27.ポメチワ、名前を得る
「ええと、そんな顔をしないでください! ぼくがいなくても組織は残っていますし、あっちの世界は大丈夫ですから!」
「いや、そうじゃなくて……うーん、なんと言えばいいものか……」
「そんなあなたが、どうしてここへ?」
言葉を引き継ぐハルナさまだけど、その声はなんだかすこし固い。怒ってる……わけではなく、つらい、かなしい、そんなふうな
「ええと……不便を感じたことはないって言いましたけど、不自由はあったというか、外の世界にずっと憧れがあったんです。みなさんは人捜しをしているんですよね? それを手伝っていれば、いろいろな場所に行けて、いろいろなことを体験できるのかなって、興味がわいて」
「わかりました、採用です」
「そ、そうですよね。みなさんは真剣なのに、利用するようなことを言っちゃあ……え?」
「お手伝いなんかしなくてもいいですから、いつでもこちらの世界に来てください。たくさんたくさん、楽しいことを経験してくれれば、それでいいんです」
「で、でも。ぼくらがこっちに来ると、かなり体力を消耗してしまうんですよね?」
「気にしないでください」
有無を言わさぬハルナさまに、助けを求めるポメチワくんの視線が俺に。えとえと、確かにこのスキルを使ったら、疲れてかなり眠たくなっちゃうんだけど……
「銀一さんにはたっぷりお昼寝をしてもらいます。だから大丈夫です、そうですよね?」
「はい……」
こうなったら元宮は止まらない。ポメチワくんの境遇を聞いて、なんとかしてあげたいと思ったんだろうけど……
……あれ、いま俺、元宮って思った? ここにいるのはハルナさまだぞ?
あらためて顔を見てみれば、当然そこにはハルナさま、なんだけど。
感情移入しているんだろう。涙をこらえ、うるんでいる瞳。
それを悟られまいと、固くなってしまった表情。
ちいさく震えてしまうほど、ぐっと握られた両手のひら。
それは、どれも。
誰かの悲しい話を聞いて、解決策を探そうとするときの、元宮のしぐさにそっくりだった。
(ときどきあるんだよなあ、ハルナさまが元宮に見えるの。顔がすごく似てるから、なんだろうけど……他人のそら似で納得していいものなのかな……)
「……さん、銀一さん? 聞いていますか?」
「え? すみません、なにかおっしゃいましたか?」
「大二郎さんたちも呼んで、定期的にお茶会を――この村の人たちと交流する機会を作ろうかと、そんな話をしていたんです。日にちが決まっていれば、銀一さんも用意ができますよね」
「なるほど、それはいい考えですね。俺もきちんと体力を付けなきゃ……筋トレとかしちゃいましょうか?」
まあ、考えてもしかたがない。棚上げにするのも良くないけれど、いま考える問題じゃあないしね。
「ということで、俺からもよろしくお願いします。スキルもすごそうなのが揃ってるし、そっちの意味でも期待してるよ」
「……はいっ!」
きゃん! と嬉しい鳴き声なポメチワくん。真面目で素直そうな子だし、なにより事情を聞いてしまえば、応援したいと俺も思ってしまったのだ。
「そうなると、きみをどう呼べばいいかなんだけど……っと、言ってるそばから」
ほわん、と渡された履歴書が光る。書き換わったのは名前のところ、大二郎さんと同じく、この子に神様が名前を付けてくれたんだろう。
その名も『
能力からの命名なのかな、これは。
「ぼくは今日から……癒四朗なんですね……!」
「名付け親は神様だけど、嫌じゃない? 文句があったらきちんと言っておくんだよ?」
「そんなことないです! それじゃあ、よろしくお願いしますね!」
きゃわん! と尻尾がぶんぶんぶん、喜びマックスの癒四朗くん。また来ますねと笑ったあとで、姿がふんわり光って消えた。
「とってもいい子でしたね。それに、銀一さんと同郷だなんて」
「まったく知らない業界でしたけどね。もしかしてその、こちらの世界にも、そういった『闇の組織』みたいなものがあったりして……?」
「ふふふ……世の中には『知らないほうがいい』ことがあるんですよ?」
「ひえっ」
「なーんて、冗談です。ない、とは言い切れませんが、私の知っている範囲では聞いたことがありませんね。災害や魔獣などの困難に立ち向かうといえば、王都の騎士団がそれに当たると思いますよ」
王都。騎士団。このひと月で何度か耳にしたそれは、この国における警察や軍隊のようなものなんだとか。
この村にもいる駐在さんから、化け物と戦う騎士様まで。人々の暮らしを守っている、頼れる組織のようである。みんなかっこいい鎧でビシッと決めてるんだろうなあ。俺も男の子なので、そういうの興味がありますよ……!
と、化け物と戦うといえばだよ。
「ポメチワ……癒四朗くんのスキルを見るに、幽霊とか悪魔とか、そういうものが得意そうでしたよね? 実はですね、この家に来てから何度か、夜中に叫び声のようなものを聞いたことがありまして……いちど視てもらったほうがいいですかね?」
そう、これはちょっと気になっていた。最初は夢かと思ったけど、かなりリアルな声だったからなあ。
「大丈夫です。ですから、その話題は今後一切禁止とします」
ぴしゃりと即答ぎみなお返事。もしかして幽霊とかダメな人だったかな、ハルナさま。
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