第15話

「おんなぁ、女の子が欲しいー」

「悪霊退散」


 彼女欲しさに屍人となった私に勇が塩をかけるフリをする。


「塩舐めたい」

「はい」


 どっかの塩分をチャージできそうな物が出てくる。


「うまぁ」

「少しずつ暑くなってきたね」


 そろそろ春と呼ぶには暑くなり過ぎる季節となった。


「この世界が某日曜アニメ方式なら、私達は年を取らない筈だが、そこんとこどうなの?」

「去年何歳?」

「16」

「じゃあ世界はしっかりと進んでるね」

「ということは私に彼女が出来ない時間も刻一刻と過ぎてるわけか」


 私は明るい日差しを見る。


「海行くか」

「え?」

「海」

「あの海に行くくらいなら家でゲームした方が充実すると言ってたシアが?」

「あのキャンプとか行く奴らは体目的のただの愉快犯と言った私がだ」

「本気?」

「ああ」

「一応言っておくけど、シルヴィア様の許可は?」

「海に行くくらい許してくれるでしょ」


 ◇◆◇◆


「ダメ」

「why?」

「忘れたの?あなたがまだ小さかった頃」


『シルヴィアお姉ちゃん、海で可愛い女の子覗きたい!!』

『しょうがない子ね」


 海にて。


『お嬢sーー』

『ちょっとあーー』

『可愛ーー』


 次々に声をかける男達が消えていく。


『シルヴィアお姉ちゃん、周りが騎士でいっぱいだよ?』

『可愛いって時には暴力なのね』


「あの時私は悟ったわ。時に、あなたは人の本能を目覚めさせる暴走装置だと」

「まるで人を生物兵器みたいに言わないでよ〜」

「とにかくダメ。いくとしても私達のやってるプライベートビーチにしなさい」

「それだと意味ないじゃん!!」

「なら諦めなさい」

「ぶー」


 お姉様は結局私の最終奥義『上目遣いお願い』をしても


「ダ…………………………メヨ」


 と折れなかった。


 あれでダメならシルヴィアお姉ちゃんはテコでも動かない。


「策を考えろ。私が今まで乗り越えられなかった苦難などないのだから」

「お!!シア、どうした」

「レン」


 廊下を歩いているとレンに会う。


「シアが考え事か?似合わないな」

「ありがとう。確かに私は何でもすぐに解決法を見つけちゃう天才だからね」

「それで?どうしたんだ?」

「実はカクカクしかじか四角いムースでな」

「ほうほう、どうやったら女の子の水着姿を合法的にガン見できるか、か」


 レンも考える。


「そうだ!!いい方法がある」

「え!!何何!!」


 レンは一枚の紙を取り出す。


「これだ!!」

「これは……」


 ◇◆◇◆


 ミーンミンミンミン


「平和だなー」

「そうだね」


 水の音。


 黄色い声。


 そして多くの家族達。


 そう


「見張りって暇だな」

「だね」


 私はプールでのバイトをしていた。


 レンにここの監視員は顔を隠すらしく、私の顔が隠れていても不審に思われずにジロジロと見ることが出来るというわけだ。


 だが、やはり今の時期家族連れが多く、若い女の子の姿は見れない。


「それに暑い」


 私は姿を隠すために水着の上に長袖長ズボンを着け、顔も尼さんみたいに隠れている。


 ちなみに勇は心細いから連れてきた。


「ところでシルヴィア様から許可は?」

「バレなきゃ犯罪じゃないって知ってるか?」

「じゃあ今犯罪になったね」


 サンサンと照らす太陽の下で騒ぐには体力を奪われ過ぎる。


「女の子が欲しー」

「また亡霊になっちゃった」


 私は楽して合法的に女の子を見たいのであって、辛くて女の子を見たいわけじゃない。


「ならどうして受けたの?」

「お小遣い稼ぎ」

「王族なのに?」

「ゲームで全部飛んだ」


 泣く泣くバイトを続ける。


「ん?」


 私は何かに気付く。


「勇!!」

「わかってる」


 溺れかけてた男の子を勇は颯爽と助ける。


「大丈夫?」

「うん、お兄ちゃんありがと」


 勇はプールサイドに着地し、『ちゃんとお父さんとお母さんと一緒にね』と言って戻ってくる。


「ナイス」

「ありがと」


 完全に勇のワンマンプレーだが、これなら確かにプールも皆安全に遊べるだろう。


「つまり勇を連れてきた私のお手柄だね」

