第19話
「髪、伸びたなー」
髪の毛を弄る。
綺麗な金髪は、いつの間にか服のように体に纏わりつく。
「綺麗だけど、お風呂とかでの手入れとか大変なんだよな」
勿体無さと、めんどくささの選択に問われる。
「どうしたの?シア」
「あ、シルヴィアお姉ちゃん」
鏡の越しに見える美人さんの髪は、私よりも長かった。
「お姉ちゃんは髪の毛色々大変じゃない?」
「そうね。でも、慣れたものよ」
「そっかー。私はまだ慣れないなー」
前世が男のためか、体はまだどこか違和感を拭い切れない。
「やっぱ切ろうかな?」
「こんなに綺麗なのに?」
「うーん」
そう言われると渋ってしまう。
「これは色んな人に聞いた後に、最後に自分で判断しよっかな」
「そうしなさい。私はちなみに反対派ね」
「どうして?」
するとシルヴィアお姉ちゃんは少し恥ずかしそうに
「シアと同じ髪型に出来るから」
私がダイブしたのは言うまでもない。
◇◆◇◆
「レン」
「どした」
体の包帯が取れ、万全の状態になったレン。
「私髪を切ろうか迷ってるんだけど、どうすればいい?」
「どうして切りたいって思ったんだ?」
「ちょっと邪魔」
「そうか」
レンは少し考えた後
「俺は切ってもいいと思う」
「どうして?」
「俺は少し効率気味に考えてしまうからな。髪も伸ばしたことがないからよく分からないし、切ってもいいんじゃないかと思う」
「うーん、やっぱり元として共感出来るな」
「元?」
レンは賛成派か。
「次だ」
◇◆◇◆
「どうかしましたか?お姉様」
「シャル。お姉様髪を切ろうか迷ってるんだけど、どうすればいいと思う?」
「え!!お姉様髪切っちゃうの!?」
「ダメかな?」
シャルは少し悲しそうに
「ううん。ただシャルがお姉様の髪が大好きなだけだから。でも、きっとお姉様はどんな姿でも素敵です」
「ありがと」
遠慮しているが、シャルは反対派か。
「うーん、レンには悪いが、私もだんだん切りたく無くなってきたな」
まぁ一応続けよう。
最後まで意見が変わらないとも限らないし。
◇◆◇◆
「私は賛成ですね」
「へぇ」
フローラは真面目な顔で答える。
「シア様の普段の手入れは私がしていますので、シア様の髪が短くなれば自然と私の業務も楽になりますので」
「すっごい切実な感じだ」
やっぱり髪は効率か感情で別れるなー
「まぁ切ったシア様に髪の毛が欲しいだけですが」
「え?」
今やばいこと言わなかった?
「シア様のカツラは高く売れますので」
「思ったより現金な理由だった」
一瞬フローラが変態に見えたが、さすがに勘違いか。
「うーん、これは思ったよりも大変だなぁ」
「シア様のお心の行くままに」
「ありがと」
◇◆◇◆
「聞いたぞ、シア。髪を切るか皆に聞いているそうだな。わしはシアは髪を切るべきだと思ーー」
「聞いてない」
私はジジイを無視し、最後に私の最も頼りになる親友に電話をかける。
「もしもし、勇今暇か?」
「暇かどうかで聞かれたらそうじゃないけど、電話くらいなら大丈夫だよ」
料理中とかかな?
火が燃えるような音とかするし。
「私髪を切ろうか迷ってるんだけど、どうするべきかな?」
「髪を?うーん」
金属が激しくぶつかる合う音もする。
包丁でも使ってるのか?
「僕は……切らないで欲しいかな」
それと同時に何かが切れた音がする。
「どうしてだ?」
「僕と会った日のこと覚えてる?」
「ん?ああ。忘れるはずないだろ」
電話越しに『覚えてろよ!!』と声がする。
「あの時のシアも今みたいに髪が長かったんだ」
「そうだっけか?」
「あの時からシアは自分にそこまで頓着がなかったね」
勇が電話越しに笑う声がする。
バカにされてるのかな?
「んだよ。私の自由にさせろよ」
「そうだね、シアは自由だ」
「んあ?」
「だから、髪を切るのも切らないのもシアの好きにすればいい」
「うーん」
私の自由か
「髪を切ってもシアはきっと、いや絶対に美人だろうからね」
「まぁ髪型程度で私が変わるとも思えないが」
思えないが
「うん、決めた」
「そう、出来るだけ後悔のないようにね」
「おう」
最後に電話を切る時に『ここから本番だ』って声がしたが、メインディッシュを作るのだろうか。
今度食べさせてもらうか。
「フローラ、ハサミ用意してくれ」
◇◆◇◆
次の日
「あれ、シアそれ」
「おう」
勇はシアの髪をみる。
「少し短くなったね」
「毛先を整えただけだ」
シアは髪を切らないことにした。
「どうして?」
「いや、確かに髪を切った方が色々便利だろうけど、やっぱりせっかく女の子として生まれたなら、このせいを楽しまないとな」
「そう」
勇はシアの髪を触り
「やっぱり綺麗だ」
「勇」
見つめ合う二人。
「今の普通にセクハラだからな?」
「え?あ、ごめん!!」
手を離す勇。
「私以外にはするなよ」
「シア以外にはしないよ、こんなこと」
「いやでも勇なら許されるのか?クソ、許すまじイケメン」
「イケメンでも許されないと思うけどね」
「じゃあギルティだ。素直に私のためにご飯でも作ってもらおうか」
「その言い方もギルティーな気がするけどね」
◇◆◇◆
「うん、可愛いじゃない」
「ありがと、お姉ちゃん」
シアはポニーテールのような髪型になる。
「ほら、お姉ちゃんのもしてあげる」
「ありがとう、シア」
鏡を見ながら鼻歌を歌うシア。
「楽しい?」
「髪の毛弄るの意外と好き」
「切らなくて正解?」
「うん。でも、お姉ちゃん達の弄ってる時が一番好き」
「なら私も伸ばして正解ね」
二人で同じ歌を歌う。
「シアの声好きよ」
「そう?私は自分の声あんまり分かんないや」
「音声で録音する?」
「そこまでしないでいいよ。ほら、出来た」
シアと同じ髪型。
「今日はずっとこれね」
「はいはい」
「あ、写真撮ろ、写真」
「写真はあんまり得意じゃないけど」
「ほらほら」
シアがカメラを掲げ、写真を撮る。
「上手く撮れた?」
「お姉ちゃんならどこから撮っても可愛いよ」
「もう!!ありがとう」
「えへへ〜」
シアは写真を確認する。
「写真も増えてきたなー」
昔の写真を見返す。
「これからも増えるわよ」
シルヴィアは書類を取り出す。
「これからもよろしくね、お姉ちゃん」
「ええ、よろしく」
◇◆◇◆
そんな部屋の隣
「フローラ!!何でシャルの髪はまだ伸びないの!!」
「以前、害虫を殺すためと髪を切られたのが原因かと」
「これじゃあシャルもお姉様と同じ髪型に出来ない」
シャルは考える。
「そうだ!!」
そして導きだす。
「お父様が最近使ってたあれ持ってきて」
「で、ですがあれは」
「大丈夫、何か言われたらシャルに言って」
「かしこまりました」
しばらく時間が経ち
「お待たせ致しました」
フローラは一つのボトルを取り出す。
「ありがとう」
「いえ」
そしてシャルはその液体を頭にかける。
「これでシャルもお姉様と一緒」
「おいたわしや、オルドー様」
次の日、オルドーのお小遣いの半分を使った育毛剤が消える事件があったという。
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