第8話 はじめてのたたかい?
「あばばはばば!!!ひゃっ、え………ッぎゃあああああああああ!」
太陽が燦々と照りつける春の日。私は今、空を飛んでいます。
見渡す限りの青空。風がとっても気持ちいいですね。あはは。
「うそ、うそうそうそうそっ!!!や、ぶぅ!」
【カレンよ、どうじゃ?妾の飛行は、気持ち良いじゃろ?】
「じぬぅううう!!む、ムーぢゃん!ぞくどおどじでぇえええ!」※速度落として
縦横無尽に飛び回る龍の背は、某ハイランドよりも刺激的で―――わぉ、ここで回転するんだね。高飛車な回遊だなぁ。
【ひゃっほう!!スッゲーーーはえーーー!!】
【ふーきーとーばーさーれーるーのー】
ショウくんとシャルは随分余裕そうだね。あれ?私がおかしいのかな?目まぐるしい景色と裏腹に意識は割りと冷静な私は考えるが、すぐに訂正する。
【ぎゃあああああ!!ち、ちょっと、ムー!!ふざける、のも、大概に…お、降ろしてぇええ!!】
良かった。ユキナは仲間みたいだ。
【まったく、カレンとユキナは軟弱者じゃのう、妾の飛行は安全第一じゃぞ?】
「絶対嘘だぁあ!!む、無駄にアクロバティックな動きしてるじゃんんんんん!!」
【あ、カレン、カレン。もう無理かも】
「ユキナぁあああ、
私とユキナの悲痛な叫びは、山びこになって森の中に消えた。
×××××
朝食を食べた私達は、最初に私が転生した場所、聖域に来ていた。
この森の中で唯一妨げるものが無い空間。ムーちゃんが人里まで案内してくれるらしいが、転移陣でも在るのかな、とワクワクしていた私を、過去に戻れるなら行くなと止めたい。
「よし、絶好の飛行日和じゃな」
「んー?ひこうびより?」
私が首をかしげると、ムーちゃんが少し離れた位置に立って、ちょっと待っとれ、と私達を制止する。
「ぬん!!」
力強い掛け声と共に、可愛らしい幼女の姿から、強大な龍の姿へと変貌する。
【よし、もう良いぞ!さぁ、妾の背中に乗るのじゃ!!】
うぉ!頭の中に声が響く。ムーちゃんの声だ。テレパシーってやつだろうか?電話を通した時のような若干の違和感がある。
ん?てか今なんて言いました?
「え?いやいや、ふぅ、ハハハ、ムーちゃんは冗談がお上手だなぁ」あせあせ。
飛ぶの?飛んじゃうの!?私は高所恐怖症なのですよ?ジェットコースターとか見ただけで足がすくむんだよ?まったくもう!!
【何を言っとるんじゃ?歩くより飛ぶ方が遥かに効率的じゃろう?】
「いや~、はっはっは、それはどうかな?もしかしたら走った方が速いかもよ?」レベル648だし。
【カレン!!空飛んでみたいの!!】
シャルさん?いつもそんなテンションだったっけ?
【カレン!!風になろうぜ!!】
ショウくん?どういうこと?
