Love is… 

かえちゃん

第1話 Love is…

人を好きになる、人を愛する。この世界は愛で溢れている。その反面、悲しみや憎しみも溢れている。恋を知り、愛の意味を知る。先代の人々の考えは凄い。だけど、僕、高城紅葉(かえで)は人を好きになるという感情が分からない。生まれてこの方、人を好きになったことがない。テレビや雑誌の女優やモデルを見てかわいいとは思うものの、恋愛感情をもったことはない。15年生きてきて恋も交際経験も皆無な僕。このまま趣味の音楽と漫画を糧に人生を歩んでいくのかと思う。だけど、中学の頃の担任の先生が言っていた。


『高城。お前は成績優秀なのに目標がないなんて勿体なさすぎる。将来何になりたいとかどんな仕事に就きたいとかないのか?・・・お前はそれでいいのか?目標がない人生なんてつまらないぞ?やる気も起きないだろうし、いつか後悔するぞ。あの時こうしておけばよかったと。その時に後悔してももう遅い。人生何が起こるか分からないとよく言うが、本当に何が起こるかわからない。俺だって高校の頃は教師をやってるなんて夢にも思ってなかった。目標を見つけたから今ここにいるんだ。だから高城。お前も目標を見つけろ。そうすれば自然と時分の人生が見えてくる。後悔のない人生を歩むんだ。』


