第5話

「たらいまー」

「お帰りなさいませ、シア様」


 結構ガッツリ歌ってしまい、帰りはヘロヘロになってしまう。


「はぁ疲れたー。今日はお風呂入りたくなーい」

「ダメです。そんな匂いを周りに放置してしまえば男共と私(小声)が猛獣になってしまいます」

「確かに私も可愛いけど、フローラだって美少女なんだから、気を抜いてると襲われちゃうよー」

「はぁ、シア様は過小評価がすぎますね」

「あー、だるいー、全てがだるいー、生きるのもだるいー」


 するとトコトコと何かが近付いてくる音がする。


「お姉様ぁああああああああああ」


 胸に飛び込んでくる可愛い生物。


「ニヘヘ、お姉様お帰り」

「ただいま、シャル」


 私の妹であるシャルだ。


「はぁ今ので疲れ全部吹っ飛んだわ」

「お姉様疲れたの?じゃあシャルが頑張ったねするね」


 まだ小学生のため背が低いシャルのために頭を下げると、私の頭を撫でてくれる。


「お姉様今日も頑張ったね」

「うちの妹可愛すぎん?ちょフローラ、写真。写真撮って」

「既に800Kカメラで撮っております」


 さすがフローラ。


 鼻血を垂らしながらも完璧な仕事ぶりだ。


「お姉様一緒にお風呂入ろー」

「えへへー、もちのろんだよー」


 脱衣所に行き


「ほらシャル、お手て上げて」

「もうお姉様!!シャルはもう子供じゃないんですよ!!」

「そっかそっか、じゃあ後で一緒にアイス食べようか」

「え!!本当!!ワーイ」


 手を上げたシャルの服に手をかける。


 プルプルプル プルプルプル ガチャ


 ここから先は児童なんちゃらに引っかかりますので、マッチョ君でお茶を濁して下さい。


「おいおい老さん。プロテインはさっき飲んだばかりだろ?」


 ◇◆◇◆


「さっぱりんご」

「シャル、真似しちゃダメでしょ」

「お姉様もしてるのにですか?」

「お姉様は特別なの」


 お風呂から上がり、無駄長テーブルに向かう。


「おおシア待っていたーー」

「ウルセェジジイ。飯の時ぐらい静かにしたらどうだ」

「しゅん」

「コラ!!お父様にはもう少し優しく接しなさい」

「ごめんなさいお姉ちゃん」

「ごめんなさいシルヴィアお姉様」

「ほら、シャルまで謝っちゃったじゃない」

「やっぱりシャルはいい子だな。お姉様と結婚する?」

「はい!!」

「……ほら、ふざけてないで早く席に座りなさい」


 椅子に座る。


 机の端にジジイが座り、その両隣にお姉ちゃんとレンが座り、私はお姉ちゃんとシャルの隣がいいというわがままでお姉ちゃんの隣、その奥にシャルが座っている。


「やっぱりわしもみんなの近くにーー」

「オルドー様、それでは王の威厳に傷がつきます」

「ハッハッハ、ザマァねぇぜ」

「シア、言葉遣いには気をつけろ」


 私の兄であるレンから説教が入る。


「ごめんなさいレンお兄ちゃん」

「全て許そう」

「お兄様もお父様もシアに甘いんですから」

「男なんて所詮みんな狼なんだよ」

「え!!お父様もお兄様も狼なんですか!!」

「ほらまたシャルが勘違いしちゃったじゃない」

「だけどお姉ちゃん。今のうちにシャルから男を引き離しておいた方がいい。こんなに可愛いんだ。私なら既に襲ってる」

「あなたの方がよっぽど狼よ」

「だがシアの言う通りだ」


 ジジイが真面目に変なことを言う。


「わしの娘達はこんなに可愛いんだ。やはり男は皆殺しにすべきだとわしも思う」

「さすがお父様!!話が分かる!!」

「調子いい時だけちゃんとお父様と呼ぶんだから」


 シルヴィアお姉ちゃん、頭痛が痛そうだなぁ。


「とりあえずあの男から殺すか」

「ん?あの男?」


 空気が変わる。


「ほら何という名前だったかな?レン」

「ゴミ ムシという名前です、お父様」

「それはわしも知っているが、他にも呼び方がなかったか?えっと確か……」


 嫌な予感がする。


四月一日わたぬき 勇という名前です」

「そうだそうだ、それだ」

「シャルあの人きらーい」


 予感が的中する。


 何故かは知らんが、我が家は勇のことをとにかく嫌っている。


「それはシアのせいでしょ」

「ほぇ?わだずのせい?」

「田舎っ子風に言わないの」


 理由は分からないが、私のせいで勇の立場が悪くなるのはごめんだ。


 私は椅子から立ち、目に涙を浮かべながら


「お父様、お兄様、シャル。どうか勇を許して下さい。彼は私にとって大切な存在なんです」


 どうだこの完璧な悲劇のヒロインムーブは。


 これで許されなかったことは一度もない。


「バカね」


 シルヴィアお姉ちゃんがため息を吐く。


「兵を上げろ!!奴を殺したものは英雄となれるぞ!!」

「「「「は!!」」」」


 ジジイは使用人に呼びかけ、レンがその後ろを無言で着いていく。


