第2話

 私が顔も気前も性格も心遣いも頭も良いことは分かってもらえたと思うが、この世界についてはまだ知っていないだろう。


 何を隠そう、実はこの世界に魔法は存在する。


 だけど全然強くない!!


 精々ライターの火が起こせるくらい。


 だけど学校では週に一度だけ、魔法用の授業がある。


 それは何故かというと


「さすがですね、勇さん」

「運良くこういう体質に生まれただけです」


 一瞬にしてビルほどの高さを飛び、岩は一瞬で溶岩へと化し、津波と間違うほどの激流を生み出す。


 こういう稀に現れる天地を揺るがすほどの魔法を使える人の能力を把握するためだ。


 私が転生した世界が漫画やアニメの世界なら、どう考えても勇が主人公であろう。


「だが私が真の主人公だ」


 きっとこれはそれらの二次創作であり、転生した私が勇にざまぁする物語であろう。


 今時正統派主人公など流行らん。


 やはり私のような超絶美少女転生者こそが正義。


「ではシア様、お願いします」

「承知しました」


 某なになに波のポーズをとる。


「はぁあああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!」


 ちょろりと水が出る。


「先代様の伝説の構えを完璧にやってのけるシア様はさすがですが、やはり力は……」

「大丈夫です。私は魔法が使えなくとも、妹やお姉様、お兄様がいますので」

「さすがです、シア様。ですがシア様こそと考えてる者も多くいますよ」

「その方々には申し訳ありませんが、私は王になるつもりはありません」

「……そうですか」


 だって王様めんどくさそうだし


「でも一時期『王様になってハーレムニート生活送るんじゃあああ』とか言ってなかった?」


 戻ってきた勇に話しかけらてる。


「バカか。あの時ジジイの仕事見て以来トラウマだよ。王様ってめんどくせぇのな」

「逆に楽だと思ってるその思考が一番楽だよね」


 楽観的を上手いこと言いやがって。


 バカと言われてカチンときたのか?


「なんとも器の小さな男だな」

「シア以外に言われたことないけどね」

「あぁん?皮肉か?」

「よくそれで器が小さいって人に言えたね……」


 全く、私の心は広いから許してやるが、次やったら打首ぞ?


「まるで打首するぞとばかりの顔だけど、本当にシアのお父様ならやってのけるからやめてね?」

「あのジジイ娘を溺愛しすぎなんだよ」

「あの方にそんなこと言えるのはこの世界でもシアだけだろうね。あの方ほど威厳のある人を僕は見たことないね」

「私は?私は威厳ありゅ?」

「威厳というより威圧することばっかりだね」

「はぁ?それってどういう意味だあぁん?」


 嘘も大概にしてほしいものだ。


 そんなデマを広げられて私がモテなくなってしまったらどうするつもりだ。


「まぁいい。そんなことより朗報がある」

「シアの朗報って基本最悪なことが起きるんだけど?」

「待て待て、今回はそんなことは起きない」

「それも毎回言ってるよ」

「実はある特殊なルートから取り寄せた情報なのだが、どうやら隣のクラスに影薄美少女がいるそうだ」

「別に自分のことをそういう存在とは思ってないけど、まるで主人公の親友役みたいだよね」

「違う!!お前が私の親友役なの!!だから可愛い女の子の情報持ってきてよ!!」

「だって途中から意味ないって分かったでしょ?」


 ◇◆◇◆


 一回目


『三年生で一番美人って言われてる人と友達になったんだけど、シア女の子の友達欲しいんだよね?』

『彼女な。だがナイスだ親友。私の虜にしてやるよ』


 放課後に体育館裏で会う。


 メチャクチャ清楚系の美人さんだ!!


『初めまして、私の名前はシア』


 すると何故か泣き出してしまう。


『どうして勇君が私の告白を断ったのか分かりました。ありがとうございます、これで自分の思いを断ち切れます』


 そう言って去っていった。


 二回目


『可愛い後輩ができたんだ。シアに紹介するよ』


 これは!!小悪魔系美少女か!!


『初めまして、私の名前はシア』


 そしたらまたまた泣き出してしまう。


『本気だったのに、あんなに恥ずかしいこともいっぱいしたのに、でもここまでされたらしょうがないよね』


 そう言って去っていく。


 三回目


『だ、誰にでも優しい僕の幼馴染を紹介するよ!!』


『お、おう!!頼んだぞ!!』


 メチャクチャ可愛い王道系女の子だ!!


