子を見に来たってどういうこと?私の姿なら頭から胸の大きさまで知ってるでしょ?」
「!!!!!」
「シアはまだ成長期でしょ?」
「!!!!!」
「おいおい勇、この程度で赤くなるとは男の名折れだぜ」
「シア、勇君に謝りなさい」
「ごめんなさい!!」
「す、すみません。シルヴィア様」
「いいのよ、この子のおふざけが過ぎたらいつでも叱ってね」
「善処しています」
「現在系じゃん」
シルヴィアは話を戻す。
「純粋に学校を調べに来たの。いつどこでシアが狙われるか分からないわ。私の魔法はまだまだ未熟だから、こうして直接歩いて不審な物がないか探すの」
「ほぇ、大変だねぇ」
「シアのことなのに他人事ね」
全く、と声を上げるシルヴィア。
「それならコッソリ休日とかにすれば?」
「ついでに母校が恋しくなったの。いいでしょ?これくらい」
シルヴィアが珍しく可愛い子ぶる。
「もっちろんだよお姉ちゃん!!私に任せて。沢山色んな場所回ろう!!」
「あ、コラ」
シルヴィアの手を引っ張るシア。
「仲良いなぁ」
勇はそっと呟いた。
◇◆◇◆
「ここが私のクラスだね」
今は授業中。
シアと勇は特別に免除されている。
「シアの授業風景が見たかったわ」
「シアはいつも寝ているので変わりませんよ」
「ちょ!!勇!!」
「帰ったらお説教ね」
「しょんな〜」
情けない声を上げるシア。
「変わってないわね」
シルヴィアが零す。
「この時はまだ王族じゃなくて、シルヴィアとして見てもらえたわ」
それは悲しみだろうか、はたまた懐かしんだだけだろうか。
どちらにせよ
「お姉ちゃん」
シアがほっとくはずはなかった。
「私にとってシルヴィアお姉ちゃんは今も、昔も、同じ優しくて可愛いお姉ちゃんだよ」
「シア」
シルヴィアは笑い
「ありがとう」
優しくシアの頭を撫でる。
「あら?」
「ほえ?」
すると教室からの音が消える。
「どうしたの?みんな」
「尊いと言い残し、全員気絶しました」
「よく分からないけど、申し訳ないことしたわ」
「じゃあ次行ってみよー」
次に向かったのは美術室。
「あれ?今は授業なしか」
「こ、これはシルヴィア様にシア様!!」
美術の先生が地面に頭がつきそうな程頭を下げる。
「すみません、少し見学してもいいでしょうか?」
シアの王女スマイルが炸裂する。
「も、もちろんです。わたくしめは少々席を外しますので、ごゆっくりお寛ぎ下さい」
何度も頭を下げ、去っていく先生。
「久しぶりに見たけど、変わらないわね」
「あの人私相手でも腰が低いのに、お姉ちゃんと二人だと更に凄いね」
「オーラが純粋に二倍だからね」
三人で美術室に入る。
そこには様々な絵や、謎の調度品など、様々な物が置かれていた。
「ここも昔と変わらないわね」
「そりゃそうだよ。お姉ちゃんが卒業したのは最近なんだから」
「そうね。でも、一つだけ変わった物があるわ」
「あ」
そこにはまるで地獄から這い上がろうろする亡者達の絵が飾られてあった。
「タイトルは?」
「か、家族の一日」
下の方に製作者であるシアの名前が書かれていた。
「これがお姉ちゃんの横に飾られる辱め!!」
隣の方にはシルヴィアの描いた絵。
「タイトルは家族の一日よ」
「凄いね、片方はまるで神秘的な雰囲気を纏った芸術作品。相対してもう片方はこの世の終わりのような悲壮感。同じタイトルとは思えない」
「勇?ちょっとは気を遣おうか」
「僕なりに褒めたつもりだけど?」
あ、そうなんだ。
「ふふ」
シルヴィアは一人でに笑う。
「いいわね」
「もう!!ここはいいから次次!!」
シアが逃げるように美術室を出た。
◇◆◇◆
「懐かしいわね」
シルヴィアお姉ちゃんが足を止める。
「生徒会室か。お姉ちゃん会長だったもんね」
「ええ。毎日忙しかったけど、楽しかったわ」
「へぇ、見に行く?」
「中に誰かいるようだけど、今雑務中じゃないかしら」
「問題ありません」
扉が開く。
「ようこそお越し下さいました、シルヴィア様」
「あなた!!」
シルヴィアの声が大きくなる。
「お久しぶりです。シルヴィア様にスカウトされ、今では及ばないながら生徒会長をやらせていただいております、テトラです」
「凄いじゃない」
ホントに凄い。
この人はお姉ちゃんにスカウトされるないなや、すぐにその才覚を発揮し、今ではシルヴィア様の跡取りはこの人しかいないと謳われる程。
「全てシルヴィアの指導の賜物です」
「いいえ、それは違うわ。私は道を紹介しただけ。それを選び、勝ち抜いたのはあなたの力よ」
「……ありがとうございます」
「凄いね」
「え?」
勇が耳元で小さく声をかける。
