第18話

「あ、レン。明日合コンするから変装しといて」

「え?」


 例の禁書区にて


「合コン?」

「おう。どうにか勇に協力してもらって合コンを準備したんだ。向こうは三人で、私と勇だと一人足りないから、レンが来てくれ」

「前代未聞だからな。王子を合コンに呼び出すなんて」

「王女がいる時点で変わらんだろ」

「それもそうだな」


 ……


「待て、色々ツッコミどころが多過ぎる」

「まだ何かあるのか?」

「シアは男側なのか?」

「そりゃそうだろ。この日の為に男用の服とボイチェンを買ってきた」

「準備万端だな」

「気合が違うからな」


 胸を張るシア。


「悪いが俺は不参加だ」

「どうして?」

「もう一人の男が無理だ」

「あー」


 シアは思い出す。


 レンと勇が不仲であることを。


「そこをなんとか」

「そもそも俺忙しいんだが」

「下着凝視しながら言うな」


 真面目な顔で雑誌を持つレオ。


「頼むよレン。人数が合わないと女の子達来ないって」

「騎士の誰かじゃダメなのか?」

「あの人達基本的に私をわっしょいしかしないからちょっと」

「そうだよなぁ」


 レンはため息を吐き


「分かった、準備しとく」

「ありがとー」


 ◇◆◇◆


「いよいよ決戦当日だな」


 仁王立ちする私に風が吹き荒れる。


「行くぞ!!」

「「……」」


 元気のない二人。


「どうした?」

「シア、今の俺は自身の感情を出来るだけ抑えているんだ」

「どゆこと?」

「つまりーー」

「喋るな!!」

「こういうこと」


 勇の一言一句が癪に触るのかな?


「おいおいレン。そんなんで大丈夫か?」

「シアの要望には出来るだけ応えてやりたいが、いかんせん感情を抑えるというのは人間には難しい話だ」

「人間やめたら?」

「何になればいい?」

「魔女とか?」

「「!!!!」」

「あ、でもそっか。レンは男だから魔男か。なら魔王の方がカッコいいか?」

「シア、そんな話はあり得ないんだ。ほら、さっさと行くぞ」

「行こうシア。せっかくなら楽しくしないと」

「お、おう」


 何か二人が急に仲良くなった気がする。


 それに魔法やら転生やらがある私からしたらそんな話ありえちゃうんだよね。


「ま、いっか」


 勇の言った通り楽しもう。


「今から女の子とキャッキャ出来ると思うと楽し」


 ◇◆◇◆


「めない」


 女の子は今勇とレンを囲んでキャッキャしてる。


 対して私は惨めにジュースに貪りつく。


(何故だ!!どこで差がついた!!)


 私だってめっちゃ頑張ったのに。


 出来るだけいい男に見られようと頑張ったのに。


 女だけどね!!