先生の言葉で僕は救われた。目標を見つけることができた。趣味の音楽を仕事にしたいと。

それからは中学の友達とバンドを結成し中学3年間充実した学校生活を送れた。これから高校生活が始まる。新しい生活に胸を弾ませていた。

・・・だが、それも束の間。僕は今、地面に腰をついている。理由は道を歩いていると、前の方から人が走ってきてぶつかったんだ。お互いに尻もちをつく形になっている。


「いってぇ・・・なんだ・・・?」


前を見るとそこには綺麗な長い茶髪の女性がいた。


「ってて・・・お前・・・」


一目見てわかった。この女性はいわゆるヤンキーというやつだ。目付きといい派手に着崩れた制服といいさっそく面倒な人と絡んでしまったと思った。


「悪かった。私がよく前を見てなかった。怪我してないか?」


「あ、ああ。大丈夫。」


なんだ、根はいいヤンキーなのか。自分の非を理解している。人は見かけによらないな。


「そっか。ならよかった。・・・その制服。新越大付属高校にいえつだいふぞくこうこうの制服だよな?」


「ああ。そうだけど・・・」


「新入生か?」


「ああ。」


「そうか。私も新越大付属高校の新入生だ。これも何かの縁だな。私の名前は一ノ瀬綾楓あやかだ。学校で会ったらよろしくな。」


「ああ。僕は高城紅葉たかしろかえで。よろしく。」


「じゃあ私急いでるから。じゃあな。」


そう言うと、彼女は走っていった。

どうやら彼女も僕と同じ新越大付属高校の新入生みたいだ。さっそく心が折れかけたけどよかった。


「さて、学校行くか。」


彼女の後を追うように学校へ向かった



新越大付属高校 体育館


「えー、新入生の皆さん。ご入学おめでとうございます。本校は伝統ある学校として地域貢献や・・・」


長い・・・こういう時の校長の話ほど長く感じるものは無い。あー、眠い・・・


「紅葉。部活どこに入るか決めたか?この学校軽音部があるぞ。」


「ああ。当然軽音部だよ。裕貴もだろ?」


「もちろん。軽音部以外興味無いよ。」


こいつは朝比奈裕貴。僕とは中学の頃からの友達で同じバンドを結成していたメンバーだ。


「それにしてもこの学校凄いよな。新入生だけでもめっちゃ可愛い子たくさんいるし。男女比率が丁度半々くらいだもんな。」


「そうだな・・・」


「あ、そうか。お前は興味無かったんだっけ。お前もそろそろ恋を知った方がいいぞ。」


「恋・・・ねぇ・・・」


さっきも言ったが僕は恋というものを知らない。目覚めたことも感じたことも無い。


「あ、でもさっき綺麗な・・・」


「なに!?お前の口から綺麗の言葉が出るなんて・・・熱でもあるのか?」


「熱は無ぇよ。さっき学校に来る前に綺麗な長い茶髪の女性を見たっての。この学校の新入生だった。」


「長い茶髪だと?さっき新入生の女子を一通り見たけど、そんな人はいなかったぞ?」


いないだと?確かにあの時ここの学校の新入生だと本人の口から聞いたぞ。


「ほんとか?名前も聞いたんだけど・・・」


「なんて言う名前だ?」


「えっと・・・一ノ瀬綾楓って言ってたな。」


「一ノ瀬綾楓・・・見たことない名前だな・・・制服には名札が付いているが、そんな名前の人はいなかったな。」


「そうなのか?じゃあ・・・どこへ行ったんだ?」


「えー、これで私の話とします。」


「あ、終わった。」


長かった校長の話も終わり僕らは教室へ移動した。



1-A教室


「可愛い子の名前は覚えているぞ。確か・・・吉崎よしさきという子と中条なかじょう、それから綾野あやの御代寺みしろじという子だ。」


こいつ・・・勉強できるくせにこういう所があるからな・・・


「御代寺だと?御代寺はこの辺じゃ有名な企業グループの代表の名前じゃないか?」


「そうなんだよ!その御代寺グループのご令嬢がこの学校にいるんだ!顔もめちゃくちゃ可愛いんだぞ!」


顔はイケメンなのに残念なやつだ。こういうのを残念なイケメンというのだろうか。

裕貴の熱弁に呆れていると教室の扉が開いた


「ここが1-Aか。同じクラスで良かったね桜!」


「うん!また夏希と同じクラスになれて嬉しいよ!」


2人組の女子生徒が教室の中へ入ってきた。


「あ、あの子が吉崎って子だ。やっぱりめっちゃ可愛い!隣にいる子もかなりレベル高いぞ!」


裕貴は興奮気味になっているが僕は吉崎って子を見てもなんとも思わない。


「あの子、吉崎桜っていうのか・・・名前まで可愛いじゃないか!」


「そうだな・・・・」


裕貴。中2の頃は至って真面目だったのにどうしてこうなってしまったのだろうか・・・


「はーい。みんな。席に着いて〜。出席取るよー。」


おっと、先生が入ってきた。席に座らないと。


「えー、みなさんおはようございます。私がこの1年1-Aの担任を務めます。藍葉沙耶あいばさやといいます。よろしくお願いします。」


担任は女の人か。しかもかなり若いな。20代前半くらいか?


「おお!先生もめっちゃかわいい!俺、この学校に来て良かったぁ!」


相変わらず裕貴は興奮している。確かに、あの人裕貴の好みどストライクだからな。


「セミロングの黒髪・・・程よく締まった体・・・整った顔立ち・・・・・・惚れた。」


「もー、そんなにからかわないでよね。えっと、じゃあ朝比奈くんから順番に自己紹介してもらおうかな。じゃあ朝比奈くんお願いね。」


「はい!俺は朝比奈裕貴といいます!新越南中学出身です!中学では軽音部に入っていて、ギターを担当していました!よろしくお願いします!藍葉先生!」


裕貴の自己紹介はほとんど先生に向けて話していた。


「はい。ありがとう。ギターをやっていたの?すごいね。高校でも軽音部に入るの?」


「はい!もちろんです!紅葉と一緒に軽音部に入ります!」


裕貴は勢い余って僕の名前まで言ってしまった。


「そうなんだ。頑張ってね。次、あれ、いない・・じゃあ次の人お願いします。」


朝比奈の後ろのやつ来てないのか・・・入学式に来ないなんてなにをしているんだ?


「まさか・・・」


ふと僕の頭の中にさっき会った一ノ瀬綾楓の顔が出てきた。


「一ノ瀬はこのクラスなのか・・・?」


「はい。ありがとう。次、岩城さん。」


「はい。私の名前は岩城秋桜いわきあおといいます。新越西中学出身です。趣味は映画鑑賞です。よろしくお願いします。」


「はい。ありがとう。じゃあ次・・・」


「やっぱ可愛い子が多いなぁ。マジでこの学校に来てよかった。」


裕貴は平常運転か。街へ出掛けるといつもこうだ。可愛い人を見つけては一々僕に報告してくる。っておい、あいつ先生のこと見過ぎだろ。ガン見してんじゃん。こういうときの裕貴の目はキラキラしている。そこは嫌じゃない。むしろいい事だと思う。好きなことに夢中になれるということ。まあ、裕貴の場合は特殊だけど。


「はい。ありがとう。じゃあ次、高城くん。」


考え事をしていたらいつの間にか僕の順番がまわってきた。


「はい。えー、高城紅葉といいます。新越南中学出身です。趣味は音楽と漫画です。よろしくお願いします。」


「君が朝比奈くんの言っていた紅葉くん?『紅葉』と書いて『かえで』と読むんだ。いい名前だね。ってことは10月生まれ?」


「はい。そうですけど。」


「秋生まれの人に多い名前だよね。高城くんは朝比奈くんと軽音部に入るんだよね?」


「はい。入ります。」


「じゃあメンバーが集まって文化祭でライブができるようになったら先生応援に行くね。」


「本当ですか!?ありがとうございます!!俺、凄い頑張るんで、是非来てください!!」


裕貴・・・今日のお前凄いな。まさか、本気で先生の事好きになっているのか?


