ポメラニアン、森へ
14.ポメラニアン、鳥にさらわれる
どうも、琴吹銀一です。高い高いはるかな空から、すべてをあきらめ落下中です。
「わふ……」
このまま地面に落っこちたら、ぺしゃんこになってしまいそうですが……
「わふわふわふっ!? ぶべ、ぎゃっふん!」
……大丈夫だった。うまいこと下にあった枝とか茂みがクッションになってくれた。鼻と背中は何度も打ったけど……うう……いたい……
「とんだなー」「おそわれるとはなー」「ききいしきがたらぬー」「じめんをほらないからそうなるー」「でもかえってきたー」「いぬのそこぢからをみたー」
そんな地面の下からは、バレットモールのみなさんの声。はぐれてしまったかと思ったけれど、その心配はなかったみたいだ。
いったいなにが起こったのかというと、これはもう、笑うことしかできない話で。
・バレットモールと合流して村を出た俺、無限に広がる草原にテンションが上がり大爆走。
・秒で疲れ果て倒れる。子犬の本能を呪いながら休憩を提案。
・……しようと思ったその瞬間、タカに似た大きな鳥が間抜けな
・しばらく空を運ばれたところで、ようやくスキルスロットが登場。それを使って逃れたのはいいけれど、当然犬は飛べないので……もはや虚無の顔になるしかなく……
……うん、生きててよかった。たいした怪我もしてないの、もはや奇跡では?
「いそいでおいかけてつかれたのだー」「きゅうけいしろー」
「そうは言っても、ロスした時間を取り戻さないと……ってあれ、ここ、森っぽい?」
「すみかはもりのおくー」「あとすこしだなー」「だからやすんでもいいなー」
「ウソぉ……鳥にエサにされかけてショートカットしたの俺……そんなことある……?」
言われてあたりを見回せば、りっぱな大樹の密集地帯。なるほどこれが世界樹……いや違うわ、ポメラニアンの目には大きく見えるだけで、そのへんにある普通の木だわ。
そんな木のふもとに寄り、まわりをキョロキョロくんくんくん。視覚と嗅覚から判断するに……安全そうだな。よっし、休もう!
ふう、と息を吐きながら、木の幹を背もたれにして足を投げ出す。犬のおすわりもいいんだけど、人間スタイルも落ち着くんだよね。
「そうだ、荷物は……よかった、なにも落としてないな」
首に巻かれたちいさな風呂敷を解き、中身を目の前に広げる。典型的などろぼうのイラストみたいに、バランス悪く背負ってきたものは。
ひとつ、ハルナさまが持たせてくれたお弁当と水筒。
ふたつ、適当に折り畳んだ俺の説明書。
みっつ、カメラ。
「壊れて……は、ないよなあ。仮にも神様がくれたものだし、たぶん頑丈でしょ」
そう、カメラ。調査におもむくにあたり、森の様子やモンスターの特徴をどう記録すればいいかと話していた、昨日の晩。
『【すみかを得よう】の達成報酬だよ! フィルム交換はいらないし、現像だって一瞬だからね! この世界での思い出を、じゃんじゃん形に残していこう!』
そんな声と一緒に、レトロなポラロイドカメラが降ってきたのである。なんというかこう……こう……(ため息)
ちなみに、この世界にも写真やカメラは存在するらしい。だけどそれは、時間とお金がたくさんかかる、庶民には縁のないものなんだとか。
そんなものをもらってもと、最初はそう考えたんだけど。
よく考えてみれば、これもなにかのミッションに関わってくる気がしてならない。『特定の場所を撮影する』『撮影回数が○回を超える』は、この手のゲームの王道だからだ。いや俺の人生はゲームではないけども。
なので動作確認もかねて、ガンガン使っていく所存。子犬の手にはあまるそれを、なんとか構えて脇をしめて……森の景色をぽちー。その場で写真がびろーん。
「よっし、きれいに撮れてる。カメラなんて興味なかったけど、触るとけっこう楽しいなあ」
「なにしてるー?」「カシャってきこえたー」「いぬのなきごえー?」「はらのおとー?」
「えっと……見えてるものをそのまま絵にできる道具だよ。そうだ、よかったらみんなも写ってみる? 出てきてくれたらすぐなんだけど」
「すがたはなかまにしかみせないのだー」「そとはきけんだからなー」「あぶないからなー」「ぎんちちみたいにさらわれるからなー」
「なにも反論できない……」
「それよりー」「どうやってとりからにげてきたー?」「きになるー」「きになるいぬのしぐさー」