『初めーー』


 泣き出してしまう。


『分かってたのに』


 そう言って去っていく。


 ◇◆◇◆


「あれは偶然だ。そう偶然。私も姫だ。少なからず私に嫌悪を示してる人に当たっただけだ」

「三人ともその後も仲良くしてるけど、シアを褒める以外聞いたことないよ」

「女の子ってのはいつだって裏では何考えてるか分かんないもんなんだぜ」

「シアも女の子でしょ」


 確かにそうだが、心まで染まったわけじゃない。


「ああもういいやめんどくさい。とりあえず、私は例の女の子を攻略する。邪魔すんなよマジで」

「はいはい、分かりましたよ。でももし何かあったらちゃんと僕を呼んでね」

「ウィーッス」


 そそくさと隣の教室に行く。


 ◇◆◇◆


「ターゲットロックオン」


 教室の端。


 眼鏡をかけ、長い前髪により顔は見えないがその雰囲気、佇まいから美少女だと分かる。


 更に文学少女とはまさしく大和撫子である私にピッタリである。


 ここは伝説の陽キャムーブ


『あれー?それ何読んでんの?』


 で会話の糸口を捕もう。


 忍足でバレずに教室に入


「え!!シア様!!」

「ど、どうしてここに!!」


 秒でバレてしまう。


 まずい!!


 文学少女に人混みは悪手。


 こんな場面で話しかけてしまえば第一印象最悪。


 「しょうがない」


 ここは断念するしかないのか


 そう思っていると


「あ、あの!!」


 話すことに慣れていないのか、声のボリュームが明からに狂った少女。


 その正体は私が話そうとしていた文学少女。


 彼女の大声に周りが静まりかえる。


「ひっ、す、すみません何でもないです」


 スタスタと席に戻っていく。


「何だあいつ」

「急にシア様に話しかけておいて何あの態度」

「陰キャのくせに」


 薄ら薄らとそんな声が聞こえる。


 文学少女は後悔するように肩を震わせている。


「静かに」


 一喝すれば皆が黙る。


「話しかけてくれてありがとうございます。私に何か用があるのでしょう?」


 優しく声を掛ける。


「あ、あの何でもないんです。私なんかがシア様に話しかけてしまい申し訳ありません」


 鼻声で何度も謝る文学少女。


「そんなことありません。私は話しかけてくれて嬉しかってたんですよ?どうか私とお話ししてくれませんか?」


 ざわざわとクラスがどよめく。


「そ、そんな!!私がお願いすることがあっても、シア様にお願いされることではありません。全身全霊でお話しさせて下さい!!」


 お喋りへの態度が戦場に赴く戦士並みにあるのは変だが、まぁよしとしよう。


「じ、実は前にリア様がこの本を読んでいるのを見まして」

「こ、これは!!」


 そこには『転生したら女になってウハウハハーレム生活〜地上最強ですが私また何かやっちゃいました?〜』があった。


「実は私もこれを読んでいて」

「なるほど」


 つまり彼女は同じ本を読んでる私と感想戦をしたいといわけか。


「では私と一緒にーー」

「実はこれ、勇君に勧められて」

「…………はぁ」

「もしかしてですけど、勇君がこれを勧めてくれたのって」

「まぁ一応私が読ませましたが、今は彼のことなんてどうでもよくて一緒にーー」

「やっぱりそうなんですね」


 哀愁漂わせ、空元気のように笑う。


「ですが、先程のシア様の様子でやっぱり素晴らしいお方だなと分かりました」

「え、ええありがとう。ならこれからーー」

「すみません。少し心の整理をさせて下さい」


 そう言い残し、文学少女は教室から逃げるように出て行った。


 その時の笑顔により、彼女は密かにクラスで人気になったという。


 ◇◆◇◆


「まただ」

「何が?」

「またお前に邪魔された」

「ええ〜、今回僕は現場にいなかったのに」

「お前、あの子に本勧める時なんて言ったんだよ」


 不思議そうに


「僕の最も大切な人が好きな本って言ったよ」

「言葉を選べ馬鹿者」


 これじゃえらく勘違いさせてしまうことだろう。


「はぁ」


 あの時の彼女の顔。


 こんなことを言うのもあれだが、とても綺麗だった。


「惜しい人を無くした」

「死んだみたいに言うんじゃない。不謹慎だよ」


 だが次回こそは必ず我がものにしてみせる。


「私のハーレム道はまだ始まったばかりだ」

「僕達の戦いはこれからだにならないように気をつけてね」



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