 そしてシャルは私に抱きつき


「お姉様は渡さない」


 んまぁ、何と可愛いのかしら


「お姉様はシャルだけのものだよー」

「ほらシア、シャキッとしなさい。せっかくの可愛い顔が台無しよ。私は二人を止めてくるから」


 そう言ってお姉ちゃんもその後ろをついていった。


「ねぇお姉様。どうしてお姉様はあの男といつも一緒にいるの?」

「へ?」


 まだ幼いシャルに友達がアイツ以外にいないと、この世の闇を見せる必要はない。


「アイツと一緒にいると楽しいんだよ」


 だけど本音で話すと


「むー」


 シャルは可愛く頬を膨らませる。


「お姉様は今日、一緒にシャルと眠らないといけません!!」

「おいおいおい」


 どんなご褒美だ全く


「お姉様はいつでもシャルと一緒だよ」


 ◇◆◇◆


「奴に勝つにはどれだけの兵力がいる」

「少なく見積もっても、この国の半分かと」

「ちっ全く忌々しい。世界最大にして最強と謳われる我が国の半分とな」

「奴の力がそれ程強大だということです」

「はぁ」


 オルドーは頭を抱える。


「先代国王と同じ転生者か」

「はい、奴の能力は把握しているだけでも無尽蔵の魔力、それを完璧に使いこなす知力と記憶力、そして万物を見通す千里眼など、他にも多数見受けられますが、他にもあるかと」

「とんだ化け物だな」


 部屋のドアが開く。


「シルヴィアか」

「はい、お父様」

「あの子は今?」

「今はシャルと一緒に眠っております」

「そうか」


 オルドーの顔が一瞬緩むが、すぐに引き締まる。


「あの時の事件をもう一度起こす可能性だけは何とか排除せねば」


 あの日


 最初にして最後、初めてシアが熱を出した。


 それと同時に世界は火の海に満ちる。


 そして


「思い出したくもないな」

「彼に責任はなくとも、同じ力があるだけで危険な存在であることに変わりません」


 オルドーとレンはそうやって勇の暗殺を常に考えていた。


「はぁ」


 そしてため息を吐くシルヴィア。


「二人とも心配し過ぎなんですよ。彼は絶対にそんなことしませんから」

「まさかシルヴィアまで奴の顔に騙されてしまったのか!!」

「あの小さかった頃はお兄様お兄様と後ろからついてきて可愛かったのに、今では俺にすら小言を言うようになったシルヴィアまで!!」

「お・ふ・た・り・と・も」

「「ひぃ」」


 本当にシアとそっくりだなと思うシルヴィア。


「彼は大丈夫ですよ」

「何か理由があるのか?」

「だって」


 ◇◆◇◆


「ねぇあの人カッコよくない?」

「声かけちゃう?」

「高嶺すぎない?」


 道を歩いている勇はそんな声を拾う。


『言われておるぞ、勇』

「嬉しいような何とやらってやつだね」


 見えない聖剣が話しかけてくる。


「あ、あのすみません」

「ん?」


 学生服を着た三人が勇に話しかける。


「ほら言っちゃいなよ」

「う、うー」


 一人の女の子が前に出


「あの時倒れた私を助けてくれてありがとうございます。あ、あの時からずっと好きでした!!付き合って下さい」


 それは誰が何と言おうと告白であった。


「ごめん」


 勇は頭を下げる。


「そう……ですよね」


 女の子は走り去ってしまう。


「あ、し、失礼します」


 その後ろを友達が追いかけていった。


『よかったのか?』

「いいんだよ」


 別に勇は男が好きではなく、全然女の子が恋愛対象だ。


「これで揺らぐような気持ちじゃないんだよ」

『ふ〜ん』


 興味なさげに聖剣が返す。


『ん?今アイツは風呂に入ったそうだ』

「なっ!!」


 勇は自分の中に溢れる葛藤をなんとか抑える。


「そ、そういうのは言わなくていいから」

『揺らぐの〜』

「う、うるさいなー」

『お主の力なら無理矢理でも自分の女に出来るのではないか?』

「どうだろ?多分無理だと思うし、することも絶対にないね」

『それはまたどうしてだ?』

「だって」


「彼は」

「僕は」


「「シアにゾッコンだから(ですから)」」




 一方その頃




「むにゃむにゃ、シャル可愛いよー」

「うふふ、お姉様の方が素敵ですよ」


 小学生よりも先に眠ってしまう高校生(精神年齢約30)。


「ん?」


 シャルはあることに気付く。


「またカメラなんか置いて」


 シャルが手を握ると、人形は跡形もなく消え去る。


「後でフローラから盗んでおかないと」


 そして新たなコレクションにする。


「ああ、お姉様」


 シアを強く抱きしめる。


「誰にも渡しません」


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