「はぁ」


 ため息混じりにジュースを飲む。


「うん、美味し」


 これにはニッコリ笑顔。


「勇さんってモデルか何かですか?」

「いや、僕はただの一般的な高校生だよ」

「嘘つき」

「レンさん、嘘ってなーに?」

「いや、こいつは昔から嘘ばっかついてんだよ」

「えー、ミステリアスって感じー」

「あはは、シアみたいなこと言うね」

「シアってあのシア様?」

「すごーい、シア様の知り合いなのー?」

「他人だ」

「え、まさかレンさんもシア様と知り合い?」

「当たり前だ」


 盛り上がる女性陣。


「もう一人の彼にも構ってあげないの?」


 勇は助け舟を出す。


「だって、ねー」

「なんていうか」


 皆がシアを見る。


「ふぅ」


 ため息混じりに遠くを見つめているシア。


「ちょっと次元っていうかー」

「顔はあんまり分かんないけど、オーラが強過ぎてー」

「私達じゃどう足掻いても無理って感じー」

「そ、そっかー」

「しゃあない」


 勇とレンは納得する。


 それ程までにシアというものは、美の究極系であった。


 だが当の本人は、羨ましそうにレンと勇を見る。


「ま、俺も中々イケメンだけどな」

「え、絶対イケメーン。どうして顔隠してるのー?」

「ちょっと有名人でな。あんまり顔は出したくないんだ」

「もしかしてレンさんの方がモデルー?」

「本物のレン様だったりしてー」

「ど、それは違ーー」

「レン様と俺を選べと言われれば、半分が俺を選ぶって言えば俺の凄さがわかるか?」

「「「すごー」」」


 勇が見せた動揺を、レンはすかさず返す。


 女性陣が盛り上がる中


「無能」

「申し訳ございません」

「そんなんでシアを守れると思ってるのか?」

「命に代えましても」

「信用ならんな」

「僕の人生全てをかけ、証明します」

「俺は一生許さん」

「……」


 沈黙。


「あれ、もしかして二人って不仲?」

「まぁな」

「じゃあなんで一緒に来たのー?」

「あいつからの誘いでな」


 もう一度皆の目がシアに向けられる。


 そして運悪く


「美味し」


 妖艶に、舌なめずりをするシア。


「シア……様?」


 口元を見せてしまったシア。


「あ」

「バカだな」

「シアらしいね」

「「「きゃぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」」」


 悲鳴じみた歓声。


「ずらかるぞ!!」

「ソックリですね」

「兄妹だからな」


 慌ててるシアを二人で引っ張り、部屋を出る。


「おい!!シアに触るな下郎!!」

「緊急事態ですので」

「俺一人で十分だ!!」


 わぁわぁ言い争いをする二人。


「やっぱ仲良いんじゃね?」


 腕を引っ張られながら、シアはふと少し楽しそうな未来を想像した。


 ◇◆◇◆


「次はもっとフツメンを連れてこよう。二人はダメだ」

「呼んでおいて」

「やっぱり話すと萎えるな」


 レンは店を出ると同時に、どこかに電話し出す。


「でもなー、勇がいないと可愛い子が釣れないんだよなー」

「合コンやめたら?」


 合コンが最も効率よく女の子と恋愛できる場なのに。


 やはり女の子ホイホイとは気が合わない。


「レンにも無理言って来てもらったのに、バレちゃって申し訳ないな」

「レン様も楽しそうだったよ?シアが悲しげにジュース飲んでる時は大笑いしてたよ」

「性格悪!!」


 そして笑った後、レンは行動に移した。


「やっぱりあの方は超のつくほどシスコンだね」

「私のこと?」

「シアの場合はシスコンで済むのかな?」

「帰るぞ、シア」


 電話を終えたレンが帰ってくる。


「お前も帰れ。てか消えろ。何故まだいる。死ね」

「デジャブ」

「二次会は?」

「俺はこれから仕事だ。ついでに可愛い妹にシアを速く帰らせろって連絡がきた」

「どっち?」

「怖い方」

「シルヴィアお姉ちゃんか」

「……行くぞ」

「あ、うん」


 シアはレンの横に並ぶ。


「じゃあな、勇。また明日学校でな」

「うん」


 手を振り合い、レンは中指を立てる。


「行ちゃった」


 勇は悲しげに手を止める。


「はぁ」


 勇は自身の手を確認する。


 そこには赤い血。


「王族って強キャラばっかだね、ホントに」


 瞬時に怪我が治る。


「本当に、大事なんだね」


 ◇◆◇◆


「やっぱり仲良く出来ないの?」

「無理だな。こればっかりはどうしようもない」

「レンと勇が仲良くしてくれたら私は嬉しいけどなー」


 レンは歩みを止める。


「ん?どした?」

「そんな世界線も、あるのかと考えてな」

「え、もしかしてレンタイムリープしてるとか?」

「そんなわけないだろ」

「もしそうだとしたら数分前の私に伝えて。ジュースは飲むなって」

「だからしてないって」


 二人が歩けば、姿はわからずとも自然と道が開かれる。


 それが王たる資質。


「ごめんな、レン。無理言って」

「気にするな。俺はシアの幸せのためなら何でもするよ」

「嬉しいけど、私は何かレンに返せてるのかな?」

「はぁ」


 レンは乱暴にシアの頭を撫でる。


「何?」

「シアが生きてる。それだけが全部だ」

「私呼吸できて偉い」

「偉い」

「ヤバ」


 二人で吹き出す。


「レンは私のこと好きすぎ」

「シアは俺のこと好きじゃないのか?」

「どうだろ」


 シアは乱暴にレンの手を掴む。


「嫌いじゃないな」

「そうか」


 仲良く帰った。



 ◇◆◇◆



「あれ、またレン階段から転んだの?」

「ああ」

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