49.第一の試練 そのに
「あっ、銀一さん!? 待ってくださ――」
ハルナさまの声を背に受け、土をかいていくことしばし。扉の下もなんなく潜り、ぷはあ、と頭を出してみれば……
「……やっぱり! これなら先に進めそう!」
目に映ったのは、ぼんやりと明かりの灯った、さっきまでとは雰囲気の違う廊下だった。
振り返って後ろを見れば、当然そこには分厚い扉。後ろから押せば開くんじゃないかと、試しに押してみるけれど。
「ふぬぬ……ダメだ、ぜんぜん動かないや」
そういうものではなかったらしく、扉はビクとも動かない。ポメラニアンが非力なだけ? なにも言い返せないですね……
「――――――――! ――――――、――――――――――!!?」
そんな目の前の扉越しに、大きく張り上げた声が伝わってくる。扉の厚さで聞き取れないけど、俺を心配してくれているんだろう。そりゃそうだ、完全に独断専行だったもんなあ。この体になってから、どうにも抑えが効かないことが……わふん……
「危険な魔物もいませんし、大丈夫ですからー! って、これもたぶん聞こえないよな。だったら……」
(ハルナさま……聞こえますか……扉の裏に出られましたが、やっぱり開きそうにないです……)
と、これもバレットモールの魔物特性である【念話】を繋げてみるけれど。
(……………………)
返事がない。というか、俺の声も伝わってない気がする。目の前のこの分厚い扉が、なにかを阻害している雰囲気があるのだ。
「うーん……だったら一度戻って、みんなが通れるトンネルを掘って……いやでも、いくら穴掘りが得意になっても、子いぬの手でそんなの掘れるか……? 俺の手のひらの大きさ、500円玉くらいだぞ……?」
硬貨ふたつを両手に持って、スコップ代わりに掘る図を想像。うん、何年かかるんだそれ。深さと長さを考えたら、ぜんぜん現実的じゃない。
うーん、と思わず空を見上げる。とはいえ迷宮の中なんだし、そこにお空はないんだけれど……
「……わふ? なにかぶら下がって……そうだ、扉の裏にある鎖を引けばいいって、ラニくんがそう言ってたっけ!」
天井から垂れ下がっているのは細い鎖。てらてらと鈍く輝いているそれは、「引っ張ってください」と言わんばかりに揺れ動いている。
「俺が潜って、これを引けばみんなが通れるって、そういう仕掛けだったんだな……! だったら……えいっ! ふんっ! ふんぬ……ふぬっ!」
絶妙に届かない高さにあるそれに、ぴょんぴょん飛びつくこと数回。
「ぬぬぬ……ていやっ! よっし!」
ついに肉球が引っかかる。あとはこれを引っ張れば……! えいっ、えいっ……!
「……………………」
……体が! 軽すぎて!! ちっとも鎖が動かない!!!
足をつけてふんばろうにも、ギリギリつまさきが届かない。まるで計算づくみたいに……いや、計算づくなんだろうな。
「だったら反動をつければ……わふふ、わふふふっ!? ぎゃふんっ!」
必死にぶら下がってみるけど、鎖がぶらぶら揺れるだけ。そうして揺れているうちに、力がゆるんで落ちてしまう。
「いたた……うーん……どうしたのものか……」
それでも手応えは感じられるので、これがカギなのは間違いない。きっと人間の力で引けば、なんなく扉が開くんだろう。人間じゃなくても大型犬なら……
「……いや、もう少し考えよう。確実に解決するだろうけど、そのまま寝ちゃうのは避けたいし」
ひとたび彼を呼んでしまえば、間違いなく半日は爆睡する。そうなれば元宮を探すどころか、俺はただのお荷物に成り下がってしまう。
ちなみに、神の座から誰を呼ぶかで眠気はかなり変わってくる。大二郎さんなら一発で寝て、
「なにかうまい方法はないかな……うーん……うーん……」
大きめに声を出してみても、神様からの助けはない。だったらあとは俺のスキルと、周りにあるものでなんとかしなきゃ。
よくよく見れば、土の地面は最初だけ。少し進めば、石造りの構造に変化している。仕組みはさっぱりわからないけど、継ぎ目がほんわり発光していて、それが明かりになっていた。
それを頼りに目をこらせば、暗がりでも目が慣れてくる。地面を見ればちらほらと、小石やブロックが落ちてるみたい。そうだ、これを動かして足場にすれば……!
「よっと……よっし、なんとか持てるぞ……!」
レンガみたいなブロックのひとつを、両手で抱えて持ち上げる。人間の体ならなんてことないんだろうけど、子犬の身では動かすのもひと苦労で……おもい……よいしょ……
ふらふらと2足歩行しながら、鎖の下にそれを置く。よしよし、ちょうどいい足場だ。これなら手が届く……どうだ……!
「ふんっ! よいしょ……ふんぬぬっ……ぬぬ……だめかあ……」
いくらか引っ張ってみたけれど、仕掛けが動く気配はない。ぜえぜえと息が上がってきて、ぺたんとへたり込んでしまう。
……いやいや、へたってる場合じゃない。パワーが足りていないなら、次は重さを足せばいいのだ。
でも、重たいものを抱えたままじゃ、そもそも鎖に飛びつけない。とはいえ軽くちゃ意味がないし、なにか……なにか方法があるはず……
どのくらいそうしていたんだろう、気づけばあぐらをかいたまま、腕組みをしてうなっていた俺。胸毛に埋まった前足に、自分で笑ってしまったけれど。
「……胸毛! そうだ! これだ!」
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