第17話
「お前彼女作れ」
「え!?」
いつもの問答だったのだが、思ったより勇が慌てた。
「お前がフリーだから女の子が寄ってくるんだ。身を固める決意をしろ、お前は囚われの身になれ」
「言ってること酷い上に、一応僕は身を固める気しかないけどね」
「ん?ということは誰か思い人が出来たのか?」
「ううん」
勇が小さく『元々出来てたんだけどね』と言っているが、どういう意味だろうか?
「まぁいい。なら告れ、まさか恥ずかしくて告れないとかか?」
「そういうわけじゃないけど、勝負の台にすらまだ立ててないというか」
「お前が勝負の台に立てない女の子!!」
それは一体どんな化け物なんだ!!
「とんでもない女の子だな」
「ホントにね」
「一目合わせてくれ」
「多分シアがよく知ってる人だよ」
私がよく知ってる?
まさか!!
「シルヴィアお姉ちゃん……」
確かに、お姉ちゃんはそこらの女性が目に入らなくなる程の美人。
それに優しい上に面倒見が良く、天才といったハイスッペックの塊のような人。
そして勝負の舞台に立てないというのは、お姉ちゃんが王族だと考えれば合点がいく。
「ダ、ダメ」
私は涙を零す。
「私から(お姉ちゃんを)奪わないで」
「!!!!!!!!!!!!!」
「今まではこういう日が来るって思ってた。だけど、やっぱり(お姉ちゃんが)私にはかけがえのない存在だって気付いたの」
「!!!?!!??!??!!?!!!?!?!!!?!!?!!!!!?????!!??!?」
勇 Lv9999999999999999999999999999999999
状態異常 混乱 興奮 発熱 恋
HP 0
「大丈夫」
勇はシアの手を取る。
「どこにも行かないよ。ずっと、ずーっと、シアの側にいる」
「勇!!」
見つめ合う。
「ごめんね、私の我儘を聞いてくれて」
「僕は君の我儘を聞くためにこの世界に来たんだ」
「ありがとう、親友」
「もう、違うだろ」
「え?」
「え?」
ん?
「勇は親友だろ?」
「いや、確かにそうだったけど、今は違うというか、なんというか」
「今は何になったんだ?」
「え、だから」
勇の顔が赤くなる。
「だからその……」
「その?」
「えっと〜」
「あ!!」
気付く。
「ごめんな、勇。私気付かなくて」
「そうだよね」
「ああ」
「僕達は」
「私達は」
「「大親友だ(恋人だ)」」
「……」
「……」
「ごめん、声が被ってよく分からなかったんだけど、何て言った?」
「大親友って言ったね」
「そうだったか?最初に『こ』って聞こえたけど」
「聞き間違い、そして勘違いだね」
「勘違い?」
「僕が好きな相手はシルヴィア様じゃないよ」
「ええ!!」
違うの!!
「やっぱり、勘違いだったか」
「す、すまん」
「これは僕も悪い、いや僕の方が悪いね。ごめん」
「じゃあ誰なんだ?」
まさか!!
