第11話
「クソだりー」
「ほらシア、みんなの前でそんな格好したら恥かくわよ」
「もういいんじゃない?私このスタイルで公表すれば」
「王族に生まれたんだから我慢しなさい」
「ふぇぇ」
今日はこの国の建国記念日。
王族である私達は皆の前で挨拶する必要がある。
「慣れはしたけど、私人前あんまり好きじゃないだよ」
「そんなこと言ったら俺だって今でも鳥肌が凄い」
そう言ってレンが腕をだす。
だからなんとなく関節技をキメる。
「イッテー!!」
「なんとも非力なことよのぅ、兄上」
「ハイハイ、ふざけてないで準備急ぐ」
パーティーがあるため、身なりや振る舞い方を練習する。
「はいシャル様、目を閉じて下さい」
「はーい」
まだ小学生なのに、メイクをしっかりとされているシャル。
シルヴィアお姉ちゃんもいつも綺麗だが、今日は一段と輝いている。
「で?私は?」
だが毎回私だけされない。
「シアにはいらないっていつも言ってるでしょ」
「なんでー、私だってメイクされたいよー」
「あなたがメイクしたところで変わらないに決まってるじゃない」
昔からこれの一点張りである。
「レンからも言ってくれよ」
「ん?悪い、なんか言ったか?」
レンも既にメイクされている。
「助けが誰もいない。こうなった私はもうお姉ちゃんの胸の中に飛び込む以外の選択肢しかない」
「嫌よ、ドレスにシワができるじゃない」
「服と私、どっちが大切なの!!」
「今日に限ってはドレスね」
「皆準備できたか?」
全身を煌びやかに飾ったジジイが来る。
「もう間も無く準備が終了します」
「まだ始まっていないんだ。そう固くなるなシルヴィア」
「いえ、本番で失敗してはいけませんので」
「そう言うことなら構わん。それで?シアは何をしているんだ?」
「はい、不貞腐れてお菓子を食べています」
私はムシャムシャとそこらにあったお菓子を食べる。
ストレスが溜まれば食うに限る。
「この穢れた手で、会場に来た貴族どもをビビらせてやる」
厨二病風にカッコつけていると、いつの間にかフローラに手を拭かれていた。
「いつもならゲーム中に拭いてくれて嬉しいけど、今日はご迷惑極まれりだな」
「仕事ですから」
そう言いながら既に綺麗になった手を、最早拭くものもないのに撫で続けている。
「それよりジジイ。今回はちゃんと可愛い女の子連れて来たんだろうなぁ」
「シアはこの祭典を婚活パーティーか何かと勘違いしてる?」
「もちろん、前と同じで可愛い子だけだよ」
「はぁ!?前と同じ!?」
前回の建国記念日では、貴族共にぬくぬく育てられた自己中の豚さんばかりだった。
奇跡的に存在した可愛い子はレンに持っていかれるし。
「あーあ、萎えちゃった、出るのやめようかなー」
「そんなこと言わない。ほら、今日は勇君も来るそうだし、遊びのつもりで行きなさい」
「あーそっか、勇も来るのか」
しゃあない。
暇な時はアイツと喋って時間潰すか。
「お父様!!ホントにあのゴミを呼ぶのですか!?」
「そうですお父様、シャル、あの人と一緒にいたくないです!!」
「ワシだって苦渋の決断なんだ。周りの貴族どもがコネを作るチャンスだから是非参加させろとうるさくて」
「アッハッハ、追い詰められるジジイおもろー」
「どうしてシアはお父様にそんな厳しいの」
なんか親って生理的に無理なんだよね。
前世での親は好きじゃなかったが、思春期の体に脳が引っ張られているのかもしれない。
「そろそろ行きましょう。時間も迫ってきたわ」
「お姉ちゃん、手繋いで行こ?」
「はぁ、途中までよ?」
「シャルも!!シャルもお姉様とお手て繋ぎたいです!!」
「もちろんシャルも一緒だよー」
三人仲良く歩いて行く。
「もう少しワシにも優しくしてくれてもいいのに」
「照れ隠しですよお父様」
「そうか?」
「はい」
「全く、しょうがない娘だなー」
こうして長い一日が始まった。
◇◆◇◆
