第10話

「権力を振りかざす時が一番気持ちいいんだ」

「朝から凄いこと言うね」

「やはり私は自分の力を最大限活かすべきなんだ」


 今までの私は自分の足で歩き、自分の力で戦ってきた。


 確かにそれは誇らしいことだが、既に失敗を繰り返しているのであれば、そろそろ歩くのをやめ、車に乗り換えてもいいのではなかろうか?


「私は王女という最強の力を持ちながら、それを使うことはなかった」


 それはインチキだとばかりに思っていた。


 だがそれは所詮偽善。


 真に力を発揮してこそ、本当に向き合ったと言えるのではなかろうか?


「てなわけで私はこんな企画を用意した」

「嫌な予感」


『チキチキ、女の子だらけの女子会。王女もいるぞ!!』


「これまた酷いタイトルだね」

「参加条件は女の子であること。内容は貸し切った会場でただただパーティーするだけだ」

「へぇ、見た目は最悪だけど、中身はちゃんとしてるんだね」


 すると勇はあることに気付く。


「ん?」


 そこにはかなり小さな文字で『参加者は一度王女にハグしなければならない』


 そう書かれていた。


「詐欺かな?」

「バカ言うな。ちゃんと書いてれば詐欺じゃない」

「いや見えにくいのも詐欺に該当するからね」

「でも別に私捕まることないし」

「王女の特権の使い方がセコすぎるね」


 そんなわけで私は人生初の女子会を開くことにした。


 ◇◆◇◆


 女子会は次の休日に開かれる。


 参加者は既に名義をとった結果、かなりの人数が参加してくれることが分かった。


 そして会場は準備中であった。


「これは……凄いね」


 準備の手伝いに呼んだ勇が感嘆の声を漏らす。


「王国騎士が準備するなんて、どれだけのお金を積んでも不可能だよ」

「当日も女性の騎士の人には警護にあたってもらうからね」


 すると一人の騎士が近付いてくる。


「シア様、こちらの準備終わりました」

「いつもありがとう」

「滅相もございません!!」


 恭しく頭を下げる。


「これは勇さん、昨日ぶりですね」

「あはは、そうですね」

「昨日?」


 何かあったのだろうか?