「ああ、それは……そうだ、これも確認しておかないと」
カメラを置き、俺の説明書を広げる。真ん中あたりのページには、俺の祝福のことが書いてあって。
「確認するには片手をかざして……肉球を意識しながら空中をスワイプ……おお……何度見てもおどろきが……」
動かした手についてきたみたいに、いろんな図や字が現れる。俺にしか視えないらしいそれらは、SF映画で見るような、目の前にディスプレイが浮かんでくるアレだ。
――――――――――――――――――
【琴吹銀一】
■ 種族/犬(ポメラニアン)■
■ 祝福 ■
・スキル獲得
■ 被呪 ■
・獣化(犬)
■ 所持スキル ■
・意思疎通【会話】 ・帰還【宿り】
・透過【陽炎】
■ ???????? ■
■ 所持神具 ■
・説明書(基礎編) ・無限カメラ
■ 解除済み実績(タップで表示) ■
■ ???????? ■
■ 忘却 ■
――――――――――――――――――
うんうん。俺の人生、ゲームだったわ。
もうツッコむ気も起きないし、これはこれとして受け入れようね。というわけで今回はここ、所持スキルの文字をタップ。ポップアップしてくるのは、スキルの簡単な説明だ。
・意思疎通【会話】 種族を問わず会話を成立させる
・帰還【宿り】 直近の宿へと瞬間移動する
で、これがさっき、運ばれながら選んだスキル。タカ(暫定)の足からスルッと抜けた、この能力の正体は……!
・透過【陽炎】 体の動きを止めている間は他者からの干渉を受けない
「じっとしてる間は俺に触れなくなる、ってことかな。もう少し詳しく知りたいけど……」
詳細な説明を表示させるには、専用のスキルか道具が必要になるらしい。そういえば、神様もそう言ってたっけ。
ちなみに、もういちどタップするとスキル自体をオンオフできる。具体的には帰還【宿り】で、普段は外しておかないと簡単に暴発する。帰宅の意思を示すどころか、ハルナさまのことを思い浮かべただけで、ふわふわふかふかな胸の中へとワープしてしまうレベルである。しかたがないんですよ……居心地がよすぎるんですよあの場所は……
「なるほどなー」「すりぬけたのかー」「いぬのしんぴー」
「普通のいぬはこんなことできないからね……」
とりあえず、このスキルはオンのままにしておこう。いずれは取捨選択させられそうな気がする……コストとかあるでしょぜったい……
「露骨な【???】も気になるけど、これもミッションがらみなんだろうなあ」
そう。ミッションと言えば、それは俺が人間に戻るためだけのものではなく。
達成数を増やしていくにつれ、元宮を探すヒントがもらえるという確信がある。ゲームの文法で俺を動かしているのなら、そうでないほうがおかしいからだ。神様に乗せられているのは承知の上で、色々なことを試していかないとなあ。
「さいごもなにかかいてあるー」「よめんがー」「しらないもじだがー」「はてなはよめるー」
そんなことを思っていたら、バレットモールのみなさんがステータス画面に食いついてきた。俺にしか視えないって説明書に書いてあったのに……というか、土の中にいるのに外のこと見えてたんだ……
「これはあれ、押しちゃいけないやつ」
「おすなよー」「ぜったいにおすなよー」
「フリじゃないからね?」
スキルスロットにも毎回出てくる、この【忘却】のふた文字。ステータスリセット系のそれかな? と思いながらも、説明書を確認してみたんだけど。
【記憶や人格を消去するボタン。すべてをあきらめ犬として暮らすことを決意したら押そう!】
「人に自爆ボタンを搭載しないでもらえませんかねえ……」
「いぬー」「ばくはつするいぬー」「みてみたいなー」「おすなよー」「ぜったいおすなよー」
「だからフリじゃないって!」
そんなこんなで休憩を終え、荷物を背負っていざ出発。静かで落ち着いた森だけど、みんなを追い出したモンスターに近づいているのは間違いない。ここからは油断することなく、身を隠しながら動かないと。さっき襲われたタカみたいな、危ない獣がいるかもしれないしね。
幸いなことに、黒メインの毛並みを持つ俺は薄暗い森に溶け込んでいる。小型犬かつ子犬なのもあり、ステルス性は十分である。なのでこっそり進みますよ……こそ……こそこそ……
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