まずは最初に王宮のめっちゃ見晴らしのいい場所で、周りの愚民共が渦巻く場を見下ろしながらジジイがスピーチをする。
その後ろに年功順に並び、私はレンと隣に立つ。
「ねぇレン。これどんくらいで終わるんだっけ?」
「大体30分くらいだ。去年は安定した年だったから前より短く済むな」
「結局長いじゃん」
ジジイが何か重苦しい感じで話しだす。
「以前よりも国が安定したとはいえ、まだ飢餓に苦しむものも多く存在する」
話が難しくて何言ってるか分からないが、とりあえず込み上げてくる欠伸を抑える。
「おいシア様見てみろ」
「貧しい人達のことを思い、涙を流している」
「口元も震えてらっしゃる。私達平民のことをあれほど親身に思っているなんて」
遠くて全然分からんが、なんか泣いてるっぽい人達がいる。
「なぁ見てみろレン。ジジイのスピーチに泣いてる奴らいるぜ」
「お父様がそれほど国を大切に思ってることが伝わってるんだろう」
ジジイの話が終われば、私達が一人ずつ挨拶していく。
まずはレンから
「皆、今日は集まってくれたこと感謝する」
普段はグラビア雑誌を読んでるような兄だが、こうして公共の場だと本当にカッコいいな。
「皆様、此度は日差しも強い中ーー」
次はシルヴィアお姉ちゃん。
やはり素晴らしいスピーチ。
場慣れしてるというか節々に伝わってくる。
「終わりとさせていただきます」
盛大な拍手が巻き起こる。
「ヤッベ、次私の番か」
マイクの前に立つ。
まぁ結局元々書いてあるやつ読むだけだから、ど忘れしなきゃ大丈夫でしょ
「皆様……」
沈黙。
「あの子」
「またか」
「お姉様……」
忘れてしまった。
基本的に長文を覚えても、私は二回に一回くらいしかちゃんと読めない。
そういう時はもうどうしようもないので
「私は昔、命を落としそうになったことがあります。その時に私を救ってくれたには紛れもない家族です。私には至らない点が数多く存在しますが、家族と共に、この国をより良いものにするため精進致します。どうか、これからも私達を支えて下さい」
私のスピーチが終われば場は静まりかえる。
皆が涙を流していた。
「困ったら家族ネタぶち込めばなんか全員泣いて有耶無耶になんだよなー」
これが小さな頃から私が使う必殺奥義、論点ずらしだ。
「ありがとう、シア」
後ろに戻るとお姉ちゃんに一度抱きしめられる。
これも家族ネタをする理由だ。
「シアァアアアアアアアアアアアアアア」
「キモい近付くなジジイ」
だがジジイが来るのは厄介だ。
「お姉様」
「頑張ってね、シャル。お姉様も応援するから」
「はい!!」
小さいながらも一生懸命話す。
「私よりしっかりしてる」
「妹を見習う気持ちはどうだ?」
「年下に甘えるのは大好きだからノーダメージ」
「我が妹ながら逞しいなぁ」
こうして第一幕は終わり、一度休憩時間に入る。
「マジしんど、クーラーとキンキンに冷えたアイスとビール欲しい」
「シア!!まさか本当に飲んでないだろうな」
「飲むわけないだろ!!ジジイじゃねぇんだから」
「ワシは嬉しいのか悲しいのかどっちの反応を示せばいい」
トボトボとどこかに去って行く。
多分まだやるべきことがあるのだろう。
「それにしてもシャル頑張ったね」
「はい、お姉様のように上手くできたか分かりませんが、精一杯頑張りました!!」
「私の億倍はよかったね、お姉様は涙が止まらなかったよ」
「さすがに本当に泣き出した時は裏に下げようか迷ったくらいよ」
シルヴィアお姉ちゃんもいそいそと何かを準備しながら会話に混ざる。
「次は各地を周るんだっけ?」
「そうよ」
「見せ物みたいでやだなぁ」
「私達はいわば象徴なんだから、いつも贅沢してるんだから頑張りなさい」
そしてこの時の私は、まさかあんなことが起きるなんて予想もしてなかった。
「でもこういう時って銃撃されそうだよね」
いや、予想はできてたかも。
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