「はい。ありがとうございます。頑張り・・・」


僕が言い切る前に突然教室の扉が開いた。扉が開くと、風が吹き込んできて綺麗な長い茶髪が靡いていた。


「あ、さっきの・・・」


「一ノ瀬・・・」


「あっ、君が一ノ瀬さん?よかった。学校来てくれたんだね。廊下側の前から2列目が一ノ瀬さんの席だよ。座って。」


「先生。遅れてすいません。」


「いいのいいの。じゃあ一ノ瀬さんの自己紹介がまだだから自己紹介してくれる?」


「はい。・・・一ノ瀬綾楓です。柏浦中学出身・・・先生、他に何を言えばいいですか?」


「みんなは自分の趣味とか話していたよ。」


「趣味・・・特にないです。」


「わかった。ありがとね。じゃあ次・・・」


(なにをしていたんだろう・・・やっぱヤンキーなのか?)


(この子が紅葉の言っていた一ノ瀬か。確かに綺麗な長い茶髪だ。なるほど。確かに好みだな。)


「ありがとう。じゃあ次結城さん。」


「はい!?俺ですか!?」


「あ、違う違う。結城夏希さんのことよ。朝比奈くんのことじゃないよ。」


「な、なんだ・・・びっくりした〜。」


裕貴、お前動揺しすぎだろ。なんだ?先生の事しか考えていないのか?高校生活始まってまだ半日も経ってないぞ?


「はい。結城夏希です。柏浦中学出身です。趣味は体を動かすことです。よろしくお願いします。」


「はい。ありがとう。じゃあ次吉崎さんお願い。」


「はい。吉崎桜といいます。夏希と同じ柏浦中学出身です。趣味は猫の動画を見ることです。よろしくお願いします。」


吉崎って子が自己紹介を終えるとクラスで歓声が湧いた。


『やべえ!あの子めっちゃかわいい!』


『モデル並の顔してんじゃん!』


などの声が上がる中、一際目立つ人がいる。


「やはり俺の眼に狂いはなかった!やっぱりこの学校に来て本当によかった!!!」


今日ハイテンションだな。こんな調子で学校生活やっていけるのか?


「はーい。じゃあみんな自己紹介終わったし、丁度時間だからHR終わりにします。号令は・・・あ、明日のHRで学級委員長や委員会を決める時に決めよう。今日は朝比奈くん号令掛けてくれる?」