お願い!!とおねだりする2匹の猫。いや~、いくら可愛くても、無理なものは無理だからぁ。
【カレン、一緒に飛んでくれたら…僕のおっぱい…揉んでもいいよ?】
「よし、飛ぼう!!ショウくん!!」
後に自分の浅はかさを呪ったのは言うまでもない。
×××××
冒頭に戻りまして。
目を閉じたまま飛行を続ける私とユキナに気を遣い、速度を落としたムーちゃん。高さには慣れないが、速さには慣れてきた。
そんな中、山を降りて麓の方へと向かう私の頭に、ムーちゃんからのテレパシーが響いた。
【…カレン、誰かが襲われているのじゃ】
「え?どういうこと!?」
【見た所、冒険者のようじゃな…大男と、若い娘のようじゃ…】
冒険者…魔物と呼ばれる怪物がいるのだから、やっぱりこの世界にはそういう職業があるんだと改めて実感する。
そんななか、若い娘と聞いて、無意識に自分と重ねて不安がよぎる。
「だ、大丈夫なの?」
【うむ、襲ってるのはSランク以上の魔物じゃな…男の方はそこそこ戦えるようじゃが厳しいじゃろう…娘の方は危険じゃ、恐らく殺されるじゃろうな………】
「大変!助けなきゃ!!」
【カレン!!】
後ろに乗っているユキナが私を呼ぶ。彼女は心配そうに瞳を揺らして私を見ていた。
「うん、分かってる。もう一人で無理はしない!」
私は笑った。もう皆に心配を掛けたくないから。
揺れるムーちゃんの背で、私は必死に考える。どうやって助ける?安全を考慮するのは大前提だけど、時間がない。
【カレン、まずい!!娘が吹き飛ばされた!!】
事態は思った以上に切迫していた。助けたい。その思いが自分の中で増幅する。
「くっ…やるしかないよね…」
私は創造スキルを使い、重力操作魔法を作成する。更にレベルが上がったことで覚えた中級スキル、視覚拡張と視力強化を自分にバフする。
正直に言えば怖い。だけど、目の前に死にそうな人がいて、助けられないのはもっと怖い。
「ユキナ、私と来て!!ムーちゃんは、シャルとショウくんと一緒に、男の人をお願い!!」
私は、全ての勇気を振り絞り、ムーちゃんの背から飛び降りた。
ぶっつけ本番だ。作戦なんてない。だけどなぜだろう、負ける気がしなかった。
「ゴリ押しだけど、やれる!やって見せる!!」
××××××××××
何が起こったのだろう?
魔法使いの少女、マーシャは状況を理解できずにいた。
「大丈夫?怪我はない?」
空から突然降ってきて、あの恐ろしい怪物を右足一閃で吹き飛ばした少女に、マーシャは目を丸くして固まっていた。
先ほどまで恐怖に支配され動かなかった身体は、今度はその少女の存在によって別の意味で動かなかった。
この可憐な少女の何処にあんな力があったのか、笑顔で手を差し伸べてくる少女に、戸惑いを隠せない。
「や、やっぱり、どこか怪我してた?」
黙って見詰めていると、次第に少女の瞳が不安げに揺れた。その姿を見てハッと我に返ったマーシャは、ようやく彼女が自分の命を救ってくれたのだと理解した。
「はい、大丈夫です…助けてくれて、ありがとう」
「ううん、気にしないで!」
明るく笑う少女に対し、やっとマーシャも安堵の表情になる。
「どこにも怪我が無くて良かったよ!……あっ…」
少女が、自分の下腹部辺りを見て固まったことに対し、マーシャも自然と視線を下げる。
そこで初めて、自分が漏らしてしまっていた事に気が付き、羞恥心のあまり顔を真っ赤に染めた上げた。
俯いて、うぅ、と小さく縮こまってしまったマーシャに、少女が優しく声をかける。
「大丈夫、ちょっと待ってね……これを、こうして………よしっ、完成!!上位魔法、
少女が魔法を掛けると、マーシャの身体と地面が清められ、何事もなかったかのように元通りになった。
「あ、ありがとう、ございます!…助けて頂いて不躾ですが、あの身体能力の高さに聖職者の魔法。…あなたは何者なんですか?」
「あ~、えっと、私はカレン!!ふ、普通の人間だよ~」
カレンと名乗った少女は、マーシャから目をそらし、ヒューヒューと音になっていないヘタクソな口笛を吹いている。あからさまに嘘を付いていた。
マーシャに責めるつもりなんてない。純粋に強者である少女に、好奇心が湧いたのだ。
「ごめんなさいカレンさん、責めている訳じゃないんです―――」
「グゥウウォオオオオオオオ!!!」
ひっ、とマーシャが屈む体勢になる。
数十メートル吹き飛ばされた先で、崩壊のハティルが低い唸り声をあげて、怒り狂っていた。
「あっちゃー、流石に私じゃワンパンは無理かぁ、ってか何あいつ!めっちゃグロい!!」
しかしカレンは全く物怖じする様子はない。そんな少女の姿に、怒り狂ったハティルが猛突進で突っ込んでくる。
「カレンさんッ!!!危ないッッ!!」
マーシャが叫び、カレンも身構えて、反撃の体勢を取る。
だが、ハティルの猛攻がカレン達に届くことはなかった。
【わッたッしッの、カレンッに、なっにっしてんだぁああああああああ!!!!】
「ユキナッ!!って、……え?」
降り落ちるユキナの前方から、怪物の全身を覆い隠す程の巨大な炎の肉球がハティルの頭上に降り注ぎ―――その身を跡形もなく消滅させた。
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