第4話

「ふ、体育か」


 体育とは一見陽キャが勝手に盛り上がるだけの時間と思っているだろう(ド偏見)。


 だが私は転生し、そこに少し誤りがあることに気付いた。


「そう、体育とは普段は地味な奴でも活躍出来る場」


 とどのつまり、ここで私がとんでもねぇ大活躍をかまし、女の子達に


『シア様すっごーい』

『きゃー素敵』

『結婚してー』


 と言われる展開を作れるというわけだ。


「ゲースゲスゲス、完璧な計画だぜ」

「その頭の悪そうな笑い方してるけど、シア運動出来ないよね?」

「ちっちっち、甘いな勇君。カレーにハチミツを入れるかのような甘さだ」

「意外と鋭いとこついたんだね」


 今日の授業はバスケ。


 ここでカッコよく3ポイントでも決めてやるぜ。


「ほら試合だよ」

「私の勇姿を見て惚れんなよ」

「……」


 呆れた目で見送られた。


「シア様!!」


 パスが飛んでくる。


 ふっ、華麗にキャッチしてやんぜ


「あ」


 ボールを取り損ね、コロコロと転がっていく。


「ま、待ってぇ〜」


 追いかける。


「アイテ」


 こけてしまう。


「いたい」


 鼻が真っ赤になったではないか。


「おん?」


 周りを見れば、見ていた男子は皆倒れており、女の子達はポーとした顔をしてる。


「やっぱりシア様可愛い」

「普段はしっかりなされているのに、運動となるとおっちょこちょいなところが最高」

「体育は陽キャが盛り上がるだけだと思っていたけど、シア様のために存在したのね」


 私抜きで盛り上がる女の子達。


「まずいな、恥をかいて笑われてしまっている」


 これでは計画が失敗してしまう。


「名誉挽回だ!!」


 ボールを広い、完璧なフォームで3ポイントを放つ。


「はぁあああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」


 ボールは何にもぶつかることなく、体育館に弾む音だけが響き渡った。


「私は……無力だ」


 膝をつく。


「「「「「尊い」」」」」


 遂には女の子たちまで倒れてしまった。


「こ、これは!!」


 私に覇王的な色の覇気が目覚めたのか!!


