39.お食事会をしましょうね

【その眼で捉えているならば、放ったものは必ず当たる】


 それがリルさんに神様が与えた『祝福ブレス』の正体らしい。見えてさえいれば、投げたり撃ったりしたものが絶対に当たる――そういう便利な能力みたい。

 どうして教えてくれなかったのと、当然ながら聞いてみたんだけれど。


「神から賜ったものに文句を言うわけじゃあないですが……なんだか恥ずかしいじゃないですか。明らかに戦闘用というか、野蛮な力だというか。それに、これは私自身の力ではありません。あくまで借り物、誇らしげに語ることではありませんから」


 そう答えてくれたリルさんは、なんだかほんのりほっぺが赤い。しかしそれは、照れたり怒ったりしているわけではなく……単純に、お酒に酔っているからである。


「その力があるからこそ、私たちを助けられたんですよ? それに、元は自身の力でなかったとしても、使いこなしているのは間違いなく努力のたまものです。本当にリルちゃんはえらい子、えらい子ですねえ」


 聖母の笑みを浮かべるハルナさまも、同じく頬を染めている。しまった……これはたくさん飲んでるな……もう少し早く起きられていればこんなことには……


 崩落鷹ハイクロウズを倒したあとすぐ、当然のように俺は爆睡。そのあと目を覚ましてみれば、ハルナさまのおうちにて、リルさんラニくんとのお食事会が始まっていたのである。俺の出自や目的なんかも、寝ているあいだに説明してもらえたみたいだ。


「そういえば、調査隊には別の方々もいらっしゃいましたよね? 俺が言うのもなんですが、お誘いしなくてよかったんですか?」

「ふたりは村の駐在所に待機してくれてます。万一の魔獣出現に備えるって言ってたんですが、おれたちとハルナ先生の関係を知って、気を遣ってくれたんでしょうね。つもる話もあるだろうから、いないほうが気楽だろうって。ほんと、いい仲間たちなんですよ」


 ハルナさまの代わりに答えてくれたのは、お皿に山盛りの料理を取っているラニくん。リルさんと同じく、鎧を脱いでラフな格好になっているけど……体ごっつ。首ふっと。シックスパックどころか、腹筋10個くらいに割れてそう。


「あんなにちいさかったふたりが、こんなに立派な大人になって。本当に嬉しく、誇らしいことです。本当に……ほんとうにですよ……」


 俺の隣でくぴくぴとぶどう酒を口にするハルナさまは、ほろ酔いをとっくに越えている。向かいに座るリルさんも、なかなか目立つピッチの速さだ。


(ギンチチさん、ハルナ先生ってもしかして)

(普段は飲まないからか、飲みはじめちゃうとわりとね。もしかしてリルさんも?)

(まあ、潰れるのもすぐなんで。おれは今日は飲みませんし、ちゃんと担いで帰りますから)


 おっとわりと慣れてる感じ。ラニくんの苦労がしのばれるなあ。


「ふたりとも、なにをこそこそ話しているんですか? もしかして、お酒が足りていないんですか?」

「いえいえ、俺もしっかりいただいてますから!」

「ふふ、それならよかった。銀一さんも遠慮せず、たくさん飲んでくださいね」


 俺が舐めているのはヤギミルクなんだけど、それに気づけないくらいにはできあがっておられる様子。ここまでになったのは初めて見るけど、ふたりとの再会が本当に嬉しかったんだろうなあ。


「それにしても、ここで先生を見つけたときは本当にびっくりしましたよ。でもほら、すぐにおれってわかってくれたでしょ? すごく嬉しかったです」

「お変わりないようで安心しました。姿もそうですけど、非常事態にもあわてないところとか、的確に指示を出してくれるところとか。昔憧れてたハルナ先生のままだ! って、私も嬉しくなっちゃいました」

「そうそう、それなんですけど。指示が的確すぎたというか、癒四朗いやしろうくんや疾三はやみつさんの能力も、しっかり把握されてましたよね? 俺も詳しくは知らないのに、どうしてなんですか?」

「ふふふ」


 あっこれ教えてくれない顔だ。酔うといたずら好きというか、ちょっと子供っぽくなるんだよなあ、ハルナさまって。


「だったら、ふたりとハルナさまの関係を教えてください。教え子と言っていましたけど、ほかの村でも学校の先生をされていたんですか?」

「ハルナ先生はですね、私たちが暮らしていた施設の先生だったんです」

「世話をしてくれてた人たちのことを『先生』って呼んでたんだよな」


 暮らしてた。施設で。えとえと、この場合の施設というのは、つまり。


「そっか。ハルナさまはこの村に来る前は、養護施設のお手伝いをしてたって」

「そうですそうです。おれたちが住んでた村が魔獣の群れに襲われちゃって、ほとんど全滅だったんですよね。おれとリルは助かったんだけど、頼れる親戚もいなくて」

「6歳くらいのころだったかしら。施設のある隣村に預けられることになって、これからどうしたらいいんだろうって、とても不安で。そんな私たちにハルナ先生は、とても優しくしてくれたんです」

「怒ったときは怖かったけどなー。リルがよくイタズラしてさあ」

「歴史を捏造しないでもらえるかしら。怒られていたのはあなたじゃない」

「ふたりともですよー。普段はとってもいい子なのに、時々びっくりするようなことをしていましたよね」


 和気あいあいと話しているけど、なかなかけっこう事情が重い。それでもふたりが明るく話せているのは、今の俺と同じで、ハルナさまが親身になってくれたからなんだろうなあ。

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