「シャ、シャルはダメだからな。シャルに恋愛はまだ早い!!」
「いや違う上に、シャル様は既に手遅れだと思う」
「シャルはな、純粋で良い子なんだ。この前も『お姉様と一緒なら何もいらない』って言ってくれたんだ。可愛いだろ?」
「うわぁ」
勇は悟る。
その言葉が本当にそのまんまの意味だと。
「いつシャルの魅力に気付いた男共の魔の手を迫るのか恐ろしくて、夜はシャル無しじゃ寝られないよ」
「多分大魔王には魔の手如きじゃ通用しないよ」
「おお!!さすが勇。確かにシャルの可愛さは魔王級だな!!」
「シアが幸せそうで何よりだよ」
何だか微笑みましそうに私を見る。
「いや、結局誰なの?」
「まだ言えないかな」
「親友に隠し事か?」
「僕だって秘密くらいあるさ」
「ミステリアス系を目指してるのか?私も一度してみたが、何故か次の日みんなから崇められてて怖かった」
「あの時はみんながシアは神様だって本気で信じてたからね。あと僕はミステリアス系は目指してない」
「そうか。まぁ私も勝手に勇の背中にバカって張り紙したり、勇を好きって女の子を私に鞍替えさせようとした話を隠してたし、そういうこともあるか」
「張り紙は知ってたけど、そんなことしてたの?」
「結局は勇の悪口を言ってたら何故か泣き出してどこか行っちゃったけど、まぁごめんな」
「いいんだよ。僕も断るつもりだし」
「もしかしたら勇の好きな子かもよ?」
「絶対に有り得ないね」
「ふ〜ん。本当に誰なんだろ」
親友の秘密を考えるが、思い浮かばない。
そもそも勇が私以外の女と喋ってること自体少ないしな。
「いつか暴いてやるからな」
「隠せるといいな」
互いに不敵に笑う。
「ま、じゃあ勇に彼女を作れってのは酷な話か」
「ごめんね」
「じゃあ好きな人が居るって公言するのはどうだ?やっぱ恥ずいか?」
「まぁそれくらいならいいよ。僕も困ることが多々あるんだよね」
「あん?モテ自慢か?殺すぞ」
「違うよ。それに、モテ度でシアに勝てる人間はいないと思うな」
「嫌味か?」
「僕がそんなこと言うような人間に見える?」
「見える!!」
「わぁ」
「けど、どうやってみんなに伝えるんだ?」
「確かに、考えてもいなかった」
二人で頭を抱える。
「あ、前みたいにSNSで言うのはどうだ?」
「うーん、SNSだと色々誤解が生まれる可能性があるからね。やっぱりこういうことは僕は直接口で言いたいな」
「そうだな、それじゃあさ」
「ん?」
◇◆◇◆
次の日
「ほ、本当にやるの?」
「おう。許可はとった」
舞台は学校の別棟の屋上。
ここからは一年から三年の教室が一望できる。
「僕って昔から結構注目されることが多いんだ」
「同じだな」
「けど、こういう形はちょっと怖いね」
「私も最初は嫌だったが、慣れると案外楽だ」
「初めてシアを王族だって思えたよ」
勇が立つ。
「どうやって注目を集めよう」
「ん?あ〜そっか」
忘れてた。
「勇の力でなんか出来ないの?」
「流石に学校の授業以外で魔法を使うのはちょっと」
「仕方ないな」
ここで私の謎の特技を見せる時が来たな。
息を吸い
「皆さん、注目」
別に大きな声を出したわけではない。
ただ、いつもの王族ムーブでみんなに呼びかける。
「今の!!」
「シア様!!」
「見ろよ、屋上に」
教室の窓から次々と人が顔を出す。
私が注目されたいと声を出せば、何故か人が寄ってくるというどこで使うか分からない特技だ。
「ほら、頑張れ」
私は勇の背中を押す。
「み、みんなに聞いてもらいたい」
珍しく声を上擦らせながら叫ぶ勇。
「僕はよく、色んな女の子に声をかけてもらえる。それは凄く嬉しくて、貴重なことだ。だけど、その分多くの悲しい光景を見てきた。だから、ここに宣言させて欲しい」
勇は大きく息を吸い
「僕には!!心から愛してやまない女性がいる!!」
叫ぶ。
「言えたじゃねーか」
私は涙を流す。
よく考えれば私って勇にこんなことやらせる最悪な女じゃね?とか思っきたが、今はもう忘れよう。
「え、いやどう考えてもシア様だろ」
「あんなん誰でも分かるだろ」
「いちいち宣言する必要あるか?」
疑問を抱く男
「さっきのシア様の声」
「ということはやっぱり」
「勇君……」
一斉に泣き出す女。
「僕、何やってんだろ」
勢いでここまで来た勇は心から後悔する。
「全く」
後ろで号泣しながら拍手をするシア。
「本当に情けないな、僕は」
皮肉気に笑う。
「成功したかな?」
「あんな愛の告白、勇の思い人が聞いたら号泣するぜ」
「さすがシア、正解だよ」
「よっし!!これで学校の女の子はみんな私のもんだな」
「どうだろうね」
「行くぞ勇、時間と女の子は待たないぜ!!」
「偏見だね」
その日、シアが近付いた女の子は皆泣き出してしまったという。
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