「多分あのまま否定していれば話は平行線だった。だけどシルヴィア様はあえて今、全ての責任を相手に託した。だからテトラさんからしたら素直に賛辞を受け取ることしか出来なかったんだ」
「な、なるほど」
何言ってるかサッパリだ。
「中を見学しても?」
「もちろんです」
お姉ちゃんが中に入ったため、私達もそれに続くように中に入る。
「ふ〜ん」
中は至って平凡。
漫画のような豪華なソファーや机、そんな物は無かった。
「そんなものあるわけないでしょ」
シルヴィアお姉ちゃんに心を読まれる。
「ですが、シルヴィア様が在学されてた際は、その様な案も出揃いました」
「でたんだ」
あとナチュラルに心読まれた。
「ですがシルヴィア様により否決され、今の状態に落ち着きました」
「やっぱりお姉ちゃんは裏ボスか」
「変なキャラ付けしないでちょうだい」
「イヒャイ、イヒャイ」
お姉ちゃんに頬を引っ張られる。
「仲がよろしいのですね」
「手の掛かる妹でね」
「その方が可愛げがあるでしょ?」
「またこの子は」
嫌な顔しながら、実際は可愛がってくれるのを私は知ってる。
「問題なさそうね」
お姉ちゃんが一言述べ
「失礼するわ。ごめんなさいね、仕事の邪魔をして」
「問題ありません。シルヴィア様の対応こそが最も重要な案件ですので」
「ふふ、ありがと」
そして私達は生徒会を後にした。
◇◆◇◆
それから色んな場所を周り、昔お姉ちゃんがこんなことしただの、私がこんなことをやらかしただの、勇がここで女の子に告白されてただので盛り上がる。
「最後は体育館」
別に体育館を最後にしたことに意味はないが、一番大きいしなんか最後にした。
体育館の中には誰もいなく
お姉ちゃんが一言
「少し運動したいわね」
と言った。
「あ!!じゃあお姉ちゃんバスケしよ、バスケ」
「シアが相手してくれるの?」
「うん。私これでも学校で負けなしだよ」
「へぇ、じゃあやろっか」
こうして突然始まる姉妹対決。
私はボールをつく
「行くよ!!お姉ちゃん!!」
私は前に進み
靴紐を踏み
ボールが空を飛び
「ブベ!!」
顔から落下
「アウチ!!」
天空からボールが背中に強打する。
「……」
お姉ちゃんは固まる。
「シアはこうなるからいつも試合に出してもらえず、無敗なんです」
「そういうことね」
お姉ちゃんが納得する。
「いたーい」
「ほら、可愛い顔が台無しよ」
勇以外で珍しく怪我を治せるお姉ちゃん。
「もう痛くない?」
「うん」
私は少し泣き目になる。
「勇、仇うって」
「僕?」
「よろしく、勇君」
「あ、はい」
勇が戸惑いながら前に出る。
「勇!!お姉ちゃんとの接触禁止、あとお姉ちゃんが怪我するようなプレーも禁止」
「厳しいね!!」
「行くわよ」
お姉ちゃんが軽快なステップで走り出す。
勇は余裕のある速度で追いつくも、触れてはいけないルールのため、若干お姉ちゃんからの距離が遠い。
「あら、紳士ね」
「一応ですが」
勇がボールを取ろうとするが、お姉ちゃんの綺麗なドリブルによって空振る。
「すげー」
あの勇がハンデありとはいえ、翻弄される姿は珍しい。
「さすがシルヴィア様」
お姉ちゃんはコートの半分からシュートを放ち、美しい軌道と共にゴールを抜けた。
「勇が……負けた……」
私は絶句する。
「あら、シアはお姉ちゃんより勇君にご乱心のようね」
「アハハ、恥ずかしいところ見せちゃったな」
ショックというわけではないが、ある意味衝撃だった。
それ程までに私は勇を信頼していたということだろう。
「ごめんなさいね、ズルしちゃって」
「勝負は勝負ですから」
二人が何かを話しているが、何のことだろうか。
「少し着替えてくるわね」
「あ、うん」
お姉ちゃんは更衣室に足を運ぶ。
「負けたな」
「完敗だね」
「お前が負けるなんてな」
「シアが負けるなって命令すれば、今後二度と負けないようにするよ」
「う〜ん」
私は考える。
「いや、時々負けた方が面白いかも」
「そっか」
◇◆◇◆
「ここね」
試合中に魔法を発動したシルヴィア。
「まさか盗撮なんてね」
更衣室からカメラを取る。
「目当ては間違いなくシアね」
許せないと、シルヴィアは心で強く思う。
「もしもし、フローラ」
「いかが致しましたか?シルヴィア様」
「このカメラの所有者を突き止めて」
「かしこまりました」
シルヴィアはフローラが最も信頼でき、有能であると理解していた。
シアのためなら彼女は自身、いや、全てを犠牲にしてでも守ってくれると。
「犯人が分かりました」
「仕事が速いわね。それで?犯人は」
「犯人は」
フローラは一呼吸おき
「私でした」
シルヴィアは電話を切った。
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