「はいはいシア、先生には事前に許可もらってるからあっちで僕と卓球でもしてようね」

「おい何でだよ、私はこの力を制御しなくちゃいけないのに」

「負けるのが怖いの?」


 ピッキーン


「おうおうやってやんよ。地上最強だか1000年に一人の天才だか知らんが、私がボコボコにしてやんよ」

「はいはい、即落ちさん行きますよー」


 ◇◆◇◆


「なぁ勇、あの子大人しそうな顔してるのに体は大人しくないよな」

「僕はシアが時々男だと錯覚するよ」


 元男ですから。


「で?お前のタイプってどんなのよ?やっぱりムキムキ系か?それともイケメン系か?もしかしてだけどショタ系か?」


 11点を100億点マッチにし、87ー0の状態で問う。


「僕の気のせいだけど、それら全部男じゃない?」

「は!!」


 そうだ。


 私は女の子大好きと躊躇いなく言えるが、そう言うことを恥ずかしくて言えない人が大勢いるんだ。


 私は受け入れられるが、相手に話す勇気があるかは別。


 ここは素直に紛らわしておこう。


「何でもないんだ勇。ただ、いつでも私に言ってくれ」

「すごく不愉快な勘違いをされてる気がする!!」


 バトル漫画風にボールが私の横を通り抜ける。


「さすがだな、我がライバルよ」

「雑魚とかいてライバルと読むのかな?」

「違う!!強敵と書いてライバルだ!!」


 そうやって二度目の学生生活を楽しんだ。


 ◇◆◇◆


「さて今日は、一風変わった方法で女の子を籠絡する」

「がんばれー」


 放課後、私と勇以外の誰もいない教室で作戦会議を立てる。


「前回の文学少女は図書委員であることが分かった。これがどういうことかわかるか?」

「わかりません」

「このカバが。つまり、今から保健室に行けば病弱のかわい子ちゃんがいるのは目に見えて明らかだろ」

「とんでもない千里眼だね」

「てなわけで行くぞ!!」


 勇の手を掴んだところで


「ん?」


 ガラガラ


 教室のドアが開く。


「はぁ、今日も授業出られなかったな」


 そこにはまだ春とはいえ、かなり服を着込んだ姿の少女。


「絶対そうだ」


 この子こそ私の求めていた病弱系少女に違いない。


「「あっ」」


 目が合う。


 彼女の頬が上気する。


 きっと私に惚れたに違いない。


「勇……さん」

「違うよ?この人は勇にそっくりな影武者のーー」

「そうだったんですね」

「違うよ!!全然そうじゃないよ!!もっと深く状況をーー」

「手も繋いでいるなんて」

「……こいつ手を離したらすぐに迷子になるから」

「さすがの僕もそれは傷つくよ?」

「さようなら」


 病弱というにはあまりにも速いスピードで駆けていく。


「……彼女との関わりは?」

「具合悪い時に保健室に行ったら偶々会って、意気投合した感じかな?」

「私生まれてこの方一度しか病気なったことない」

「いいことじゃないか」

「おかげでまた一人、女の子との縁を閉ざされてしまった」




 ◇◆◇◆




「これで終わったと思ったか?」

「終わって欲しいよホントに」


 私の計画には使うよう、保存用、そして観賞用がある。


「保健室がダメなら音楽室があるじゃないか」

「僕にはその理論体系の一切が分からないよ」

「きっと歌が得意な学園を超え、この国でトップクラスのアイドルがいるに違いない!!」

「シアはこの国どころか世界で有名だけどね」

「行くぞオラァ!!」


 音楽室に行く。


「見ろ!!ピアノの音だ!!」

「シアは音を見れるの?」

「突入だ!!」


 ドアをぶちーー静かに開ける。


「あれ?シア様?」


 全然吹奏楽部が部活をしていた。


 どうやらその中の一人が暇つぶしにピアノを弾いていたようだ。


「見学ですか?」

「え?あーいやー」


 私は別に部活を禁止されているわけではないが、私が一度冗談で『ゲーム部入りたいなぁ』とありもしない部活をボソリと呟いた結果、次の日にゲーム部が出来、学校の半分の生徒が入部したという。


 ちなみに私は責任を感じ『ゲーム部やっぱいいかなぁ』と大きめに言えば、次の日にまるで最初から何もなかったかのように無くなっていた。


 きっと皆も私のようなダメ王女でもコネを作りたいんだな。


「入部はしませんが、一応見学だけ」


 用もないのに来たのはあまりにも不自然だしな。


「そ、そうですか」


 吹奏楽部の面々が悲しそうな顔をする。


「ですがシア様と一緒に部活が出来るなど光栄の極みです」

「あらあらまぁ」


 お世辞が上手なこって


「お隣の勇さんもご一緒ですか?」

「僕はただの付き添いだったんだけど、僕もやっていいかな?」

「もちろんです!!」


 女の子達から黄色い声援が上がる。


 これだからイケメンは


「楽器は出来ないと思いますので、シア様はお歌いになられますか?」

「そ、そうですねー」


 正直歌なんて鼻歌歌うぐらいしかしたことない。


 けどここで断ったら『ノリ悪、王女だからってお高くとまってるんじゃないの?』と悪い印象を与えるかもしれない。


「そ、そうさせていただきますが、私はあまり歌のレパートリーがなくてですね」

「ではこれは?」

「すみません」

「これは?」

「これもちょっと」

「ではこれはあまり知られてないアニメのーー」

「あっこれなら知ってます」

「シアはお低くとまりすぎだね」


 そんなわけであれよあれよという間に私が先頭の真ん中に立ち、いつの間にか撮影が始まっていた。


 もしかしたら私への間接的ないじめなのかもしれない。


 唯一の仲間であるはずの勇はウキウキで、何故か周りにあらゆる楽器を持っている。


 もしかして一人で全部する気なの?


「それでは始めますね」


 皆が楽器を弾き始める。


 今までは遠くから聞くことしかなかったが、こうして近くで聴くとやはり凄いなー(小並感)って感じがする。


 そして何故か勇は楽器を一切弾かずニコニコしている。


 なんだと思いつつ、遂にイントロが終わり、私が歌う時がくる。


 どうせ恥かくなら、目一杯私のシャウトを聞かせてやるぜ。


「フンフンフフーン♪」


 私が歌うと一瞬音楽が止むが、すぐに再開する。


 きっと私の歌が思ったよりも下手で驚いたのだろう。


 だけど後ろから綺麗な音楽を聴きながら歌うのは案外悪くない。


 撮影されてることも忘れ、いつの間にか歌い終わる。


「スッキリしました」


 後ろを振り返ると、勇がパチパチと一人で拍手していた。


「やっぱりシアは歌が上手いね」

「私とカラオケ行ったことないくせに」

「シアはテンション上がると勝手に歌うからね」


 自身の無意識の癖を明かされるのは何とも小っ恥ずかしいものだ。


「それでこの方たちは一体」

「さぁ、でも、今が逃げるチャンスじゃない?」

「ほう?さすが親友。わかってんじゃん」


 そそくさと二人で音楽室を後にした。


 ◇◆◇◆


「はっ!!」


 吹奏楽部の少女は意識を取り戻す。


「あれは……夢?」

「いいえ違うわ」


 先に目を覚ましたもう一人の少女がカメラを見せる。


 最初はいつものように皆で楽器を弾き、そして


「やはり夢ではなかった」


 吹奏楽部に入るくらいだ。音楽は大好きである。


 そんな私でも、これほど綺麗な歌声は聞いたことがない。


 機械の音声のため耐えることができるが、直接聴いてしまった時は皆が一瞬で聞き惚れてしまった。


 だが音楽は続いている。


 そう


「勇さん」


 彼は一人で私達のパートを全てやってのけた。


 非凡すぎる才。


 後ろで静かに、あくまで私達と、そしてシア様を主役に立たせるように


「勇さん」


 私の心は彼に取られてしまったようだ。

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