「はい!よろこんで!起立!礼!」


今日は午前放課か。明日から授業が始まるのか。


「あ、みんな!今日から部活見学に行ってもいいからね!各部活動場所は後ろの掲示板に掲示してあるから!」


「今日から部活見学行けるのか。軽音部行ってみるか。」


席を立つと裕貴の席へ向かった


「裕貴。軽音部の見学に行かないか?」


「おお。そうだな。軽音部見てみたいし。行くか。」


「軽音部の活動場所教室棟4階物置部屋だ。」


「よし、行こうぜ。」



教室棟4階


「はあ・・・4階まで上るの地味にキツイな・・・」


「そうか?お前が運動不足なだけじゃねえのか?」


「馬鹿なことを言うな!俺は体力には自信がある方だ!」


裕貴は中学の頃軽音部と陸上部を掛け持ちしていたからな。


「引退してからあんまり走ってないから体力落ちたんじゃないか?」


「確かに引退してから走ってないけど・・・お前は疲れないのか?」


「まあ、そんなに疲れはしないけど・・・」


「俺も今日から朝晩走ろっかな。体力つけなきゃギター弾けないや。」


「あ、ここが物置部屋か。軽音部って書いてある。」


「入ってみようぜ。」


裕貴が部屋の扉を開けると、部屋の中には2人の男性と1人の女性がいた。


「ん?君たち新入生だよね?もしかして入部希望者?」


「は、はい。入部希望です。」


部屋の真ん中で椅子に座りながらベースの弦を調整していた男性が話しかけてきた。


「本当?やった!城野!新入生が来てくれたぞ!」


「マジか・・来てくれないと思ってたよ。」


「でもこれで部活継続できるじゃん!よかったね伊澤。城野。」


「ああ。先輩が抜けてギター2人も抜けちゃったからな。君たちが来てくれて嬉しいよ。」


「あ、ありがとうございます。僕は1年A組の高城紅葉です。担当はギターです。」


「同じく1年A組の朝比奈裕貴です。担当はバッキングギターです。」


「2人ともギターか。これは嬉しいな。俺は3年C組の伊澤海夏だ。担当はベースだ。よろしく。」


「俺は3年B組の城野丈一郎。担当はドラムだ。よろしく。」


「私も3年C組の若月侑香。担当はキーボードよ。よろしくね。」


「先輩方全員3年生なんですね。だからさっき継続できるって言ってたんですね。」


「そうなんだよ。俺たちが2年の時新入部員がいなかったんだよ。だから今年新入部員がいなかったら廃部だったんだよ。」


「ってことは俺たちが2年生になって新入部員がいなかったら2人しかいないから廃部ってことですか?」


裕貴が僕の顔を見ながら先輩に聞いてきた


「そういうこと。今年のサマーフェスや文化祭で宣伝して集めるしかないわね。」


「この学校ってサマーフェスがあるんですね。楽しみです。」


「2人とも今日はギター持ってきてるの?」


「すみません、今日は部活見学だけ来たのでギターは持ってきてません。」


「じゃあさ、ギター貸すから少し弾いてみてよ。私聞いてみたい。」


若月先輩からお願いされてしまった。僕は別に構わないのだが勇気は・・・


「はい!任せてください!」


心配する必要はなかったな。こいつは女性に弱いんだったな。


「俺の従兄弟のおさがりなんだけど、まだ全然弾けるから。」


伊澤先輩はロッカーの中から2本のギターを取り出した。


「ありがとうございます。」


このギター、相当使い込まれているな。弦は定期的に張り替えているみたいだな。


「このギター、Fenderですね。僕のギターもFenderなんですよ。」


「高城もか?Fenderっていいよな。かっこいいし。」


「紅葉、2人で弾くんだったら何を弾く?」


「そうだな。伊澤先輩、なんの曲がいいとかありますか?」


「特に指定はないけど・・・そうだな、アニソンとか弾けるか?」


「はい。大体なら弾けます。」


「じゃあアニソンで行くか。紅葉、God knows…にしようぜ。」


「よし、じゃあやるか。」


裕貴とアイコンタクトを取りながらタイミングを合わせる



軽音部の教室に2人のギターが響きわたる



「すごいよ2人とも!すっごい上手じゃん!」


「はは。ありがとうございます。」


「まだまだですけど、もっと練習頑張ります。」


「いや、2人とも本当にすごいよ。God knows…を弾けるんだ。腕は中級者レベルだよ。」


「これならサマーフェスも心配なさそうだね。」


若月先輩が話し終えた後、突然教室のドアが開いた


「そうね。2人がこんなに上手だったなんて分からなかった。これならサマーフェスも文化祭も心配なさそうね。」


「あ、藍葉先生!?ど、どうしてここに!?」


入ってきたのはA組の担任の藍葉先生だった


「なんだ、裕貴は知らなかったのか?軽音部の顧問は藍葉先生だぞ?」


「紅葉は知っていたのか?」


「ああ。教室の掲示板に貼ってあった各部活の活動場所と顧問について書いてあったからな。」


「しまった。見てなかった・・・」


「朝比奈くん!朝比奈くん本当にギター上手いのね。私びっくりした。これからもこの軽音部でたくさん練習してもっと上手くなってね!」


藍葉先生はすごい笑顔を裕貴に向けて言った。


「はい!!頑張ります!!俺、もっと上手くなります!!」


「これだけ上手いんだ。文句の付けようがないな。早速で悪いが、本日、この時間をもって君たち2人を軽音部に歓迎しよう。改めて、部長の伊澤海夏だ。よろしく。」


「はい!よろしくお願いします!」


こうして僕と裕貴は無事軽音部に入部することができた。相変わらず裕貴は藍葉先生にしか目がないようだが・・・まあ、それは良しとしよう。



帰り道


「はあ、なんだか今日は疲れたな。今日1日緊張してたからかな・・・いや?そんなに緊張してなくないか?」


僕は家路についていた。


「ん?あれは・・・」


ふと反対車線に目が行った。


「一ノ瀬・・・なのか?」


そこには両脇に小学生くらいの男の子と女の子と手を繋ぎながら背中に赤ちゃんを背負った長い茶髪の女性がいた。


「あの茶髪・・・今日見た一ノ瀬みたいだ。いや、茶髪の女性はたくさんいるか。多分人違いだな。僕も早く家に帰ろう。」



それにしても今日は色々なことがあったな。明日からの学校生活も難なくやっていけるといいが・・・人生、何が起こるか分からないからなあ。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

Love is…  かえちゃん @kaede161027

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