「あはは」


 私は高い椅子のテッペンから景色を眺める。


「今度家族と来るか」

「みんな喜ぶと思うよ」

「ただジジイがなぁ」

「ちゃんと誘ってあげてね」


 苦笑いを浮かべる勇に私もぎこちない笑顔を浮かべる。


「いいね、家族って」


 勇が言葉を溢した瞬間


「な!!!!」


 私は衝撃を受ける。


「なんて!!」


 なんて


「ナイスボディ」


 一組の若い女の子達。


 その姿は若いというにはあまりに大きく、熟していた。


「勇!!双眼鏡!!速く!!」

「はいはい」


 勇から奪い取り、躊躇いなくその絶景を眺める。


「ウッヒョー、来てよかったー」

「凄い手のひら返し」


 今の私はお客さんに危険がないか見張る番人。


 それは絶対であり、誰にも咎められることのない正義。


「シア、よだれ」

「おっと」


 ついつい


「えへ、えへ、えへ」

「女の子、いや人間のしていい笑い方じゃないよシア」

「うるせー!!」


 やはり堪らん。


 私はこのために生きていると言っても過言じゃない。


「おーおー、そんなにプールサイドを走っちゃその果実が溢れちゃうよーん」

「おじさん臭いよ、シア」


 すると案の定というか


「あ」


 一人の女の子が滑る。


 そしてどうやら足を挫いたようだ。


「は!!」


 ここで私が助ければ!!


 私は直ぐに上の服を脱ぎ、顔にある邪魔なものを取っ払ってプールにダイブする。


 そして私は気付く


「ヴァヴァヴィヴォヴォヴェヴァヴィヴァン(私泳げないじゃん)」


 ミイラ取りがミイラになるとは正にこのこと。


 全く、なんて滑稽なのかしら


「お!!足着くじゃん」


 そういえば小さい子のいるプールがそんな深いわけないか。


「冷たくて気持ちい」


 じゃなくて!!


「女の子!!」


 視線を向ける。


「何だよ」


 既に勇が助けた後であり、女の子の目が完全にハートになっている。


「また負けたか」


 だけどまぁ、人の命には変えられないな。


「見てるだけでも私は十分だしな」


 椅子に戻ろうとすると


「赤?」


 私の周りが赤く染まる。


「ぎゃ」


 それは


「ぎゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」


 辺り一体が血の海となる。


 プールにプカプカと血を垂れ流しながら浮かんでる人々。


 小さな女の子は泣き叫び、男の子は私を見ながら自身の体の違和感を消すようにペタペタ触る。


 男は皆倒れており、女性は皆絶望の顔をしていた。


「勇ぅうううううううう」


 叫ぶ。


 返事はない。


「勇?」


 視界に入った勇も同じく血を垂れ流しながら倒れている。


「なんなのホントにー」


 私は携帯を取り出し


「助けてレンお兄ちゃん!!」


 ◇◆◇◆


 事件は運良く死傷者も怪我人も出なかった。


 さすが王国騎士、仕事が速い。


 いやー、よかったよかった


「聞いてるの?シア」

「すみましぇん」


 絶賛土下座中の私。


「何回も言ってるけど、シアは可愛いの!!」

「え?ありがとう。お姉ちゃんも可愛いよ?」


 急に褒められた。


「やっぱり分かってない」

「私だって自分が可愛いことくらい知ってるよ」

「違うのシア。そんな程度で済んでいい話じゃないの」

「可愛いは暴力ってこと?」

「違うわ」

「え?」

蹂躙じゅうりんよ」

「え〜」


 シルヴィアお姉ちゃんが真面目な顔で変なことを言う。


「普通に考えてね」

「うん」

「あなたが水着姿になるだけで周り人が倒れちゃうの。これって普通?」

「普通じゃない」

「そう!!だからあなたの可愛さは危ないの」

「でも普通そんなこと起きないよ?」

「はぁ」


 シルヴィアお姉ちゃんは諦めるようにため息を吐く。


「次、私の言いつけを守らなかったら」

「かったら?」

「もう一緒にお風呂入ってあげない」


 私はこれからは誠実に生きようと思った。

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