「さすが勇さん。我らもかなりの訓練を積んで来たつもりでしたが、結局仕留めることができませんでした」

「いやいや、あれは皆さんが本気で僕を殺しに来なかっただけですよ」

「それを言うのであれば勇さんも結局怪我人一人も出さずに夜明けまで耐えたのには感服致しました」


 どうやらレオは本当に勇を殺しに行かせたようだ。


 だけど王国騎士の人達は勇に友好的な人が多いな。


「我らはシア様のために鍛えましたから、シア様の親友であれば友好に接するのは当然」


 なんとも嬉しい言葉である。


「じゃあ手伝いの続きお願いしてもいい?」

「喜んで!!」


 犬みたいに尻尾を振っているように見えた。


「なんで私はあんなに好かれてるのかね」

「シアの人徳のなせるものじゃない?」


 なんとも曖昧な答えである。


「てかさっさと働けよ」

「騎士の人とかなり扱いの差を感じる」

「ん?じゃあ手伝ってくれたら礼に私の胸を触らせてやる」


 場が一瞬で凍る。


「い、いやそれは、別に、興味はあるけど、必要ないっていうか」

「殺す」


 今まで笑顔で準備をしていた騎士達が、一斉に目の色を変え勇に突撃する。


「まずい!!」


 急いで外に出た勇をぞろぞろと皆が追いかけていった。


「ふむ」


 よく分からんが


「私は折り紙でも折っとこ」


 なんと私は今日で鶴を折れるようになった。


 ◇◆◇◆


 女子会当日。


 ウッキウキでパジャマっ子の格好をして来た私だが、すぐに後悔する。


「ヤベー」


 会場にはドレスを着込んだ女の子がたくさんいた。


「そ、それもそうか。一国の王女の前で普段着とか普通着ないよな」


 完全に自分が姫であることを失念していた。


「こんな格好でみんなの前に出たら完全にアウェー確定。下手したらイジメられるかもしれない」


 どうにか回避せねば。


「騎士のみんなは外で待機してるし、外に出るまでに見つからない保証なんてない」


 個室でどうするか考えていると


「シア、お菓子持ってっきたから僕は帰るね」


 救世主が現る。


「待て勇!!」


 ドアを開けて無理矢理中に入れる。


「え?」


 完全に壁ドンの形になる。


「なぁ勇。私たちって親友だよな」

「そ、そうだね」


 勇がゴクリと飲み込む音が聞こえる。


「じゃあ私の頼み、聞いてくれる?」

「も、もちろん」


 私は頬を染めながら。


「ドレス買ってきて」


 ◇◆◇◆


「いや僕は分かってたんだよ、でも少し期待してしまうというか、もしかしたら可能性があるかもって考えてしまうのはしょうがないことで」


 何だがグチグチとうるさいな。


「これから女子会なんだから早く帰れよ」

「頼んだ態度じゃないって」


 しょんぼりしながら勇が帰ろうとする。


 さすがにかわいそう過ぎるな


 お礼に胸を触らせるのは騎士に止められたため


「よし」


 勇の肩を叩き


「ん?」

「今日は本当にありがとね」


 投げキッスと最高の笑顔をプレゼントしてやった。


 自惚れかもしれんが、美少女にこんなことされて喜ばない男はいないだろ。


「じゃあ行ってくるわ」


 ◇◆◇◆


「わぁ」

「綺麗」


 私は純白のドレスを纏いながら、舞台の中央に立つ。


「皆様、今日はこのような会にお集まりいただき、ありがとうございます」


 あまり堅苦しいのは嫌いなので


「話時は短めにして、今日は無礼講です。目一杯楽しみましょう」


 怒涛の拍手が飛び交った。


「よしよし、つかみは完璧」


 ここで交友の場を広げよう。


 まずはあそこにいる女の子達に話しかけ


「きゃぁあああああああああああああああああああああああああああああ」


 すると殺人事件の第一発見者ばりの悲鳴が聞こえる。


 私も急いで現場に駆けつける。


「そんな」


 そこには倒れた勇の姿があった。


 口から血も吐いている。


 絶命は免れられないだろう。


「私遅れて来て、速く合流しようと裏口から入ったら人が……」


 女の子は泣き出してしまう。


 かわいそうに、まだ幼いのにこんなものトラウマになってしまうだろう。


 私は女の子を抱きしめる。


「大丈夫ですよ。安心して下さい、彼は生きていますから」

「本当ですか?」

「ええ、もちろん」


 まぁ絶命したとか言ったけど、なんかピクピクしてるし生きてるだろう。


 だが勇をここまで追い込むほどの強者がいるとは危険だ。


 どうにか犯人を探し出さねば


「シア様、彼がここに文字を」


 そこには血で書かれたダイイングメッセージがあった。


「なになに?」


 そこには


『シア』


 と書かれていた。


「まさか!!」


 シアン化物か!!


 シアン化物はとても強力な毒だ。


 なるほど、勇は毒を盛られたのか。


「これはまずいですね」


 何者かは分からないが、毒を盛ったとなればここにあるものは危険である可能性が高い。


 非常に残念だが解散せざるを得ないだろう。


「これではハグもできませんね」


 悲しいことだが、彼女達の命第一優先だ。


「こうなっては仕方がありません、今日は解散とさせていただきます」


 安全のため騎士達が護衛につきながら今日の会は幕を閉じた。


 だが結局犯人は分からずじまい。


 真相は迷宮入りするのであった。


 ◇◆◇◆


「あ!!起きた」

「シア?」

「まさか勇ともあろうものが毒如きに負けるのは情けない」

「毒?僕一応毒無効のスキルがあるんだけどな」


 目を覚ました勇は当たりを見渡す。


「あれ?もう終わったのか?」

「ああ、ちょっとした事件が起きてな、中止する必要が出たんだ」

「そうだったのか、ごめん。僕の意識が有れば何かできたかもしれないのに」

「いいんだ、今回の件は誰も悪くない。悪いのはいつだって犯人だろ?」

「その通りだね。僕もこれからは色々気にかけるようにするよ」

「ああ、頼んだぜ親友」


 こうしてシア(犯人)と勇(何も知らない被害者)は手を取り合うのであった。


「ちなみに次はOGも呼ぼうと考えている」

「お金使いすぎてシルヴィア様に怒られないようにね」


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